─不良と優等生─

□バレンタイン
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「Σうおっ!!w、なんだぁ!?w」
「Σえっ!?w」
靴箱を開けた途端流れ落ちてきた大量の箱に驚いて思わず声を上げた俺の横で、靴を靴箱に入れていたビビも驚いた声でこっちを見た。
「なんだ…?w。ああ、そういや今日は…………?」
「き、今日はバレンタインよw、ゾロさんw」
なんとかいう日だったと、その"なんとか"をなんつったか思い出せねぇでいると、横からビビが言ってきた。
「ああ、そうだ。バレンタインだ、バレンタイン。?w」
名称が判ってすっきりし、だが毎年この日は二、三個入ってはいたが、今年はなんでこんな入ってんのか解らねぇで頭を捻る。
「………w。ま…毎年そんななの?w」
チョコの量に呆れてんのか驚いてんのか、妙に動揺した口調でビビが訊いてきた。
「いや…w。こんななったこたぁねぇ…w」
しゃがみ込んで、床に散らばった包み箱を拾おうとすると、ビビもしゃがんで手伝ってきた。
「だがマジで何なんだ、この量は…w。なんかの嫌がらせか?w、こりゃあw」
鞄に詰め込みながら漏らすと、
「で、でもよかったじゃないっw。たくさんチョコレート貰えてっw」
焦り笑いみてぇに笑いながら、ビビが最後の包みを鞄に入れてきた。
「でも急にだぜ?w。六年いてこんなこた初めてだ…w」
「それだけゾロさんが怖い人だって思われなくなったって事よっw。喜ばなくちゃっw。ねっ?w」
嵩張る鞄を肩に掛けて立ち上がっと、同じく立ち上がったビビがそんな事を言ってきた。
「………w」
いくら考えた所でなんで急にこんなになったかの真相は解らねぇから、取りあえずビビの仮説に納得して、三階への階段を上がった。

「ロッ、ロロノアさんっ!w」
「あ?」
昼休み、便所から戻りがけ、後ろから呼び止められて。
振り向くと二年の名札の二人組が立っていた。
「なんだ?。俺になんか用か」
「〜〜こっ、これ受け取ってください!!w」
二人で一旦顔を見合せて、二人揃って差し出してきたのは多分チョコレート。
靴箱から流れ出てきたのと同様、包み紙で巻かれて、赤のリボンが付いている。
「………どうもw」
マジでなんなんだ今年は…wと訝しみながら一応受け取ると、二人は逃げるみてぇに走っていった。
「たく…w。なんなんだ今日は…w」
席に戻り、机に貰ったチョコ二つを投げ置いて座っと、
「また貰ったの…?w」
ビビがまた動揺したみてぇな顔と声で訊いてきた。
「…ゾ…ゾロさんモテるのねw」
「モテても嬉しくねぇよw。てかマジで何なんだ今年は…w。気持ち悪ぃ…w」
まぁただで食いもんが手に入るからそりゃあよかったが。
だがどうせ貰うならもうちっと腹に溜まるもんがよかった。

