原作サイドパラレル─真章─

□やきもち
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「ん。これでいいわね」
買い物も最後の用品を買い終えて、買うものを書いたメモを確認してから、Mr.ブシドーと船に戻る為に船の停泊場に足を向けた。
「……あ」
「ん」
噴水のある広場に出た時、ふとサンジさんに調味料を頼まれていた事を思い出して。
「ごめんなさい、Mr.ブシドー。忘れ物したから、ちょっとここで待っててくれる?。すぐ戻るから」
「なんだよ。さっきメモ見て確認してたんじゃねぇのかよ」
振り向いてきたMr.ブシドーに足を止めて言うと、Mr.ブシドーも足を止めた。
「サンジさんに頼まれてた物忘れてて」
「…待てよ。一人で行動するな」
「ううん、すぐそこだから大丈夫。荷物お願いね」
私の身を気にしたMr.ブシドーと噴水の近くへ行って、自分で持ってた荷物一つを、噴水を囲むモルタルの囲いの、イス状になった部分に置く。
「なにがあっても絶対動かないでねっ?。いい?w」
「……解ったよ。なら早く行ってこい」
方向音痴のMr.ブシドーだから、一人にさせて勝手に動かれたら探さなきゃならなくなって大変だから、本当は一緒に行きたいけど。
でもかなりな荷物を持ってるから一緒に戻らせるのもなんだか悪くて。
一人にさせる不安はあるけど、念入りに釘を刺して、さっき通りすがりに目には入っていたスパイス専門店へと走って向かった。

