─夫婦─

□不在
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「ただいまー。………?」
帰宅の挨拶しながらドアを開けると、家の中がやけに暗ぇ事に気付いた。
返事が返ってこねぇし、いつも玄関開けた瞬間から漂ってくる飯のいいにおいもしねぇ。
その事におかしさを感じて。
「?。ビビー?」
この時間に居ねぇなんて事は今まで無く、靴脱ぎ場見ても靴もねぇ。
呼んでも返事もねぇし、買いもんにでも行ったのかと思ったが、この時間なら作りかけの晩飯のにおいくらいはしてくる筈。
「?」
不思議に思いながら家ん中に入って、台所を覗いたがやっぱりいねぇし、飯の用意もしちゃいなくて。
「ん…」
ふとテーブルの上になんか書かれてあるメモの紙切れが置いてあるのに気付いて、手に取った。
『しばらく家に帰るから』
メモ書きにはそう書かれてあって。
それを見て、瞬間頭に浮かんだもん。
よくドラマである、"実家に帰らせていただきます"って嫁の書き置きがあって、それを見ながら一人茫然と立ち尽くす旦那。
その場面はまさに今の俺の状況で。
(…………)
その現状に、頭が付いていかねぇ。
あいつが出て行く理由が思い当たらねぇから。
頭に浮かぶ朝のビビはいつも通り機嫌良く見送りに来てたし、出がけのキスもした。
昨日だって普通に喋って普通に過ごして。
何も怒らせるような事をした覚えもねぇ。
「………!」
取り敢えずあいつの実家に電話と思い付き、記憶させてあるビビの実家に電話をかけた。
呼び出し音が鳴って、だがいくら待っても誰も出ねぇ。
なんでか留守電にも繋がらねぇで、一旦切って、またかけ直してみる。
呼び出し音が長ぇ。
そしてやっぱり誰も出ねぇし、留守電にも繋がらねぇ。
(なんでだ?w。なんで出ねぇ?w)
なんか家族ぐるみで拒否られてるみてぇな気になってきて、そこまで拒否られる理由を探して脳みそがフル稼働する。
だがやっぱり理由に思い当たらねぇで。
「…………w」
焦りだけが増していく。
理由が思い当たりゃあ納得も出来るが、その理由がねぇ。
どんな細かい事もほじくり出して考えたが、解らねぇ。
迎えに行こうにも、怒らせた覚えがねぇから、どう言やあいいのか解らねぇ。
謝るにしてもどう詫びりゃあいいか解らねぇ。
「…………w」
せめて電話が繋がりゃあと、もう一遍かけてみた。
「…………w」
やっぱり出ねぇ。
かなり混乱気味になってるてめぇに気付いてちぃと落ち着こうと、意識して深呼吸をしてイスに座る。
静かすぎる家ん中。
生活の音がねぇ。
アパートで一人暮らししてた時にはこんな事も気にならなかったってのに、今は耳が痛ぇ程静かだ。
いつもならビビが用事する音と生活のにおいがしてるってのに。
「…………」
ふと家ん中が暗いと気が付いて、電気が消えてる事を思い出して。
電気点けに立って、またイスに座る。
ビビの姿がねぇ台所。
静かな家ん中。
思い当たらねぇ、ビビが出て行った理由。
「…………」
考えて、考えて、もう一遍、昨日から今朝までの事を思い返す。
何か言ったんじゃねぇか。
何かしたんじゃねぇか。
だが解らねぇ。
怒ってたんなら、笑って見送る筈もねぇ。
(…………ん…)
色々考えてる内にふと、大体本当に怒って出て行ったのか?と、それが思考に入ってきた。
ドラマでの先入観で出て行ったと思い込んじまってるが、本当にそうなのか?と。
いくら考えても、ビビが出て行くような理由に心当たりがねぇから。
「…………」
"プルルルルル"
「!」
家に帰った他の理由を考えてる時、電話が鳴って、思わず電話に飛び付いた。
「もしもし!!?。ビビか!!?」
ナンバーディスプレイには公衆電話と出ているが、取った受話器に訊いていた。
『あ、ゾロさん』
電話の向こうから聞こえたのはビビの声で。
しかもいつも通りのビビの口調だった。
「どうしたんだ!?、おめぇ!w。今どこに居るんだ!?w。実家じゃねぇのか!?w。大体なんで急に帰ってんだ!?w」
まくし立てて、メモ書きに書かれてあった事はどういう事かを訊くと、
『あ、ごめんね?⊃⊃。急いでたからあれしか書けなくて⊃⊃』
申し訳なさそうなちぃと焦った声で、電話口のビビが詫びてきた。
『パパがちょっと体調崩して入院したのw。イガラムから連絡があって慌てて家を出たからw』
「親父さんが!?」
『うん。でも大した事はないの。明日検査して何ともないなら明後日退院していいって先生も言ってたから』
「――そうか…」
親父さんの状況にホッとして、ビビが怒って出て行ったんじゃねぇ事にも安心した。
『今病院にいるんだけど、ごめんゾロさん、検査の結果が出る明後日までこっちにいたいんだけど、いい?w。パパにも付いててあげたいし…w』
「ああ、構わねぇよ。家に帰るのも久し振りだしな」
『ごめんねw、ご飯の用意もしてないし…w』
「気にすんな。俺の事より今は親父さんの事だ。もし何かあったら電話しろ?、俺もすぐそっち行くから」
『うん。ありがとう、ゾロさん』
これが不安そうな声ならすぐにでも行くが、いつもの穏やかな声だから一応大丈夫かと思いながら、明日からの俺一人の生活を気遣ってくるビビの声を聞いていた。

