─不良と優等生─

□ホワイトデー
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「…………w」
さっきから見てるんだが、何がいいのかさっぱり解らねぇ。
最近テレビでホワイトデーホワイトデーと、バレンタインのお返しとやらをしょっちゅう宣伝してやがる。
別に返しゃしねぇでも構わねぇだろとは思う。
今まで二、三個貰ってた時も、靴箱に入ってたから、誰がくれたもんかも解らねぇ。
今年もそうだったし、手渡れた分も名乗られた訳じゃねぇから、探してまで返す気もねぇ。
だが、あいつにゃ、ビビにゃあ何か返しとかねぇとと。
そう思った。
別に何も返さねぇでもあいつは何も言わねぇだろうし、俺がそんな事をする人間じゃねぇこた、あいつが一番解ってるだろう。
だがそれでも何か返しはしようと思う。
あいつは、この出来の悪ぃ頭に付き合って自分の勉強時間割いて。
生真面目で校則も破らねぇあいつが、法律で禁止されてる未成年の飲酒に逆らって俺にウイスキー入りのチョコレートを買ってきて。
俺といる事で、あいつにゃ色々と迷惑や世話を掛け、優等生に劣等生くせぇ事をさせちまってる。
それに一昨日出掛けて以来、金は返したもんの、あいつはまだどこか俺に怒ってはいるみてぇだし、先ずはいつもの事への礼と詫びをするのに、そしてその機嫌を治させるのに、今回のイベントは絶好の機会だと思った。
(う〜ん…w。…お?)
とは言えこういう自分とは縁遠い場所に居る事自体なんか落ち着かねぇで、もう何をしにここに来たかすら解らなくなってきかけてきた時、赤、黄、緑の銀紙に入ったハート型の小せぇチョコが三つ入った透明のプラスチックの箱が目に入った。
その箱の中にゃチョコの奥に、フリルの付いた薄桃色の布が小さく畳まれて入っている。
(ハンカチか。うん、これがいいんじゃねぇか?)
結構人気があるらしく、残り二箱だったそれを一つ買い、あいつがどんな顔して受け取るか、ちぃと楽しみに思いながら家に帰った。

