─夫婦─

□風邪
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(38、2度か…)
ビビの脇から抜いた電子体温計の表示温度を見ながら、ちぃと高いなと内心で呟く。
ビビが風邪を引いた。
朝から喉が痛ぇと言っていたが、仕事から帰るとソファーに横になっていて。
「ごめんね…ゾロさん…。お仕事で疲れて帰ってきてるのに…」
朝から微妙に掠れていた声は、今は完全に嗄れている。
「気にするな。それよりほれ、こんな所で寝てるな。ベッドで寝ねぇと余計熱が上がるぞ」
熱で赤みを帯びている弱った顔で詫びてくるビビを抱き上げて、寝室に連れて行く。
絞った手拭いをでこに乗せてやった時、てめぇの腹の虫が鳴いた。
「おめぇも腹減っただろ。ちょっと待ってな、粥作ってきてやるから」
「ゾロさん…」
「ん?」
風邪と言やあ定番の粥だと、それを作る為に立ち上がった俺をビビが呼び止めた。
「ゾロさんは何食べるの…?」
「俺も今日は粥だ。作るの面倒だしな」
「ダメよ…っ。ゾロさんは力仕事なんだからちゃんと食べないと…っ。待ってて、晩御飯だけ作ってくるから…っ」
「だあっ!w、いいからおめぇは寝てろ!w。わかった!w、なんか作って食うから!w」
起き上がってベッドから出ようとしたビビを止めて、布団を被せ直して。
ビビが持ってる温くなってる手拭いを濡らし直して、でこに乗せた。
「いいな、ちゃんと寝てろよ」
「…うん…」
どことなく心配そうな顔をしているビビに釘を刺して、寝室のドアを閉めた。

「さて…w、何を作るか…w」
台所で、腕を組んで考える今日の晩飯。
学生時代、晩飯は基本、いつも昼の弁当同様コンビニの弁当で。
ごくたまーにならてめぇで作って食ってた事もあったが、ビビが泊まるようになってからはずっとビビが飯を作ってくれてたから、完全に料理ってもんから離れちまって。
元々作れるレパートリーがあった訳でもねぇし、取り敢えず冷蔵庫の中身を見てみようと冷蔵庫を開けた。
「…………」
材料がありすぎて、逆に考えが纏まらねぇw。
「………ん」
何となく冷蔵庫横の引き出しを開けると、市販のカレールーの買い置きを見付けて。
「…カレーか…」
カレーなら俺にも上手く作れていた。
開けてみた野菜室にも玉ねぎ、人参、じゃがいもと、必要なもんは入っていて、肉も冷凍室にしっかり小分けにしてストックしてある。
「…すげぇなぁ…」
その細かさに感心が口から出る。
社長令嬢だってのに、細かいところできちんと遣り繰りしていて。
家の事は基本あいつに任せてあるし、特に台所周りなんざよくよくは見ねぇから今まで気にもしなかったが、改めて見てみてその出来た主婦っぷりに感心した。
と同時にマジでビビみてぇな出来た女がこんなてめぇなんかによく当たったもんだと、世の中の理不尽さをいい意味で痛感してみたり。
「さてと…。それじゃ始めるか」
野菜の皮を剥いて、先ずは玉ねぎから包丁を入れる。
「っ〜〜〜www」
久し振りに玉ねぎに泣かされた。
鼻の奥がツーンとして、目に滲みる。
ビビもよく目が痛いと泣いてっから、俺が料理をしねぇ事とはあんまり関係はねぇんだろう。
「ほれビビ。粥が出来たぞ」
「あ…、ありがとう…ゾロさん…」
カレー作ってる合間にビビの粥も作って、出来上がったカレーと粥をよそった皿を寝室に持って行くと、礼を言ったビビの目は俺が手に持ってるカレーを見ていて。
「…そのカレー、ゾロさんが作ったの…?」
ちぃと驚いたような口振りと様子で訊いてきた。
「まぁな。カレーだけは上手く作れる」
簡単だからなと言いながらベッドの横に腰を下ろすと、ビビがくすりと笑った。
「ゾロさんでも料理出来るのね…」
熱で赤い顔をしながらもくすくすと笑うビビ。
「…今度なんか作って食わせてやるよ」
ビビが風邪を引いたのは家事で疲れたからじゃねぇだろうかとふと思って。
日曜くらいは飯作りを手伝ってやりゃあよかったと、ちぃと赤らんだ顔でベッドに寝ているビビを見ながら思う。
「ほれ、食わせてやっから。口開けろ」
詫び代わりと、起こさせねぇ為に、スプーンに掬った粥を吹いて冷まし、ビビの口に持って行く。
「どうだ?」
ただの粥じゃ味けねぇから卵粥にしてみたが。
「うん、おいしい…」
目を細めて返してくるビビは嬉しげで。
こんな事ででもこいつの役に立ててる事に嬉しさを感じながら、てめぇのカレーを口に入れた。

「ごめんね…。お仕事まで休ませて…」
ビビの熱は昨日から変わってねぇで。
上がってねぇ事には安心したが下がってもいねぇから、今日は休んで看病してやろうと仕事に休みの連絡を入れた俺にビビが詫びてくる。
「謝んな。俺が心配だから休むんだからよ」
「…うん。…ふふっ」
「なんだ?」
ふいに笑ったビビに疑問を感じると、
「だって雨でもない普通の日なのにゾロさんといられるから…。なんだか日曜日みたい…」
「……なるほど」
熱でちぃと赤みの差した顔で、それでも嬉しげに笑いながら言ったビビの言葉に納得した。

十時になって、洗面器の水を換えがてら、汗を吸ったパジャマを一遍着替えさせようと、
「えーっと、パジャマは…」
箪笥を置いてある部屋に入って箪笥の一段目を開けたが、入ってたのはタオル類。
二段目を開けると、服だが外着。
三段目はズボン。
「…………」
パジャマがねぇ。
てか下着とかパンツもねぇ。
いつもいるもんを言うと、ビビがどっかから持って渡してきたから、仕舞ってある場所が解らねぇ。
こうなると、てめぇの家だってのに知らねぇ家みてぇで。
普段、どれだけてめぇがビビに頼って暮らしてるかを思い知り。
結局箪笥全部開けてみたが、ねぇ。
「……パジャマの替えって確かに二、三枚あったよな…w」
洗濯した日でも別のパジャマがベッドの上に出してあったし、ねぇ事はねぇ筈だと、もう一遍見てみたが、やっぱりねぇ。
「………w、ビビw」
「どうしたの…?、ゾロさん…」
ゆっくり寝かせといてやりてぇんだが、結局起こす羽目になり、寝室に戻ってパジャマの場所を訊くと、
「パジャマならそこの二段目に入ってる…」
「…………」
指差したのは、俺の後ろにある箪笥の二段目。
こんな近くにあった事すら知らなかった事になんか情けなくなりながら、パジャマを出そうとして、
(…………)
着替えさせる前に医者に連れて行った方がいいんじゃねぇか?と、ふと思った。
市販の風邪薬飲ませるより、医者で貰う薬の方がよく効くと聞いた事もあるし、俺も医者に診せた方が安心出来る。
(…………)
だが熱があって今でもしんどそうなのに、医者まで行かせるのも…とも思う。
「…ビビ、医者行くか?」
ちぃと迷って、結局ビビに訊いた。
「……そうね…、早く治さないとゾロさんにも移っちゃうかもしれないし……」
同意してベッドから体を起こすビビに手を貸して服に着替えさせて、
「しっかり掴まってろよ?」
「うん…」
ビビを後ろに乗せて、自転車で医者に走った。
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