「おっし!。終わりっ」
「…ゾロさん……w、……あの…ね…w」
「あん?」
晩飯後の宿題と復習も終わり、後ろに手ぇついて肩解してっと、横から遠慮がちにビビが声を掛けてきて。
「……これ…w」
正座した足の後ろから両手でなんか取って、それを俺の前に差し出してきた。
「……おめぇもかよ…w」
それは今日さんざん見た、包み紙で巻いた物。
中身は多分、てか100パー、チョコレート。
「う……w。いら…ない…?w」
「………w。まぁ…いい。貰っとくw」
もうこの際ついでたし、こいつは俺にとってはちぃと特別な奴だから、差し出されたそれを受け取ろうと手を出した。
「あっ安心してっ?w。義理チョコだからっw」
「あ?。誰もんな事気にしてねぇだろw」
手渡す時に念押しのように言ってきたビビに呆れながら受け取って。
頭使ったから、脳みその糖分補給に早速、今貰ったビビのチョコから食う事にした。
「お」
包み紙を破いて開けっと、他の箱とは違う厚みのある箱にゃあウイスキーの瓶が描いてある。
他のはみんなただの板チョコみてぇで。
ハート型だの手作りだのより、こっちの方が俺は嬉しい。
「さすが、やっぱおめぇは解ってるな」
「…その方がゾロさん喜んでくれるかなって思って…///」
ウイスキーみてぇな高ぇ酒、バイト暮らしじゃ飲めねぇから、チョコに入ってるようなもんでも充分で。
「♪」
「あっ、でも一日一個だからねっ?w。ゾロさんもまだ未成年なんだからっw」
巻かれた銀紙機嫌良く剥いてっと、ちぃと慌てながらビビが釘を刺してきた。
「ああ?。これっぽっち一個なんざ、飲んだうちに入らねぇだろ」
「…ウイスキーボンボンは飲み物じゃないのよ、ゾロさん…w」
「かてぇ事言うな。今日は無礼講無礼講♪」
剥いたチョコレートを口に放り込んで、噛み砕くと、中からウイスキーが染み出てくる。
「うんっ、うめぇっ♪」
こんなチョコレートなんかに入ってんだから安い酒なんだろうが、それでも本格的な洋酒の味に満足してっと、横でビビが満更でもなさそうな顔で笑っている。
「おめぇも食えビビ。うめぇぞ」
「え、で、でも私も未成年だし⊃⊃」
「いいから一個だけでも食えって。ほれ、あー」
断ってくるビビに、銀紙からチョコを出して、口元に持ってってやっと、
「………///w。……あー…///w」
ちぃと顔赤めながら口を開けた。
「どうだ?。うめぇだろ」
「………///w。ん、…苦ぁ〜いw」
むぐむぐと口を動かしていたビビがふいに眉をしかめて、いかにも不味そうな顔をした。
「うはははっ。酒の味が解らねぇなんざ、おめぇはガキだなぁ」
「〜〜〜どうせガキですよーだっ!w。なによっ、せっかくあげたのにっw。ゾロさんのバカっw」
ビビの反応が面白くて笑って言うと、気に触ったらしくプイッと正座のまま俺に背中を向けた。
そんなビビに何怒ってんだ?と思いながら、二個目の包み紙を開ける。
「ん。あ、ならほれ。おめぇはこっち食え」
「え?」
言いながら足で机を押し退かせて、そこへ鞄を逆さにして、教科書やらノートと一緒に貰ったチョコレートを床にぶち撒くと、ビビが振り向いてきて。
床を見てから俺を見て、また床に撒き散らばったチョコレートを見た。
「でも…これゾロさんにって…」
また体をこっちに向けて言ってきたビビに、鞄の中に教材だけを戻す。
「別にくれって催促した訳でもねぇし、勝手に渡してきたもんだ。それをまた誰にやろうと俺の勝手だ」
「………」
「それにチョコばっか一人でこんな食いきれねぇ。おめぇ甘いもん好きだろ。だからおめぇも食え。俺は普通のよりこっちの方がいい♪」
三つめのウイスキーチョコを噛み砕きながら、四つめの包み紙を剥いて口に放り込む。
「……ふふっ」
「なんだ?」
いきなり嬉しそうに笑ったビビに目を向けると、
「何でもない∨」
「?」
さっきまで怒ってたみてぇだったってのに、今度は嬉しそうに床のチョコに手ぇ伸ばしたビビに訳が解らねぇで。
「ん、おいしい∨」
拾い上げたチョコレートの包みを開けて、一口くわえて折ったチョコをポリポリといい音を立てながら食う。
「……あれ…?」
「あ?」
五つめを食おうとした時、ふとビビが出した声に、手ぇ止めてビビを見っと、
「ん…。…なんでもない」
なんかぽやんとした喋り方で返してきたビビが、チョコレートを口に放り込んだ。
「……ねぇ…ゾロさん…」
「ん?」
「……明日このチョコ溶かしてチョコミルク作ってあげるね…?」
「お、うまそうだな、それ。………?」
返したと同時に、ふいにビビが俺の腕に凭れてきて。
正座していた足も左右に崩して、ペタンとこいつらしくねぇ座り方してやがる。
「?。おいビビ。どうした?」
「…ん…?。…なぁに…?」
何処と無くぼんやりしてるみてぇで、何より顔が赤い。
こいつは色が白ぇから、顔の赤みがよく判る。
「なんだ、赤い顔して。急に」
熱でもあんのかとデコに手ぇ当てても熱くはねぇで。
「?。おい、大丈夫か?」
「………?。…うん……大丈夫よ……?」
「………w」
本人は大丈夫と言うが、どう見てもなんかおかしい。
(………もしかして…w)
「…ビビw」
「…ん……?」
俺に垂れ掛かってくるビビは、見た目も声も眠たげで。
その上赤い顔。
「おめぇ…、酔ってねぇか?w」
「…ん……?」
俺の肩に凭れたまま目ぇ瞑ってたビビが目ぇ開けて。
「……ん〜…、……わかんない……」
甘える猫みてぇな仕草で俺の肩に目元を擦り付けてくる。
「……でも頭がぽわんとして……なんだかいい気持ち……∨」
(………w。駄目だw。こりゃ完全に酔ってやがるw)
俺の腕から体を戻して、夢心地に笑いながらポリポリと、ハムスターが物食ってるみてぇにチョコレートを食うビビ。
まさかウイスキーボンボン一粒だけで酔っちまうたぁ、体質まで正に絵に書いたような優等生っぷり。
「………w。あ?w、おいっ!?w」
もちょもちょとチョコレート食ってたビビの体が急に前のめりに倒れ込んできて。
咄嗟に受け止めて、床に倒れる事は免れた。
「………w」
がくんと頭が下りたってのに起きもしねぇで、寝息まで立ててやがるビビの熟睡っぷりに呆気にとられる。
「……たく…w。せっかくうめぇもん食わせてやったってのに…w」
苦ぇと文句は言うわ、酔い潰れて寝ちまうわと、酒が飲めねぇなんざ勿体ねぇ体質だなと、完全に寝入っちまってるビビを自分の胡座かいた足の枕で寝かせて、座布団を乗せる。
「…………ロ……ん……」
「ん?」
呼ばれたような気がして下を見っと、
「…………き………」
目ぇ瞑って寝てるビビの口が小さく動いた。
(き?)
寝言か?と思って、だが"き"ってなんだ?と考えながら、最後のウイスキーチョコを口に入れる。
「てか……」
酔ってたんなら、さっきのチョコミルクの話覚えてんのか?と気になって。
まぁ覚えてねぇでも言やぁこいつは作ってくれるだろうから、最後の一つになったチョコレートを、その酒の味を名残惜しみながら噛み砕いた。


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