─獅子と鳥─

□決着
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「ここにママが眠ってるの」
ビビと共に、ビビの町から半日掛けて来たのはオアシス。
乾ききった砂漠の中に存在するとは思えねぇ、瑞々しい緑とその中心に湧き出る澄んだ水を湛えた泉。
まさに王妃が眠るに相応しい墓所。
そのオアシスを懐かしげに、ちぃと寂しげに眺めるビビ。
その横に立ちながら、王妃に誓う。
これ以上失わせねぇ。
これ以上、ビビから大事なもんを失わせはしねぇと。
(…………)
気配。
嫌という程身に覚えのある、纏わりつくみてぇなどす黒い気配。
「よう…。墓参りとはいい心掛けだな、ビビ」
「!!」
「────」
背後から聞こえた風の渦巻く音と声。
それに弾かれたみてぇに振り向いたビビについて、ちぃと振り向いて視線を後ろへと向ける。
砂のつむじ風。
それが間を置かず人型になる。
黒の毛皮のコートに、鉤爪の左手。
辛気臭ぇ目に、胡散臭ぇ笑いを湛えた男。
俺のプライドを踏みにじり、ビビから翼を奪った、忌々しい鰐。
「探したぜ。花嫁を迎えに町に行ったが、おめぇの誕生日パーティーはしていなかった」
「!!。まさかまた町のみんなに何か!!」
「ま…、それでもよかったがな。今日の目的はあくまでおめぇだからな、ビビ。だがそいつは別だ」
陰湿な目がビビから俺に向いた。
そのじとりとした目にゃ、確かな殺意が宿っている。
「丁度いい。ついでにここをその邪魔な獅子の墓にもしてやろう。そんな薄汚ぇ異端の墓にゃこんなオアシスはちぃと勿体ねぇが、まぁいいだろう。その方がビビ、ここへおめぇを連れてくる度に悲しみに歪む顔が見れそうだからな」
「っ…!!!」
「ビビ、離れてろ」
「!。ゾロさん……」
好き勝手言って笑ってやがる鰐からビビを後ろに下がらせ、牙を抜く。
和道、鬼徹、雪走。
それを構え、鰐を見据える。
俺の敵。
俺のプライドを踏みにじり、ビビから翼を奪った鰐。
「おおっ!!!」
砂になるなら、なる前に斬り刻んでやると、瞬発で踏み込む。
「!!!」
だがやはり攻撃は意味を無さねぇで、一瞬手応えに触れた刃から次に伝わるのは、空を斬る虚しい感触。
「惜しいな。もう数秒足りねぇ」
(ち…っ)
「愛しのお姫様のガードがガラ空きだぜ?」
「っ!!」
鰐の嘲笑いの混じる言葉に、ビビに目を向けた。
それに迫るのは、鰐の腕から離れた鉤爪。
「っ!!!」
「ビビ!!」
自分に迫る危機に、オアシスに逃げたビビ。
その背後に鰐の鉤爪が追い迫り、
「きゃあっ!!!」
泉の中、水しぶきを散らしながらビビが鉤爪に捕まった。
そのビビに手を伸ばし、だがその手が届く前にビビの体が後ろへと引かれた。
「おっと。動くなロロノア」
「っ!!!」
「ぅ……」
鰐の腕の中に捕らえられたビビ。
その首元に鉤爪の先端を向け、鰐が胡散臭ぇ顔で笑ってやがる。
(く……)
ビビを人質に取られ、動きが取れねぇ。
「はっはっは。悔しいな、ロロノア。大事な姫君を人質にされちゃ言う事を聞くしかねぇな」
「ゾロさんいいから!!。私は気にしないで!!。この鰐を殺して!!」
(ビビ…)
鰐の片腕の中で叫ぶビビ。
その姿が、羽をもがれる前の姿と被る。
「くっはっは。てめぇごと俺を殺れってか。泣かせるじゃねぇか。大した自己犠牲の精神だ。だがそんな事は出来ねぇよなぁ?、ロロノア。愛しの姫君を殺るなんざ…」
手を構えた鰐。
その手が砂に変わる。
「砂漠の宝刀!!!」
「!!!」
「ゾロさん!!!」
砂の刃。
それに皮膚と肉が割られ、血が噴き出す。
耳にビビの絶叫が聞こえ、後ろへ倒れようとする体を止められねぇまま、鰐に捕まりながら俺に手を伸ばすビビを見ていた。
「!!?」
不意に倒れ込む体が止まった。
「倒れさせやしねぇぜ」
ニヤリと笑う鰐。
その顔から、てめぇの体に目を向ける。
体に巻き付く砂。
それが俺の体を留めている。
「おめぇにゃ花嫁との誓いのキスを見届けて貰うぜ、ロロノアよぉ?」
「!!!」
「っ!!」
ビビの顎に鰐の手が掛かった。
「ビ───」
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