─獅子と鳥─

□滞在
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「……………」
目の前にゃあ砂の景色。
どこまでも、どこを見ても、おんなじ景色。
敵もいねぇ、喧嘩を吹っ掛けてくる奴もいねぇ。
野晒しになった白骨が砂から覗く、死の世界にも思える灼熱の景色。
「!?」
それを眺めてっといきなり視界が塞がった。
「だーれだ」
「…………ビビ」
「ふふっ、当たり∨」
毎日聞いてる声で判るし、それでなくても俺にこんな事をするのはこいつしかいねぇんだから当たって当然で。
ガキくせぇ事をして喜んでるビビに多少呆れながら、後ろを向いた。
(!?)
目の前にあったのは、布。
ビビの着ている服のスカート。
「うふふっ∨」
「…………」
上から聞こえた笑い声に上を向くと、広げた翼を空気を掴むみてぇに柔らかく動かしながら、俺の上に浮くビビ。
俺を見下ろし、悪戯をして喜ぶこどもみてぇに、楽しげに笑っている。
空の色より淡い水色の髪の毛を風に揺らして。
(………飛べたのか)
まぁ鳥なんだから飛んで当たり前なんだが、こいつが飛んでるところを見たのは初めてだったから、そんな事を思っちまった。
「何見てるの?」
「何も。見るもんがねぇし」
周りの景色は砂漠一色で、代わり映えのねぇ景色。
砂の黄土色、空の青、所々の白骨の白。
それだけの景色。
「ただぼぉっとしてただけだ」
見飽きる程に見たこの景色を見るのも、あと僅か。
傷が治るまでもうちぃと。
後はこの瘡蓋が剥がれるだけ。
「!!?」
「きゃっ!!?」
腕の傷を見てる時にいきなり吹いた突風。
それにビビが飛ばされかけた。
咄嗟にその腕を掴んで引っぱっと簡単に戻ってきたビビの体は羽毛みてぇに軽くて、そんな軽いとは思わなく力一杯引いちまった勢いで自分の胸元にまでビビを引き寄せちまった。
まぁいいと、そのまま飛ばされねぇように抱き込んで、風が通り過ぎるのを待つ。
「……大丈夫か」
「……うん……」
風が止み、あまりの軽さに胸板にほぼ打ち付けるみてぇに引いちまったビビの体がちぃと心配になって訊くと、小さく返事が返ってきた。
「?。なんだ?、顔が赤いぞ?。打ったのか?」
胸板にまず当たったのは確か肩だった気がしたが、体を離して見ると、赤くなっているのは頬で。
「う、ううんっ/////。何でもないのっw/////」
「?」
慌てたみてぇに俺から離れたビビの態度に首を傾げ、まぁ何ともねぇならと空を見上げた。
雲が流れてきている。
ここへ来て、ほぼ2週間ぶりの雨雲。
「雨が来そうだな。そろそろ戻るぞ」
「うん…///w」
空を見上げたままビビに言い、顔を下ろすと、まだ顔を赤くしている。
「……マジで大丈夫なのか?。王女に怪我させたとあっちゃ処刑もんだ。見せてみろ」
「!!/////w。ほっほんとに大丈夫だからっ!/////w。早く戻ろっ!?/////w」
腰を屈めてビビの顔を見ようとすると、更に顔を赤らめて、ビビが町の方に走り出した。
「………?」
ほんとに大丈夫か?と、よく解らねぇビビの反応に首を傾げて、まさか頭でも打ったんじゃねぇだろうなとちぃと不安になりながら、走っていくビビについて町に足を向けた。

窓の外は豪雨。
砂漠でこれだけ降るのも珍しい。
イスに座って、テーブルに肘をついた腕で頬杖つきながら、その雨を眺める。
暇だ。
こんなに一ヶ所に滞在したこたぁねぇ。
熱帯のジャングルで大とかげの巣に迷い込んだ時も、3日程度居たくれぇだ。
死臭と腐り始めた血の臭いの中で過ごした3日はわりと気分もよかったが、こんな快適な、生活臭のする場所での居心地のよさに馴染みそうになっちまってる。
獅子の俺が戦いの場に居ねぇなんざ、いい笑い話だ。
(牙が鈍っちまいそうだぜ)
ちぃと血が疼き始め、だが吐き出す獲物がいねぇ。
こんな時の暇潰しのあいつはあれから全く俺の側に来ねぇ。
「…まさかマジで打ち所悪かったんじゃねぇだろうな…w」
また心配がぶり返してきて、どこ行ったか探しにいこうと、まずは医務室に行く事にした。
「いたっ!w」
「あ!?」
ドアを開けたのとビビが来てたのと同時になっちまったらしく。
「いた〜w」
「わっ悪ぃ!!w。大丈夫か!?w」
鼻に両手を当ててしゃがみ込んだビビに、焦って手を伸ばした。
「だ、大丈夫w。ごめんなさいw」
鼻の頭を赤くしながら苦笑して見上げてくるビビ。
「…マジでさっきも大丈夫だったのか?。頭でも打ってたんじゃねぇのか」
「ううんっ?///w、大丈夫っ///w。なんともないっ///w」
「?」
見たところ変わりはねぇが、コブでも出来てんじゃねぇかと頭に手を伸ばすと、どこか焦りの態度で一歩足を引いたビビ。
その反応の意味が解らねぇで。
だがまぁ来たのなら丁度良く、なら退屈凌ぎにまた話でもしようと、ビビを促して部屋に入った。


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