原作サイドパラレル─真章─

□ぬいぐるみ
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「わぁ、かわいい」
買い出しの途中、露天のシートの上に置いてあった小さな、手に乗るサイズのカルガモのぬいぐるみ。
小さかった頃のカルーに似てて、ちょっと欲しくなった。
けど、
(…ん〜w)
出して覗いてみた財布の中のお金は足りるけど、これはみんなの共有財産だし、他の海賊みたいにこっちからふっかけて奪う訳じゃなく、みんならしく喧嘩を売ってきた海賊から戦利品として取る滅多に手に入らない収入だから、一ベリーも無駄遣いは出来ない。
「…なんだ。買わねぇのか」
欲しいけど余計な出費は控えなきゃいけないから、初めて『欲しい』と思った物だけど諦めて、店の人に謝ってぬいぐるみをシートの上に戻したら、後ろからMr.ブシドーが訊いてきた。
「ん…⊃。余計なお金使っちゃいけないだろうし、ナミさんにも怒られちゃうかも…w」
「たった600ベリーだろ。そんな程度であいつも文句は言わねぇだろ。それにあいつの化粧品に使う金の方がよっぽど無駄金だ」
「お、兄ちゃん上手い事言うじゃねぇか。うちのかみさんもこんな小せぇ小瓶に何千ベリーも平気で払うくせに、こっちには無駄金使うなと文句の嵐だ。全く女ってのはどうしてああ勝手なんだか…。お嬢ちゃんはそんな大人にゃなるなよ。お嬢ちゃんは別嬪さんだから、化粧なんざいらねぇよ」
「…はぁ…w、ありがとうございます…w」
一応誉められたけど、私もそのナミさんの高い化粧水借りて使ってるから素直には返事出来なくて。
(…………)
おじさんに相槌を返して、立とうと思いながらもシートに戻したカルガモのぬいぐるみをしゃがんだまま眺める。
「……欲しいんじゃねぇのか」
「え…。…ん⊃」
欲しい気持ちと無駄遣いしちゃいけない気持ちが混ざり合って、曖昧ながら同意の返事をしてしまった。
「ならこれ使え」
「え…?」
両手に持つ荷物を片方地面に置いて、腹巻きを探り始めたMr.ブシドーを見ていると、小さな巾着が出てきて。
その口を開けて手の平の上で逆さにしたら、小銭がチャラチャラと幾つか出てきた。
軽く振って、打ち止めらしくそれ以上出ない巾着をまた腹巻きに仕舞ったMr.ブシドーが、手の平のお金を数えだして。
「オッサン、これ貰うぜ」
「ん、悪ぃな。お嬢ちゃん可愛いからただでやりてぇが、こっちも商売なんでね。まいどあり」
出したお金と引き換えに、シートの上のぬいぐるみを摘み取って、私の前に持ってきたMr.ブシドーから、そのぬいぐるみを受け取った。
「行くぞ。早く戻らねぇと雨が降りそうだ」
「ん、ちぃと多いぜ兄ちゃん。待ちな、つり返すから」
「いらねぇ。どうせはした金額だろ。チャラチャラ邪魔になるだけだ。オッサンとっとけよ」
「…そうか?、悪ぃな。まいど」
「あ…⊃⊃。あ。す、すみませんでしたっ⊃⊃。長々とお店の前にいちゃってっ⊃⊃」
地面に置いた荷物をまた取って歩き出したMr.ブシドーに慌てて立ち上がって、あとを追おうとした足を止めて、商売の邪魔しちゃった事を謝った。
「なぁに、買ってくれたんなら文句はねぇさ」
「ありがとうございましたっ⊃⊃」
お礼を言って、もう大分離れてしまったMr.ブシドーのあとを追いかけた。

「Mr.ブシドー、あのお金…w」
Mr.ブシドーに追いついて、Mr.ブシドーがお金持ってた疑問を、顔を見上げて訊くと、Mr.ブシドーがちょっと顔を動かして、目を私に向けてきた。
「…あいつらと航海するようになってから、今まで買い出しで寄った町で拾ってきた金だ。貯めりゃちぃと上等な酒でも買えるかと貯めてあったが、なかなか貯まりゃあしねぇしな。ナミに見付かりゃ没収されるだろうし、奪われるなら使った方が有意義だろ」
「…………。………」
訊いた私に顔を向けて、また顔を前に戻して言ってきたMr.ブシドーから、手の中のぬいぐるみに顔を下ろす。
カルーに似ててかわいいぬいぐるみは、初めて本当に欲しいと思った物品だった。
だから嬉しい。
初めて欲しいと思った物が手の中にある事。
「……ありがとう、Mr.ブシドー」
拾ったお金だけど、買ってくれたから。
私が初めて欲しいと思った物、買ってくれたから。
「礼はあの金落とした奴らにするべきだぜ」
「………、それもそうね…。でも誰が落としたか解らないし…。……じゃああなたが代わりに代表で受けておいて」
「………。ああ、なら受けといてやるよ」
「ええ。……ふふっ」
Mr.ブシドーからまたぬいぐるみに顔を移して、船に帰ったらフェルトでヘルメット縫ってカルーとお揃いにしようと、正面から見るぬいぐるみの顔を見ながら想像に笑った。


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