「ほれ、ビビ」
「?。なぁに?」
宿題終わって一心地ついて、鞄から今日買ったお返しを取り出して差し出すと、ビビが不思議そうに寄ってきて。
「チョコの返しだ」
「Σえ!?。ほんとに!?」
「おう」
受け取ったその箱を見ながらキョトンとするビビに言うと、目を見開いて驚いたビビ。
「〜〜〜っ∨。ありがとう!、ゾロさん!」
そのビビの反応に笑いながら返すと、ビビが俺を見ながら感極まったみてぇに笑い、満面の笑顔で礼を言ってきた。
「開けていい!?」
「おう」
ビビがその場に正座して、嬉しそうに店員が包んだ包み紙を丁寧に開け始めた。
誰かに物をやった事も、やろうと思った事も今まで一度も無かったが、てめぇのやったもんでこんなに喜んでっところを見ると、悪くはねぇ。
そしてこの二日、どこか不機嫌そうな塞いだ顔しか見てなかったから、その喜ぶ顔に何となく安心感が湧く。
「あ、かわいー∨。……ん?。Σ!!///////」
「うん?」
包みを解いて、中のチョコ入りの箱を見て笑っていたビビが箱を開け、ふいに声を傾げて。
間を置かずその顔が耳まで真っ赤になった。
「?。どした?」
「〜〜〜〜っっ//////#」
その反応が不思議で声を掛けた俺を、ビビが真っ赤になった顔で見てきた。
なんかやけに疑うような怒ってるような顔で。
「な…なんだよw」
ついさっきまで喜んで笑ってたってのに、今は睨むみてぇな目までして俺を見てくるビビに、ちぃとたじろいて。
「…ゾロさん…これどういう事…?//////#」
「あ?w。……Σいっ!!?w」
ビビが箱から引き出し広がった布の形は四角じゃなく、三角。
「――――!!!w」
ハンカチじゃねぇそりゃあ、どう見ても女もんのパンツ。
薄桃色の布地に、白のフリルの付いた、パンツ。
「〜〜〜〜〜//////#」
「〜〜〜〜〜www」
「ゾロさんっ!!?/////#」
「Σ」
そのパンツに、なんでパンツなのか訳が解らねぇで、ただそのパンツと怒りの形相のビビを見ていて、そのビビの怒鳴り声に我に返った。
「ちっ違ぇ!!!w。俺はハンカチだと思って買ったんだ!!!w。てかまさかパンツだとは思わねぇだろ!!!w」
「〜〜〜ほんとに…!?//////#」
「ほんとだ!!w。俺が嘘言った事あるか!?。ねぇだろ!?」
「──……」
焦りながらも説得すっと、やっと納得したらしく、ビビから怒りのオーラが抜けてきた。
「…まぁ…そうよね…。こんな物だって知ってたら、その場で開けていいなんて言わないわよね…」
「…………w」
どうやら冷静になったらしく、状況分析出来ているビビに一息つきてぇ所だが、だが"あれ"がパンツだった事にゃあちぃと納得いか無さを感じる。
せっかく長時間悩んで買ったもん。
それがあんなもんだったなんざ。
パンツだと解ってりゃそんなもん買わなかったし、別の普通のチョコで返したってのに。
(………w)
「…//////w」
(、)
余計に怒らせる事になるところだったが、そうならずに済んだ事に何となく、だがマジで安堵していると、ふとビビの目が手に持ったパンツに向き、その顔が赤くなった。
「……//////w」
(…………)
どうやらパンツ持ってる事にか、俺の前にパンツを出している事にか顔を赤くするビビが、チラリと俺を上目で見て、だがそれも一瞬で、そのパンツを顔を赤くしたままスカートのポケットに突っ込んだ。
(…………)
あのパンツをどうするつもりなのかは解らねぇが、捨てるつもりならせっかく金払ったのに…と、ちぃと惜しさも感じて。
だがまぁ仕方ねぇかと、取り敢えず視界から消えたパンツの事はもう頭から取っ払う事にした。
(ん…)
食う気なのか、箱からチョコの一つを摘み出したビビに、
「味わって食えよ。返したのはおめぇにだけなんだからよ」
ようやく本来の目的が返せそうな気がして、ちぃと満足感を感じながら言うと、ビビが手を止めて顔を向けてきた。
「………私にだけ…?」
「そうだよ」
「……あの人にもあげてないの…?」
「当たり前だろ…w。あの嬢ちゃんからはチョコ貰ってねぇしw。まぁ、もしかすりゃ靴箱に入ってた分の中にあったのかもしれねぇが…w」
その分はこの前の外出で返したと思っているし、今日はっきり『もうおめぇに付き合う気はねぇ』とは言った。
随分派手に泣かれたが…w。
「他の分にも返しちゃいねぇよw。あんだけの量に返すのなら金もそれなりに掛かるしなw。第一、俺がこんなイベント事する筈ねぇのはおめぇが一番よく知ってるだろ…w」
「………、じゃあどうして私にだけ…」
「おめぇにゃ日頃から世話になってるし、一昨日の詫びも兼ねてな」
こいつにいつまでもムクれてられるのはなんか違う。
他の奴にならなんとも思わねぇが、こいつに不機嫌さを持たれてたこの二日間、なんかてめぇの中で落ち付かねぇで。
「それにおめぇは俺にとっちゃ特別だからな。特別の返しだ」
「───うんっ!∨。ありがとうっ、ゾロさんっ!∨」
(……やれやれ…w)
返しをした理由を言うと、感極まったみてぇな顔をした後、満面の笑みで礼を言ったビビ。
その、やっと改めて返しのチョコレートで喜んでいるビビを見ながら、やっぱり慣れねぇ事はするもんじゃねぇと、益々不機嫌を増しさせる所だった事に、だがそうならずに済んだ事に頭を掻きながら、内心で溜め息を吐いた。


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