"ジリリリリ!!!"
「Σ!!」
目覚ましのけたたましい音に驚いて目が覚めた。
「…あ〜、びっくりした…w」
いつもはビビが起こしに来るか、飯のにおいで目が覚めるから、目覚ましに起こされるのは久し振りで。
「…………」
ベル止めた時計持ったままぼ〜っとする。
朝飯のにおいがねぇ。
物音もしねぇ。
静かな朝。
「…………」
ちぃと孤独感。
ビビが居ねぇ、一人の朝。
結婚してから初めての。
「…………」
嫁を残して単身赴任してる旦那ってのは、こんな気分なんだろうか。
「明後日か…」
ビビが帰ってくるまで後二日。
まだ一日目だってのに、そんな事を考えている。
なんかよっぽど自分がビビに依存して生きてるみてぇに思えて、ちぃと情けねぇような、それでもそれも仕方ねぇような気分でベッドから出た。
「そうか…。弁当もねぇんだよな…」
台所に入って出た言葉。
テーブルの上にはいつも用意出来てる朝飯も、そして弁当もねぇ。
食パン二枚焼いて、一人で食う朝飯。
昨日の一人で食った晩飯同様、味けねぇ。
「行ってきます…」
ビビの返事も見送りもねぇ、侘びしい出がけの挨拶。
てめぇで鍵を掛けるのも久し振りで、なんかやる事なす事やけに懐かしさと哀愁を感じる。
「…いかんいかん!、こんなこっちゃ!」
これから仕事だってのにしんみりしてんじゃねぇとてめぇを奮い立たせて、ビビは明後日になりゃあ帰ってくるんだと言い聞かせて仕事に向かった。

昼休み、積んだ木材にルフィ、ウソップと、定位置で座って弁当を開ける。
これまた久し振りのコンビニ弁当。
学生時代にはビビとツルむようになった三年ダブりの高三まで、毎日こいつの世話になった。
「なんだ?、ゾロ。今日はビビの弁当じゃねぇのか?」
「どうした?。ビビの奴、また風邪でも引いたのか?」
俺の弁当を見た二人が、ほぼ同時に訊いてきて。
「いや、親父さんがちぃと検査入院してよ。実家に帰ってるんだ。自分で作るのめんどくせぇから買ってきた」
二人の問いに返しながら割り箸を割って、白飯を口に入れる。
「なんだ、つまんねぇ…。ビビの弁当うめぇから、おかず食うの楽しみなのに…」
自分も愛妻弁当、しかも毎日重箱詰めの正月かって程の豪勢な弁当だってのに、俺のおかずを奪いやがるルフィが、残念そうな顔で俺のコンビニ弁当を見てやがる。
そのルフィに内心で『俺だってこんな出来合い弁当なんざ食いたくねぇんだよ』と思いながら、惣菜を口に入れた。
「…………」
不味い。
味は悪くはねぇんだが、不味い。
全体的に嘘くせぇ味だ。
噛む毎に口ん中に広がってくるのは、ギトついた油と添加物の味。
ビビの手料理で口が慣れてっからか、食う度に食欲が落ちていくその弁当に、こんなもんを昼弁と晩飯に毎日食ってたのか俺…と、なんか懐かしさもある妙な酸味のあるポテトサラダを口に入れた。
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