─不良と優等生─

□結婚式
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雨。
雨の結婚式。
教会の前までは来たが、やっぱり入る気が起こらねぇ。
あいつの…、ビビのウェディングドレス姿を見る決心がつかねぇ。
「…………」
この扉の向こうに、あいつがいる。
新しく旦那になる男と並んで。
『〜〜…〜〜……〜』
(………始まった…)
神父の声が聞こえ始める。
来ねぇ俺を、ビビはどう思っているだろう。
『病める時も、健やかなる時も、互いを信じ、支えあい、共に生きる事を誓いますか?』
『誓います』
(…………)
初めて聞いた相手の男の声。
張りのあるいい声だ。
きっと男らしい男だろう。
ビビと結婚出来る事を喜んでいる、幸せに満ちた声。
(…良かったな、ビビ……)
多少まだ心臓は軋むが、それでもビビが幸せになれそうで安心して。
(…………)
俺もいい加減踏ん切りとてめぇの気持ちにけじめを着けようと、目の前の扉に手を当てた。
『―――いや!!!』
「!?」
突然聞こえたビビの声。
拒否の言葉。
『パパ!!。私やっぱりイヤ!!。結婚なんてしたくない!!!』
『ビビ……?』
『ビビ様…?』
(――――)
ちぃと開けた扉から中を見てみっと、純白のウェディングドレスを纏ったビビが、父親だろうか、威厳のある風格の男を見上げてすがり付いている。
「私好きな人がいるの!!。だからイヤ!!。好きでもない人と結婚なんてしたくない!!」
(――――)
叫ぶ声は涙声。
実際目に涙を溜めて。
あいつが泣いている。
「〜〜〜好きな奴だと…?」
いかにもエリートといった見た目の男。
その眼鏡の奥の目には怒りが宿っている。
「ごめんなさい!!、でも私はやっぱり好きな人と一緒になりたいの!!。こんな気持ちのままの私と結婚しても、あなたが不幸になる!!。だからごめんなさい!!。こんな結婚式は出来ません!!」
(―――……、ビビ……)
必死に謝り訴えるビビ。
だがビビが謝るだけ、男の表情は怒りに満ちていく。
「っ!!、ふざけるな!!。男に恥をかかせやがって!!!」
「―――!!」
「ビビ!!」
「ビビ様!!」
(!!!――――)
怒りを含んだ男の声に、扉を開けて走り込んで。
ビビと、ビビを護ろうと抱き締めた父親らしき男の前に出て、ビビを殴ろうと迫ってきている男の拳を手で受け止めた。
「!、ゾロさん!!!」
「なんだてめぇ!!!w」
後ろから聞こえたビビの声は驚いていて。
それでも嬉しさが含まれて聞こえた。
「……悪ぃ…」
未だ力の込もる男の拳を掴み止めながら、ビビに詫びる。
「……おめぇの幸せを黙って願わなけりゃいけねぇのに…、出来なかった……」
「……――〜〜〜〜」
振り向いて見た顔はひでぇ顔だった。
ウェディングドレスに似合わねぇ、泣きっ面。
俺がさせた顔。
「〜〜〜私はゾロさんじゃなきゃ幸せになんてなれない……」
「…………」
泣きながらそう言ってきた、言ってきてくれた言葉に、決意が芽生える。
もう二度と泣かさねぇ決意。
「っ!!。てめぇか!!、この女の好きな奴ってのは!!」
怒鳴ってくる男。
確かにこんな状況で断られりゃあ腹も立つだろう。
俺から離れ、再度拳を構えて殴りかかってきた男。
その怒りの姿に多少の罪悪感は湧いた。
だが、
「…悪ぃな。こいつに拳を向ける奴には手加減出来そうにねぇ」
「ごっ!!!」
顔目掛けて飛んできた拳をかわして腹に拳を一撃入れっと、ぶっ飛んだ男の体が壁に激突し、来場者の悲鳴が起こった。
「…ぐ……w。てめ……w」
壁を背に座り込んで腹を押さえる男が、顔をしかめて俺を睨む。
口では手加減出来ねぇと言ったが、やはり加減はしちまった。
喧嘩にも慣れてなさげなエリート男。
ビビに手を上げようとし、"この女"呼ばわりしやがった男だが、こいつもビビを愛していた。
俺と同類だから、本気は出せなかった。
「…ゾロさん……」
「…………」
「………好き……」
背中越しに聞く声は、また涙声。
泣いてる。
ビビが。
「………お願い………」
更に増した涙声。
「……私を………ゾロさんのお嫁さんにして……」
精一杯絞り出した声。
こいつからのプロポーズ。
俺からしようと思ってたのに、先を越されちまった。
「…………」
もう泣かせねぇと決めた。
こいつは俺が護ると。
「……裕福な暮らしはさせてやれねぇぞ…」
「…っ、……ゾロさん…?…」
「俺と居りゃあおめぇまで怖がられちまうかもしれねぇぞ…」
「……うん…。それでもいい……」
「…………」
「…ゾロさんがいてくれればいい」
「…………」
最後の確認に返ってきたのは嬉しさを含んだ声。
これだけ聞きゃあ充分だった。
決意が固まる。
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