─不良と優等生─

□小旅行
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「まさか俺が百点なんざとれるとはなぁ。まぁ国語は得意科目だが」
「ふふふっ」
抜き打ちだったが、生まれて初めててめぇでとった満点なんて国語のテストを見ながら言うと、俺の横を歩きながらビビが笑った。
「じゃあなにかお祝いしなきゃね。ゾロさん、なにか欲しいものある?」
「バカ言うな。おめぇが勉強教えてくれてっから、これがとれたんだぜ。こっちが礼しねぇと」
見上げてくるビビに、テスト用紙を折ってポケットに突っ込みながら言うと、ビビの顔から表情が抜けた。
「でも頑張ったのはゾロさんだし…」
「気にすんなって。ほれ何がいいよ。あんまり金は出せねぇが、欲しいもんがあるんなら言ってみな」
「………」
礼もあるが、年上の俺が先にそうかと言う訳にもいかねぇで。
年上の面子と礼の気持ちでビビを促した。
「ん…私は別に…。ゾロさんにはこの前のホワイトデーにチョコレート貰ったし…」
「…………」
それでも言ってこねぇビビに、だが何かこいつが喜ぶもんをやりてぇ気持ちはあって。
「……あ」
「?」
「じゃあよ、一泊二日で旅行しねぇか。丁度明日と明後日休みだしよ」
「え?」
何となく思い付いた提案を言うと、俺を見上げていたビビの目がちぃと丸くなった。
この前の、嬢ちゃんも入れての三人の外出じゃ、こいつはあんま楽しんでなかったみてぇだし、だが俺がついて来てくれねぇかと言った時にゃあ楽しみそうに返事をしていたから、出掛ける事自体は好きなんじゃねぇかと思って。
「旅行っても旅館宿泊とかそんな豪勢なもんじゃねぇぞ。ここから一日自転車こいで、行けるとこまで行くんだ。夜辿り着いたとこでテント張って、次の日には帰る。どうだ?」
「わあ∨、なんだか楽しそうっ∨」
前の様子からしてどうかとも思ったが、ビビは嫌がる事も無く、逆に目を輝かせて食い付いてきた事に、思い付きで言ってみただけだったが俺も妙に面白くなってきて。
「あ…w。でも…w」
「あ?。どうした?」
急に意気消沈してしょぼくれたビビに首を傾げると、ビビが上目遣いで俺を見てきた。
「私自転車で一日走るなんて体力がもつか自信ないし…w。途中でへばっちゃったら、ゾロさんにも迷惑掛けちゃうし…w。やっぱり…w」
「…………」
意気消沈した理由が解って、なんだと、そんな事で行くのを断ろうとしているビビに提案する。
「なら俺の後ろに乗りゃあいい。負荷がある方が足が鍛えられるからな」
「……それって私が重そうって事…?w」
「あ?」
「………w」
なんか困惑の顔で訊いてきたビビに声が出ると、困惑顔のまま俺を見ていたビビが顔を下ろした。
「でも…ゾロさんがそれでいいならやっぱり行くっ」
が、じきに上げてきた顔は楽しげに笑っていて。
「おう、来い来い。その代わりどんな所で寝泊まりする事になるか解らねぇが覚悟しろよ?」
その顔に満足しながら笑いながら返すと、ビビの顔からまた表情が抜けた。
「…公園とかになるって事?」
「公園ならいいがな。下手すりゃ道のど真ん中かもしれねぇし、もしかすりゃ街抜けて山の方まで行くかもしれねぇから、山で野宿になるかもしれねぇ」
「山……」
訊いてきた事に返すと、驚いたみてぇな呆然としたビビの反応に、女が野宿と聞いてついてくるだろうかと気付いて、やっぱやめるか?とビビの反応が気になった。
「すごい!!。私山で寝泊まりなんてした事ないからしてみたい!!∨」
「え…w」
だが、目を輝かせて俺を見上げているビビの意外な反応と言葉にちぃと俺が驚いた。
お上品な見た目のわりにゃ意外に好奇心旺盛な性格なんだっつう事を今知って。
「……じゃあ畑の方向かって走るか。もしかしたら山までは辿り着けねぇかもしれねぇが…」
「うんっ!。それでもいいっ!。じゃあ何持っていけばいいっ?♪。着替えはっ?♪。ごはんはっ?♪」
満面の笑みで訊いてくる、今にも歌い出しそうな程のはしゃぎっぷりのビビに、可笑しさが湧いてくる。
「そんなもんいらねぇ。野宿用の小型テントと、パンクの修理道具だけだ。メシはコンビニで買うから金は一人一万程度か」
「────」
俺の説明に益々目を輝かせて声にならねぇ楽しみげな表情をするビビ。
こいつの見た目からして今までそんな事した事はねぇんだろうと考えると、てめぇでもいい提案をしたと思う。
まぁそんな楽しい事ばかりじゃねぇし、こいつが今考えてるだろう想像とはちぃと違うだろうが、まぁそれが現実って事も知るいい機会じゃねぇかと思いながら、明日迎えにいく約束をしてビビの住むマンションの前でビビと別れた。

今日はまたやけに自転車旅行に相応しい、いい天気で。
出掛けるにゃあ持って来いのいい日だ。
「しっかり掴まってろよ」
「うんっ」
ビビをマンションまで迎えに来て、愛用の自転車に跨がった俺の後ろに横座りで乗ったビビが俺の腹に腕を回してくる。
「それじゃ行くぞ」
畳んだ簡易テントを横に取り付けた、改造して抵抗を最重にしてある自転車のペダルを力一杯漕ぎだし、初めての一泊旅行、そして人連れ旅行に出発した。
「……ねぇ、ゾロさん」
「あ?」
マンションから離れてしばらくした所でビビが呼んできて。
振り向くと、後ろに座る、妙に不安そうな顔付きのビビが俺を見上げていた。
「なんだ、そんな顔して。便所か?」
「違うっ!!///w」
「じゃあなんだ?」
「………その…w」
「?」
「……私重い…?w」
(………?。ああ)
そういや昨日、ガッコの帰りにそんな話になってた事を思い出して。
「大丈夫だ。自転車自体の負荷が重ぇから気にならねぇ」
「Σ」
「あん?。?」
答えると、なんか妙に落ち込んだみてぇなビビに意味が解らねぇで。
それからは二、三回訊いても『もういい…』とちぃと落ち込んだ声と態度で返してくるだけで、そんなビビのその様子に俺何か言ったのか?と、内心で首を捻った。

「ふわあ〜∨」
昼に辿り着いたのは、のどかな田園風景の広がる畑道。
俺と自転車降りて、その畑のあぜ道で両手を広げて笑うビビ。
「私こんな畑のある景色の場所に来たの初めて」
「え、マジでか…」
いくら都会育ちだからって、初めて畑に来たらしいビビにちぃと驚いて。
ならここで昼飯にするかと、途中で買った、握り飯とペットボトルの茶とビールが入ったコンビニ袋を持ってあぜ道を進み、でけぇ木の生えたその根元にビビと座り込んで、買った食いもんを広げた。
「いただきまーす∨」
コンビニの握り飯に両手を添えるビビが、その握り飯にかぶり付く。
「どうだ、こういうとこで食うメシもうめぇだろ」
「うんっ∨」
こいつは根っからの都会生まれの都会育ちらしくて、こういう田舎っぽいところに来るのはよっぽど珍しいんだろう。
その浮かれっぷりに、連れてきてやれてよかったと満更でも無く。
俺にしては真っ直ぐ畑のある場所に来れた事に珍しさを感じながら、渇いた喉をビールで湿らせた。
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