「ごめんなさい、待たせちゃ───」
サンジさんに頼まれた調味料は珍しいスパイスで、配合に少し時間を取られて。
Mr.ブシドーが勝手に歩き回ってないか心配しながら走って噴水の場所まで戻ったら、ちゃんと噴水を囲むモルタルのイスに荷物を下ろして、両肘を背凭れに掛けながら座ってるMr.ブシドーが見えて。
(…………)
でもその周り、人が数人立ち止まってる。
それが見えて、自然にゆっくりと足が止まった。
(…………)
なんか胸に違和感がある。
Mr.ブシドーからわりと離れた、でもMr.ブシドーを囲むみたいに立ってるのは、みんな私やナミさんくらいの歳の女の子。
その、Mr.ブシドーを見ながら足を止めてるその子達を見ていて、なんだか胸に違和感を感じる。
Mr.ブシドーを見ているその女の子達の表情は、見とれてるという表現がぴったりくる程で。
頬も少し赤みを帯びている。
(…………)
Mr.ブシドーはそれには気付いてないのか、なんか顔を真っ直ぐ上げて空を見上げてて。
でもモヤモヤする。
(………あ…)
一人の女の子がMr.ブシドーに近付いていく。
頬を赤らめて、どこか恥ずかしそうに。
それでもMr.ブシドーに話し掛けた。
(…………)
なにか話掛けてる女の子に、首を下ろしたMr.ブシドーは無表情で、でもなにか話返している。
それにモヤつきが湧いた。
湧いてる。
Mr.ブシドーの側に女の子がいる。
それがモヤモヤして。
「…Mr.ブシドー!」
「あ…?」
思わず大きめの声でMr.ブシドーを呼んだら、Mr.ブシドーとその女の子、そして周りの女の子も私の方を向いてきた。
「なんだよ。いきなりでけぇ声出してよ」
Mr.ブシドーに近付いた私に、とぼけたみたいな顔で言ってくるMr.ブシドー。
そのMr.ブシドーの手にMr.ブシドーが下ろした荷物を持たせて、自分の荷物を自分で持った。
「行くわよっ!。早く帰らないと晩ご飯に間に合わないんだからっ!」
「おい?。…………」
片手に荷物を持ち直して、空けた片手でMr.ブシドーの腕を掴んでイスから立たせて、その場から離れる。
後ろからは女の子達の視線とヒソヒソ声が聞こえるけど、気にしないで足を進める。
(─────)
モヤモヤとムカムカが混ざり合った気分のまま、Mr.ブシドーの手を引いて歩く。
「………。どこ行く気だよ」
「どこって船に帰るのよっ!。決まってるでしょっ!?」
それまで何も言わずについてきていたMr.ブシドーが声を出して。
その声に、胸のモヤつきで荒いだ声で返した。
自分でもなんでこんなに苛つくのか解らない。
解らないけどイライラする。
Mr.ブシドーに女の子が近寄ってた事。
Mr.ブシドーが女の子と話してた事。
それが、こんなにもイライラする。
「────。───……。…………」
町から出て、林に挟まれた道を歩いていて、やっと気分が落ち着いてきて。
なんとなく足を止めた。
Mr.ブシドーはずっと何も言わないまま私についてきてただけで。
その連れ回していたMr.ブシドーの土を踏む足音も止まった。
「………、気は済んだか?」
後ろからしてきた声に、ちょっとムッとした。
(…なによ…)
私と買い出ししてたのに、女の子に声掛けられて。
話し返してた。
…そりゃ…、話し掛けられたら返事もしないといけないだろうけど…。
…でも…。
「……なんで私の前で他の子と話すのよ…」
出した声は怒りを含んでて。
喉に引っかかる感じで、上手く声が出なくてなんだか低い。
(…………)
面白くない。
モヤつきが戻ってきて。
Mr.ブシドーの顔を見たら、その怒りが爆発しそうで、背中を向けたまま振り返れない。
「…………。……まさかおめぇに妬かれるとは思わなかったよ」
「────」
Mr.ブシドーに言われて、初めて自分が妬いてた事に気付いた。
このモヤつきの、苛つきの名前が解って。
自分がMr.ブシドーに『やきもち』焼いた事に、自分で驚いた。
「……Mr.ブシドーが何もしないからでしょ…」
出した声はまだ低くて。
でも苛つきは消えた。
「…追い払いもしないし…」
「………。そりゃどうでもいいからな」
(…………)
「どうでもいい女なんざ、居ねぇのも同じだろ」
(…………)
振り向いて見たMr.ブシドーは真顔で私を見てて。
「(…///)。……ん…///…」
Mr.ブシドーのその同意するしかない言葉に、やきもち焼いた事をMr.ブシドーに覚られた事がなんか恥ずかしくて、俯きながら返事した。
「で?」
「え…?」
俯いてる上から本当に一言だけ聞こえた声に上を向くと、一瞬目が合ったMr.ブシドーが顔をきょろりと動かした。
「こんな所まで引っ張って来たが、帰る道解るのか?」
「う?w」
言われて辺りを見回して、でもこんな道は、船から通ってきた道じゃなくて。
あの女の子達から早くなるべく離れたくて、怒りに任せて闇雲に歩いてきたけど、変な方向から町を抜けてしまった。
「……だ、大丈夫よw。町に入ったら町並みで道順覚えてるし…w。いざとなったら誰か人に道を訊けばいいしw」
「ならいいがな。じゃあ戻るぜ」
「!w。そっちじゃないわよMr.ブシドー!w」
すぐ後ろに町の入り口があるのに横の林に入っていこうとするMr.ブシドーの腕を慌てて掴んで。
(…う……//////…)
その太さになんか感じた。
逞しいと言うか、頼りがいがあると言うか。
いつも見てる腕なのに。
さっきまで平気で掴んでた腕なのに。
なんか手に触る筋肉の固さとか皮膚の感触とか体温とか。
意識しちゃって、思わず手を離した。
「…なんだよ?」
「ぅ…//////。…な…なんでもない…//////…w」
なんかMr.ブシドーの顔が見れなくて、私を見てくるMr.ブシドーから顔ごと目線を逸らした。
(………好き…?//////…)
なんか違って。
さっきまでとなんか違う。
Mr.ブシドーが見れなくて、なんかナミさんにMr.ブシドーの事勧められた時と同じ、気恥ずかしさに似た気分がする。
(………好きなの…?//////…、私…//////…)
Mr.ブシドーの事。
…好きになってる…?//////。
「…………。なんかまた変になってねぇか?。おめぇ」
「…//////」
Mr.ブシドーが言ってるのは、あの時の事を言ってるんだろうと解る。
Mr.ブシドーと付き合う事を決めたあの日。
自分で思っても変だったあの日の事。
「………Mr.ブシドー…//////…」
「あ?」
「私……//////…」
信じられないけど…。
自分がMr.ブシドーの事好きになったなんて、信じられないけど…///。
「…私……、あなたの事好きになったかもしれない…//////…」
「…………」
Mr.ブシドーから返事は返ってこなくて。
でも私がやきもち焼いてると覚られた時点で、もうそれとなく解られてたんだろうと思う。
「……好き…//////」
初めて口にした好意の言葉。
生まれて初めて、異性に言った好意の言葉。
それを言った自分の声は小さくて。
でもMr.ブシドーには伝わったと思う。


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