原作サイドパラレル─真章─

□二日目
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(はぁ…)
夕べは胸がドキドキして、あまり眠れなかった。
一晩経って、青い海と海鳥、何もない水平線を眺めながら、胸の高鳴りに嬉しいため息が出る。
まだ少し信じられない気分。
私はまだ船に乗ってる。
アラバスタは取り戻したのに。
もしかしたらあれは夢で、まだアラバスタへ向かってる最中なんじゃないかって、今朝目が覚めた時にそんな風に思っちゃったくらい、まだ信じられなくて、そして嬉しくて。
船に誘ってくれたみんな。
カルーも一緒に、まだこの船に乗ってる。
乗れてる。
それが嬉しくて。
これからどんな冒険が待ってるんだろうと思うと、高鳴る胸が益々高鳴る。
「ふふっ。ん……」
後ろから聞こえるルフィさんとカルーのはしゃぐ声に笑いながら水平線から目を離して振り向こうとした時、船首デッキの上で逆立ちで腕立てをしているMr.ブシドーが視界に入った。
(………)
Mr.ブシドーはどう思ってるんだろうと思う。
私が船に残った事。
昨日から一度も、Mr.ブシドーとは話をしていない。
少し近寄りがたくなったから。私が船に残った事を、あまりいい気分はしてないんじゃないかと思えて。
(…………)
彼は最後まで私が船に乗る事を反対していた。
私は王女だから。
彼は案外真面目だから。
だから私がアラバスタに残らなかった事、船に乗る事を選んだ事を気に入らなかったんじゃないだろうか。
彼は物事に冷めてる部分があるから。
もう協力する必要のない私を心の底から仲間だとは思ってないんじゃ…と思えて。
(…………)
元々他のみんなとみたいにしょっちゅう話したりはしなかったけど、でも戦い方を教わったり、時には二人だけでお酒を飲んだり。
彼もちゃんと仲間だった。
私の仲間でいてくれた。
(…………)
今のMr.ブシドーはどう思ってるのか解らないけど。
私はちゃんと、これからもMr.ブシドーとも仲間でいたいから。
自分から近付こうと思った。
話そうと思った。

