ボツ作品部屋

□真章・番外編─珍事件4─
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「……あのバカ……」
あの寒ぃ中、毛布無しで見張りしてやがる。
上着は着てたが。
「…………」
考えるより、毛布掴んで外に出た。
「うおっ、寒ぃっ!w」
ドア開けた途端に、寒さが風呂で温もった肌を刺してきて。
雪は止んだみてぇだが寒さは変わってねぇで、たまらず毛布にくるまって、メインマストの下まで行った。
「おい!、ビビ!」
「Mr.ブシドー…?」
見上げて呼んだマストの上、ビビが穴から覗き込んできた。
「…………」
寒そうに腕を抱いて、やっぱり上着以外の防寒はしていねぇ。
「…………」
体に巻いてる毛布が落ちねぇように歯で噛み留めながら、マストを登る。
「どうしたの?⊃⊃。せっかく温まったのにまた冷えるじゃない⊃⊃」
「……俺が毛布取っちまったら、おめぇが寒ぃだろうが」
やっぱ寒さは身に凍みる。
だが毛布があるだけ、まだ耐えられる寒さにゃあなった。
「それにあんなとこで俺が寝てて、おめぇが見張りしてんのナミかクソコックに見つかったらまた何言いやがるか解ったもんじゃねぇからな」
「でも湯冷めしたら…⊃⊃」
「そこまでヤワじゃねぇ。毛布がありゃあ充分だ」
現に今毛布一枚被ってるだけだが、そこまで寒さも気にならねぇし充分事足りている。
「おめぇはもう降りろ。ナミの奴が起きた時、おめぇが居なけりゃまたうるせぇだろうからよ」
「……大丈夫よ。ナミさんだって解ってくれるわ。それに、Mr.ブシドーが私に近付いちゃダメって言われたのは、昨日一日だもの。もう日が変わったから、もう無効よ」
「……まぁ、そりゃそうだが…」
微かに笑うビビに、目を女部屋の方に向ける。
その屁理屈が通じりゃいいが、あいつは変に頭が固ぇ時があるから。
またごちゃごちゃ言われた時、被害を被るのは俺なんだが…。
「…私がいちゃ邪魔?」
「……そんな事誰も言ってねぇだろ」
見上げてくる顔に目を戻して返すと、ほんの微か、安心したみてぇに笑った。
「……ならほれ、おめぇも被って後ろ見張れ」
「ええ」
前後で見張りゃあ効率的だろうと、一瞬の寒さを覚悟して毛布を取り、ビビに被せててめぇも再度くるまる。
背中を着けあって座り、夜の海に目を向けた。
(ふぅ…)
やっぱり毛布があると違ぇ。
おまけにビビも入ってるから、二人分の体温が毛布の中に籠もって温ぃ。
背中にも上着を着たビビの背中が着いて、その部分も温ぃ。
「寒くない…?、Mr.ブシドー」
「おう。さっきに比べりゃ天国だ」
「くすっ」
背中越しに訊いてきた言葉にナミへの皮肉混じりに返すと、軽い体の揺れと同時にちぃと可笑しげな笑いが聞こえた。、
「……ねぇ…Mr.ブシドー…」
「あ…?」
「……私……女としての魅力…ない…?」
「あぁ?」
夜の海を見ていると、小さめの、どことなく落ち込んだみてぇな声でのビビの質問に、ちぃと振り向いてみた。
あんま動くと寒さが毛布に入ってくっから、マジでちぃとしか振り向けねぇで。
見えたのは、ビビの吐く白い息と、頬の辺り。
それしか見えねぇ。
「なんだよ、その質問は」
唐突な質問に意味が解らず、だが今までの続きの話の事だという事は解った。
「…Mr.ブシドーが私の内面を見てくれてるのはちゃんと解ったし、男でも女でも同じって思ってくれるくらい私の事想ってくれてるのは嬉しい…」
「…………」
「でも…やっぱりショックだった…。女でも男でも同じって言われた事…」
「…………」
「ほんとに男でも女でも同じなの…?。男の体でも同じ…?」
「………そりゃあ…」
訊かれて思う。
俺だって出来りゃあ女のこいつの方がいい。
男の体でいなけりゃならねぇのならそれでも構わねぇが、やっぱりどっちかと言やぁ、女の体の方が、本来のこいつの姿の方がいい。
「…やっぱ女のおめぇの方がしっくりくる」
「本当…?」
「おう」
頭に浮かぶ姿。
女の姿のこいつ。
「……俺が今まで見てたのは女のおめぇだしな…」
「………。…ん……」
「…………」
また声が沈んだ。
ちぃと気に入らなさげな声。
また何か言い方がおかしかったのか。
「…………」
どう言やいいのか、こういう時ゃあ…。
(……ん…)
思った事……。
……思ってる事…。
頭の片隅でふとした時に…思う事…。
「………おめぇは………」
「…?。…なに…?…」
こんな事を口に出すのは初めてだが…。
思うのも。
こいつ以外にゃ感じねぇが。
「………きれいだからよ……」
「…………」
初めて口に出した言葉だが…。
「Mr.ブシドー…///」
ちぃと振り向いたのか背中が動いた事に、ビビが俺を見ているのが解る。
「…だからよ…、…女の方がいい…」
「…うん…」
空を見ながら言った後ろで、それに返したビビの声は穏やかで、どこか嬉しそうだった。

「……ん………、あっ!?」
「ん……?……。……んあ…?…」
いつの間にか寝ちまってたのか、ビビの声が聞こえて意識と目が覚めて。
辺りはぼんやりと明るく、僅かに朝日が頭を出している。
「、ん…。…どうした…?」
そういやビビの声で目が覚めた事に気付いて、毛布にくるまったまま、後ろのビビを振り返った。
「…戻ってる…」
「あ?。、」
後ろのビビから呆けたみてぇな声が聞こえて、だがその声が戻っている事に気付いて。
「体っ、元に戻ってるわっ!?、Mr.ブシドーっ!」
「…………」
毛布の中、後ろで俺に体ごと向いてきたビビのその顔は、女の顔に戻っていて。
マジで小せぇ魚だったから、効果も弱かったんだろうか。
……まぁとにかく。
「ああ。良かったじゃねぇか」
やっぱり女のこいつの方がしっくりくると、まつ毛も伸びた見慣れたビビに感じる安堵感に口の端が上がって。
てめぇの物言い一つがてめぇの首を締めるって事も、今回の事で思い知った。


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