─不良と優等生─

□鈍感
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最近俺の側に嬢ちゃんが来る。
三組の嬢ちゃんだが、いかにも軽そうな、ケバい嬢ちゃん。
すっぴんで口紅もリップだけのビビで見慣れてっからか、化粧も濃い、口紅も真っ赤なその嬢ちゃんは、このガッコでも目立つ。
その嬢ちゃんがしょっちゅう声掛けてきやがる。
「ゾロさん、今日ヒマですか?」
「あん?」
今日も昼休み、メシ食った後ちぃと昼寝と思った矢先に来た嬢ちゃんの相手をしていたが、ふいに来た質問に意識が向いた。
暇なわけがねぇ。
こっちは帰ったら勉強バイトで寝る間もねぇんだから。
昼休みだけが俺の安眠タイムだってのに、最近この嬢ちゃんが来っから寝不足ぎみで。
「暇じゃねぇよ。こう見えて忙しいんだ、俺は」
「じゃあ、今度の日曜は?」
「…………」
返すと、すぐに次の質問が来た。
(日曜は……まぁ暇か。中間テストも終わったし)
「まぁ…空いてるか…」
「じゃあ、映画に行きません?」
「映画?」
「ゾロさん、どんな映画が好きですか?」
「……まぁ、アクションかね」
答えた瞬間、女がパンと手を叩いた。
「じゃあ決まり!。楽しみだわっ、ゾロさんと映画なんてっ。じゃあ日曜の十時に駅のベンチで待ってますからっ」
「あ、おい。………w」
俺はまだ行くとも何とも言ってねぇってのに、休憩時間の終了のチャイムと同時に、喜んで教室から出ていったケバ嬢ちゃん。
そしてまた俺の安眠時間が潰れちまった。
「……ビビ、おめぇも行くか?」
「えっ」
いつもの昼休み通り、横でずっと本を読んでたビビに訊くと、驚いたみてぇに俺を見て。
だがその顔がまた本の方に向いて俯いた。
「……ううん。行かない…」
「?。なんでだ。来りゃいいじゃねぇか」
俺としてはこいつがいた方が気が楽なんだが。
「…私が行ったら邪魔でしょ…?」
「?。なんで邪魔だ」
ビビの言った意味が解らねぇで訊くと、俯いていたビビが顔を上げて俺を見てきた。
「……だってあの人はゾロさんと二人きりで行きたいのに…」
「……そうなのか?」
訊いた俺になんか寂しそうな目をしながら答えてくるビビを見ながら、自分の後頭部に手を当てる。
「だがなぁ……。俺は女の扱いは解らねぇし、おめぇがついてきてくれる方が助かるんだが…」
「…………」
十九年間、女と遊びに出たこたぁねぇし、正直どうすりゃいいか解らねぇ。
上に向けてた視線をビビに向けっと、今度は寂しそうな雰囲気もその顔から抜けてて。
「な、行くぜ、おめぇも」
「………うん、わかった」
「おし、決まり!」
無言で俺を見ていたビビがちぃと嬉しそうに笑って。
俺も苦手な女と二人きりにならずに済んだ事に、気が軽くなった。

ビビと二人で約束の時間より多少早く、待ち合わせした場所で嬢ちゃんをベンチに座って待ってっと、
「あ∨、ゾロさ……え…?」
向こうから歩いてきた真っ赤な服とミニスカ、ハイヒールを履いた、ソバージュ掛けた嬢ちゃんが手を振って。
その途中で笑顔を止めた。
「ちょっとゾロさんどういう事!!?」
「あ?」
「どうして彼女が一緒にいるの!!?」
俺の向こう側に座るビビを指差して言った嬢ちゃんに、ビビが気まずげに体を小さくする。
「ご…ごめんなさい…⊃。ゾロさんがどうしてもって言うから…⊃」
「普通遠慮するでしょ!!?。何考えてるの!!?、あなた!!。ゾロさんもどうして!!?」
何怒ってんだか、ビビを責めた嬢ちゃんが、今度は俺にその矛先を向けてきやがった。
「どうしてって、おめぇ別に二人きりで行こうなんて言わなかったじゃねぇか」
「!!?」
「ゾロさんっ⊃。あのっ、ごめんなさいっw。私やっぱり帰るからっw。二人だけで行ってきてっ?」
「おいおい!!w、待てビビ!!w」
今更俺を一人にするなと、ベンチから立ち上がって帰ろうとするビビの手首を掴んで引き止めた。

電車の中で俺にぴったりとくっついてくる嬢ちゃん。
席は空いてるってのに。
出入り口の扉の横の手すりに凭れて、流れていく景色を何となく眺める。
木の横を通った時、一瞬暗くなった窓に、背中側に座るビビが見えて。
「どうした、ビビ。気分でも悪ぃのか?」
体の向きを変えて、俯きながらシートに座るビビに訊くと、顔を俺に向けた。
「ううん、大丈夫」
ふるふると首を横に二、三度振って答えたビビにそうかと返す。
「ねぇゾロさん。なんの映画見ます?」
(ぐ……w)
訊いてきた嬢ちゃんの香水が臭ぇ。
ビビも香水は軽くつけてるみてぇだが、こいつの香水はレモンみてぇな柑橘系で、そんなに臭いが気にならねぇ。
むしろいい匂いだ。
だがこの嬢ちゃんの臭いは臭ぇw。
なんつうか、濃い臭い。
自己主張の濃い、例えようのねぇ臭い。
「…そうだな……」
嬢ちゃん、むしろ臭いから鼻を逸らしたくて、電車の中に垂らしてある、今月上映している映画の案内紙に顔を向ける。
なんかつまらなさげなもんばかりの中に、にゃんこムービーっつうタイトルを見付けて。
(…にゃんこってのは猫だよな…)
その案内紙を見ながら、これがいいんじゃねぇかと考えた。
ビビは動物が好きだから、こいつもこの嬢ちゃんも楽しんで見れるんじゃねぇかと思って。
「じゃああのにゃんこムービーっての……」
「え……」
「あ?」
「ゾロさん、そんなの見るんですか…?w」
「あ?、いや…まぁ…」
「ぷ、クスクスクス、ゾロさんって案外可愛いんですねっ∨」
俺がってか、おめぇらが…と言おうとすると、軽く噴いて笑った嬢ちゃんが、俺の腕に抱き着いてきた。
てかなんか胸を異様に押し付けてきてるみてぇに感じるのは気のせいか。
「…可愛くねぇよ、別に…///w」
俺が観るんじゃねぇのに、勘違いして言ってくる嬢ちゃんに、こんな映画を選んだ事がちぃと恥くなり、顔が熱くなる。
「う………///w。何だよ……///w」
嬢ちゃんから顔を背けた時に、俺を見上げているビビが視界に入って。
こいつもそんな風に思ってやがんのかと更に恥くなり。
「…………」
(あん?w)
だが何も言わねぇでまた顔を俯けたビビに、内心で首を傾げた。
だがマジでこいつとこの嬢ちゃんは格好が真逆で。
真っ赤な服にミニスカ、ハイヒール、おまけに口紅とカバンまで赤で統一し、髪の毛は派手にソバージュ掛けた茶髪の嬢ちゃんに対し、ビビは白のカッターに水色のロングスカート、靴は白のヒールサンダル。
口紅も極薄い桃色で、塗ってんのかも判らねぇくれぇで。
同じ女でもこうも違うもんかとちぃと関心を湧かせながら、終点の駅に着いて電車を降りた。
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