ボツ作品部屋

□真章・番外編─珍事件3─
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「〜〜〜〜〜」
「…………」
穴のすぐそこまで上がってきて上を見たビビと目が合って。
「…………」
何も言わねぇまま、そこから毛布を持ち上げて渡そうとしてくる。
「〜〜〜〜〜」
それを取ろうとしてぇんだが、あまりの寒さと、体を抱いたままその寒さに耐えてた為に、体が硬直して動かせねぇ。
手すら出ねぇで、
「〜〜〜もっ、もってっ、きっ、きてっ、〜〜〜」
口が勝手に震えっから、歯がガチガチいうだけで、上手く喋れねぇ。
「…………」
だがどうやら伝わりはしたらしく、無言で見張り台の上まで上がってきたビビが前に立つ。
だが、首が戻せねぇで、前も向けねぇし、上も見上げられねぇ。
「〜〜〜〜〜」
ふいに頭を叩かれた。
叩かれたと思った。
だがそれは叩かれたとも言えねぇ、撫でるよりは強ぇ程度の触り方で。
そしてバサバサと音を立てて雪が落ちていく。
頭に積もってる雪を払われてる。
そう解った次には、肩に積もった雪も払われる。
バサリと音がした。
毛布が来ると思った。
「〜〜〜!?〜〜〜」
が、覆い被さってきたのはビビだった。
毛布を頭から被って覆い被さってきてんのか、視界が真っ暗になる。
温いんだか何だか解らねぇ。
冷えすぎて、寒すぎて。
体の震えも、歯のガチガチも止まらねぇ。
「〜〜〜〜〜」
背中をさすってる。
じんわり感覚がある。
微かに温い…気がしてきた。
女の時の体面積より幅が広ぇから、俺に当たる部分も多い。
その部分にもじんわりと温さを感じるようになってきた。
「…お風呂」
(〜〜〜?〜〜)
「すぐ入れるようにしてあるから」
「〜〜〜…おっ、〜〜」
『おう』と言おうとしたが、『お』しか出ねぇ。
「〜〜〜〜〜」
ふと思った。
なんで来れたのか。
こいつが言っても、ナミが止めるだろう筈なのに。
「〜〜〜なっ、でっ、こっ、れたっ、〜〜」
「…ナミさん眠ったから…」
返ってくる、男声。
震えでしっかり言えてねぇってのに、よく解るもんだ。
「ナミさん眠るまで待ってたから…、来るの遅くなった…」
「〜〜〜きっ、来たっ、かっらっ、〜〜いいっ、〜〜」
背中に当たる手。
腕ごとさすってくる。
「〜〜〜〜〜」
(……………はぁ…)
ちぃと温まってきた。
まだ腹の底から震えがくるが。
「…動ける…?」
「〜〜まだ…っ、無理…っ〜〜」
なんとか喋れる。
だが動けねぇ。
マジで凍っちまったみてぇだ。
まだしっかりとは感覚がねぇ。
情けねぇが、こいつが来なけりゃマジで死んでたかもしれねぇ。
それくれぇ、体は限界だったらしい。
「〜〜も…っ、怒って…っ、ねぇのか…っ〜」
「………さっきまでは怒ってた…」
「〜〜〜〜〜」
「でも謝ってくれたからもういい…」
「〜〜〜」
確かに俺は詫びた。
だが、理由は解ってねぇ。
理由は解ってねぇってのに。
こいつは詫びりゃあそれでいいと言う。
こいつも俺が理由も解ってねぇまま詫びたって事、解ってる筈だろうに。
「〜なんで…っ、怒ってた…っ〜」
理由を訊いとこうと思った。
一応、知っときてぇ。
「……Mr.ブシドーが、私が女でも男でもいいって言ったから」
「〜〜〜」
「…関係ねぇって言ったから」
そんな事でか…?。
「…一緒なんでしょ…、Mr.ブシドーには私が女でも男でも…」
そんな事で怒ってたのか…?。
「〜〜ああ…っ、同じだ…っ〜」
「…………」
また怒ったのが気配で解った。
なんでそんな怒るのか。
怒るような事なのか。
「〜女でも…っ、男でも…っ、いいじゃねぇか…っ〜」
「………っ」
シャツが握られた。
握り締めている。
「〜おめぇは…っ、おめぇだ…っ〜」
「…………」
「〜〜〜〜〜」
言った瞬間、手が緩んだ。
シャツを握り締める手が。
「〜俺には…っ、関係ねぇ…っ〜」
「……Mr.ブシドー……?…」
「〜男でも…っ、女でも…っ、おめぇは…っ、おめぇ…っ、なんだから…っ〜」
「…………」
「〜俺には…っ、どっちでも…っ、変わら…っ、ねぇんだよ…っ〜」
「…………」
「〜おめぇが…っ、おめぇなら…っ、女でも…っ、男でも…っ、俺は…っ、関係ねぇよ…っ〜」
「…………」
またシャツが握られた。
「……どうして最初からそう言わないの……」
「〜〜〜〜〜」
声が暗ぇ。
まだ怒ってんのか。
「…最初からそういう言い方しててくれてれば…、こんなに寒い思いしなくてよかったのに…っ」
「〜〜………〜」
詰まる声。
ツラそうな。
そういう言い方ってのはどういう意味なんだ…?。
「〜〜どういう意味だ…っ〜〜〜。〜そう言う言い方って…っ〜〜〜」
「……私は…っ、Mr.ブシドーが私が男でもどうでもいいって…っ。私の事ちゃんと見てないって…っ、ちゃんと『女』として見てないって…っ、だから男でもいいって…っ。ちゃんと見てないから…っ、関係ねぇって…っ、言ってるって…っ」
「〜…………〜」
『関係ねぇ』
俺の言ったその意味は、見た目が変わってもおめぇはおめぇなんだから、見た目なんざ『関係ねぇ』。
こいつが取ったその意味は、俺がこいつをどうでもよく見てる、だから男だろうと女だろうと『関係ねぇ』
「そう取ったから…っ。だから…っ」
「〜…………〜」
そうだったのか…?。
だったらてめぇの言い方のせいでこんななってんのか…?。
なら…やっぱり自業自得なのか…?。
「…ごめんね…っ…、寒い思いさせて…っ…」
「〜…………〜」
やっとなんとか首も動かせるようになって。
見上げたビビの顔にゃあ、ツラそうな表情が滲んでいた。

『どう?、お湯加減』
「おう、最高だ。生き返った」
芯まで冷え切ってた体が芯まで温まってきて、極楽なんて言葉が浮かんだ。
『じゃあ、今度は私が見張り代わるから。Mr.ブシドーは湯冷めするから、今日はここで眠って?。ここなら外より寒さもましだから』
「おう」
ドア越しのビビの声に返事して、心行くまで湯に浸かる。
「…………」
風呂場から出ると、ドアの横に毛布が畳んで置いてあった。


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