「…Mr.ブシドー」
「ん…」
トレーニングが終わったのを見て、声を掛けたら振り向いたMr.ブシドー。
「ちょっとだけ話…してもいい…?」
「?。なんだ」
汗を拭いたタオルを肩に掛けて、シャツに腕を通しながらのMr.ブシドーの問いに、
「うん…。別にこれといった話はないんだけど…」
ちょっと気後れしながら答えた。
彼に話掛けるのは戦いの手解きを教わる時が多くて。
Mr.ブシドーが話し掛けて来ないのは、もう私に戦いの手解きを教える必要がなくなった事も理由にあるんだろう。
だからやっぱり、彼にとっては私はもう仲間だけど絆は薄れた、ただまだ仲間でいるだけの存在なのかもしれない。
「あのね…?。正直に言って…?」
「?。何がだ?」
甲板の床に座って、私の前で胡座をかくMr.ブシドーを見ながら口を開く。
「Mr.ブシドーは、私が船に乗り続けてる事、どう思ってる…?」
「あ?」
言った瞬間、Mr.ブシドーの表情が意味が解らなそうな表情になった。
そのMr.ブシドーに続ける。
「怒ってる…?。それとも気に入らない?」
「…………」
「…それとも…、なんとも思わないくらい、どうでもいい…?」
「………。なんだよ、そりゃあ」
幾分怪訝な顔で僅かに眉間にシワが寄ったMr.ブシドーに、でも怒りや不快感の表情じゃない事は解る。
強面のこの彼の表情の、それでも僅かな違いで彼の感情が解るように今までの1ヶ月でなっていた。
それくらい、彼も私にとってはたった1ヶ月でも深く気心の知れた仲間なのだ。
…それでも彼の真意までは解らない。
彼が私をどう思っているのか解らない。
「Mr.ブシドーは最後まで私が船に乗り続ける事、よく思ってないみたいだったから」
「…………」
「昨日から全然話したりもしないし…。元々私達みんなみたいにあんまりお喋りしたりはしなかったけど…」
「…………」
「……なんか…私が船に残った事気に入らないから、気にも留めないんじゃないかって…思って…」
私の話を黙って聞いてるMr.ブシドーに、なんだか言ってて気が沈んでくる。
私の思ってる不安が、本当に当たっていそうで。
「………。俺が気に入らなかったのは、俺を除外しておめぇを船に乗せる算段してやがったあいつらの考えだ。別におめぇが船に乗り続ける事を気に入らなかった訳じゃねぇ」
「…………」
でも、言ってきたMr.ブシドーの言葉で、沈んでた気持ちが少し浮いた。
「国に残るか、船に残るかを決めるのはおめぇだ。そのおめぇが船に乗り続ける事を選んだ。だったらそれでいい。俺が気にする事じゃねぇ」
でも、続いてきた言葉に、また気持ちが固くなる。
「……それは私がもうMr.ブシドーにとってただ仲間としてだけ乗ってる存在だから…?」
「………。どういう意味だ?」
その気持ちの固さのまま言った言葉に、Mr.ブシドーの声が少し傾いた。
「…言葉の通りよ…。仲間だけど、仲間って言葉だけ。もう仲間の言葉も剥がれそうなくらい薄っぺらく私の事思ってるから、私がどっちを選んでもよかったんじゃないの…?」
「……何言ってんだ?。お前」
「あ…勘違いしないで?。別に責めてる訳じゃないの。ただ…ちょっと寂しいだけだから…」
益々声の傾いたMr.ブシドーに誤解させないように先に誤解を解いて、本心を口に出した。
「正直ね…?、Mr.ブシドーは冷めた部分があるから、私の力になってくれる必要がなくなったらもう私の事仲間として考えてくれてないんじゃないかと思ってるの…」
「…………」
「私はMr.ブシドーの事も大事な仲間だと思ってる。これからもずっとそれは変わらない。…だからMr.ブシドーにも仲間だと思ってて欲しい。ずっと仲間でいて欲しいと思ってる…」
「…………」
「…………」
「……俺はそんなに薄情に見られてるのか?」
「あ…っ。ち、違うわっ!?w⊃⊃。そういう事じゃなくてっw⊃⊃」
シレッとした顔ながらも、声に疑問が混じってて。
どこか心外だと言いたげなその声に、慌てて弁解した。
そしたらMr.ブシドーが視線を空の彼方へ向けて、頭に軽く手を当てた。
「…まぁ、気持ちは解らねぇでもねぇがな。俺の言動はおめぇやあいつらから見りゃ淡々としてるだろうからな」
「う……、…ん…⊃」
そのMr.ブシドーの言葉に、躊躇いながらも同意して。
ちょっと俯いた視界に、Mr.ブシドーの手が胡座の膝に戻ったのが見えて、顔を上げると、Mr.ブシドーの目はまた私に戻っていた。
「…確かに俺は物事に執着は少ねぇよ。…だが一旦命を預け合って仲間になったんなら、どれだけ離れたとしても…、もし今おめぇが国に残っていたとしてもおめぇは俺にとっても掛け替えのねぇ仲間だ。手を貸す必要が無くなった、ならそれで終い、ただの仲間って呼び方だけの存在。そんな風にゃ思わねぇよ」
「───。…Mr.ブシドー…」
Mr.ブシドーの言葉に、思わずじわりと涙が滲んだ。
Mr.ブシドーの気持ちが嬉しくて。
Mr.ブシドーの言葉が嬉しくて。
そして、まだ私を仲間だと思ってくれてるそんなMr.ブシドーを信じていなかった自分をバカだと思った。
「ま…、正直おめぇは国を選ぶとは思ってたがよ」
「ん…。………⊃」
責められてる訳じゃなさそうだけど、そうにも取れる言われた事に滲んでた涙が消えて、気が沈んで俯いた。
「だが俺も100パー国に残って欲しいと思ってた訳でもねぇ」
「、。…Mr.ブシドー…?…」
でも次に来た言葉に俯いていた顔を上げると、私を見るMr.ブシドーの淡々とした顔の口の端が、僅かに上へと曲がった。
「おめぇは色々と面白ぇからな。おめぇが居りゃ船の上も賑やかで退屈はしねぇし、俺もおめぇともうちぃと一緒に酒呑んだり話がしてぇと思ってた」
「………。…Mr.ブシドー……」
Mr.ブシドーも私が船に乗り続ける事を望んでいてくれていた。
それが解って、Mr.ブシドーの口から直接聞いて。
一度消えた涙がまた滲んだ。
「おめぇは仲間だよ。これからも、いつか船を降りても、おめぇはずっと仲間だ。俺にとってもな」
「〜〜〜〜〜うん…っ」
嬉しくて、溢れてきた涙が止まらなくて。
ボロボロ泣く私に、優しい、穏やかな声で言っていたMr.ブシドーがタオルを差し出してきた。
受け取って顔を埋めたそのタオルはちょっと汗で湿ってたけど。
嬉しかったから、そんな事もあまり気にはならなかった。


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