─不良と優等生─

□理由
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「ロロノアくん。ちょっと」
「あ?」
さあ帰るかと立ち上がった時、たしぎに呼び止められて。
「なんだよ」
「ちょっと来てください」
「?。…ビビ、ちょっと行ってくっから遅くなるようならタクシー呼んで先帰ってろ」
「あ、うん」
ビビに言い残して、たしぎについて教室を出る。
廊下を歩き、今まで何遍呼び出し受けて入ったか解らねぇ指導室に連れてこられて、机一つ挟んでたしぎと向かい合いでイスに腰を下ろした。
「この学校が異性交遊禁止だという事は知っていますよね?」
「はあ?。ああ、まぁ」
なんたって留年してる期間も入れて六年ここにいる訳だし。
「私は今までその事は心配していませんでした。あなたは顔が怖いし、あまり自分から話しかけるタイプでもありませんから、女生徒の方が怖がって近付かないでしょうし、例え近付いてもあなたが相手にする事は無いと思っていましたから」
「…………」
なんか散々な事を言われてる気はするが確かにこいつの言う通り、女が俺に近付いてくる事は今まで一遍たりとも無かった。
俺も女にこれといって興味もねぇで、案外見てるんだなと不本意ながらもちぃと感心する。
「それにあなたはこの学校で問題児とは言われていますが、女生徒に対して男として最低な行為をする事も、法に触れるような事も今まで一度たりともしていない。あなたがこの学校に入学して六年、私はあなたの担任として毎日あなたの素行を見てきましたが、喧嘩をするのと勉強をしないという事以外はわりと模範的で、曲がった事もせず筋は通す、真っ直ぐな生徒だと思っています。だから大丈夫だとは信じていますが、一応の確認の為に訊きたいんです」
「………w。……どうしたんだ?w、急にw。おめぇにそんな誉められるような事言われっとなんか気持ち悪ぃんだけどよ…w」
なんか訳は解らねぇが随分と信用されてるのはいいが、今までの六年間で今頃改めて面と向かってこんな事を言われっと妙な気分で。
いつもこいつにゃ怒られてばっかで、俺にとっては天敵みてぇなこの女から誉められるのはなんか逆に背中が寒くなるw。
「そんな持ち上げてねぇで言いたい事があるんなら早く言えw。あいつも待たせてんだからよw」
遅くなるようなら帰れとは言ったが、あいつの事だから多分待ってるだろう。
「ではあなたを信じて、単刀直入に訊かせて貰います。あなたとビビさんはどういった関係なんですか?」
「は?。俺とビビ?」
なんだその質問は?と内心で首を傾げた俺の顔をじっと見てくるたしぎ。
「今、この学校ではあなたの新しい噂でもちきりなんです。"あの"ロロノア・ゾロに恋人が出来たと」
「はあ!!?」
眼鏡の奥にある、いつも以上に冗談の通じねぇ性格が出ている目を見返していると来た、思いもよらねぇたしぎの言葉に何だそりゃと声が出た。
なんでそんな噂が出来てんのか、てめぇにゃ全く心当たりのねぇ、その、たしぎの口にした"噂話"に呆気に取られて。
「私はビビさんにはとても感謝しています。あれだけ勉強しなかったあなたが、まるで生まれ変わったように勉強に励んで、私の授業にもついてきている。あなたをそんな風に変えてくれたビビさんには、感謝状を渡してあげたいくらいなんです」
(…感謝状って…w)
「ですが、私も実際見ていると、あなたとビビさんは本当に恋人同士にしか見えない。勉強を教えるだけならともかく、彼女はあなたにお弁当を作ってきたり、あなたも彼女とは楽しげに話して接している。登校も下校も一緒にしているそうですし、私の目から見てもあなた達は親しげです。私はあなたの事を信じていますし、だからこんな事を訊くのも言うのも本当は不本意なんですが、あなたの口からはっきり聞いておきたいんです」
「…………」
「どうなんですか、ロロノアくん。ビビさんとあなたはお付き合いしているんですか」
「………。教師ってのは大変だな。そんな事まで心配しなけりゃいけねぇのか」
「え……。…ロロノアくん…?」
たしぎが俺を呼び出した理由が何となく解って。
「勘違いすんな。俺とあいつはそんなんじゃねぇ。ただの友達なだけだ」
「友達…?」
言うと、ちぃとたしぎの顔に驚愕に似た表情が浮かんだ。
「そうだ。まぁ確かに俺自身でも最初は女と友達になってるって事が妙な気分だったし、まさか自分に友達なんてもんが出来るなんて事も、それが優等生だって事も思いもかけねぇ事だったから不思議な感じだった」
「…………」
俺の話を黙って聞いているたしぎ。
それを見ながら、新学期初日の事を頭に思い出す。
「おめぇも見てただろ。進級して隣に来た途端、あいつが俺に一緒に勉強しようっつって言ってきたの」
「ええ…。あれには私もかなり驚きました…。少し緊張はしていたみたいですが、あなたの見た目に怖がらず、その上あなたに勉強を勧めてきたんですから…。それにあなたが従った事にも……」
「Σ!!?w。従ったんじゃねぇよ!!#w。この俺に話し掛けてきたあいつの勇気を買っただけだ!!#w。勝手な解釈すんな!!#w」
「…解りました。まぁそういう事にしときます」
「──w。…たく……w」
こっちはてめぇのプライド掛けて言ってるってのに、全くどうでもいいみてぇに言って来やがるたしぎに、歯痒いながらもそれ以上言っても無駄だと解るから、諦めて続きを話す事にした。
「大体俺は頭に入らねぇだけで勉強自体は別に嫌いでもねぇんだよw。でなきゃ毎日来るかw。学費だってバカにならねぇのによ」
「え……。……そうだったんですか…?…。私はてっきりあなたは勉強が嫌いなものとばかり……。学校には喧嘩をしに来ているんだとばかり思っていました……」
「………w。たくw。六年も担任しててどこ見てんだ、てめぇはw」
俺の言った事に茫然と声を出すたしぎにさっきの憤りも加わって、体を横に向けて、頬杖をつく。
そして頭に浮かんでくる光景。
面倒くさがる訳でも無く、むしろどこか楽しげに俺に勉強を教えてくるあいつの姿。
「……あいつに勉強教わって、初めて勉強が楽しいもんだと思った」
難しい事にゃ変わりねぇ。
だがそれでも投げ出す気にはならねぇ。
「あいつの勉強の教え方は解りやすいからな。六年間受けてたおめぇの数学の授業はなんだったのかと思うくれぇにな。だから最初は俺から頼んだ。勉強教えてくれってな」
「Σあなたから!!?」
「w。俺が勉強教えろってのは、そんな立ち上がる程驚く事かよ…w」
…まぁ解らねぇでもねぇが…wと、六年の付き合いで解ってるからこそのたしぎの反応にちぃと納得してっと、たしぎがまたイスに腰掛けた。
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