─不良と優等生─

□弁当
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「さー、飯だ飯だ」
昼の弁当が楽しみなのは変わらず、勉強で頭が疲れっから、余計にこの時間が楽しみになった。
コンビニ袋から、毎日二つ買う弁当出して、机に置くと、ビビも弁当を出す。
毎日手作りなこいつの弁当。
くるんだ布から出して蓋を開けた弁当の中は、今日も彩りよく詰められた、美味そうな中身だった。
「…ゾロさんはいつもコンビニのお弁当なんですね」
それを見ながら割り箸を割り、飯を口に入れかけた時、俺の弁当を見ながら言ってきたビビに、飯を一旦口に入れる。
「ああ。俺は一人暮らしだしな。料理も出来ねぇし、昼も夜もこれだ」
「え!?。夜も!?」
飯を食いながら言った事に驚いたみてぇなビビ。
そりゃあ普通の生活してる奴から見りゃあ、俺の生活はかなり特殊だろう。
「ああ。朝は手っ取り早くパンだがな」
「――――w」
俺の食生活を聞いて呆気にとられたみてぇな顔で俺を見ているビビを見て、その目をビビの手元の弁当に向ける。
「おめぇの弁当はいつも美味そうだな。お袋さんの手作りか?」
「あ…w、いえ、私お母さんはいないから。私がまだ赤ん坊の時に病気で…」
「………。…悪ぃ…w」
"それ"を訊いた訳じゃねぇが、だが結果的にマズい事訊いちまった事に気まずさを感じながら詫びると、いいえと笑みが返ってきた。
「じゃあその弁当…、…おめぇが作ってんのか?」
「はい。今一人暮らししてますから、自分の事は自分でしないと」
「へ〜」
容姿端麗、性格もいい、勉強は出来る、運動は出来る、料理まで完璧。
見た目はこんなん、頭も悪ぃ、料理も出来ねぇ、唯一自慢出来んのは運動だけなてめぇと比べて、マジで完璧な人間ってのはいるんだなと、弁当のきんぴら口に入れながら思った。
そのまま白飯食いながら、またビビの弁当に目を向ける。
てか、無意識に目が行く。
マジで美味そうだから、気になる。
「?。どうしたんですか?」
「あw、いや…w。何でもねぇw」
つい箸を持つ手を止めて見ていて、いただきますと手を合わせ終わったビビが顔を向けてきて。
そのビビと目が合って、弁当見てたとは言えねぇで、また、弁当ガン見してたてめぇが情け無くて顔を逸らした。
「……よかったら少し食べます?」
「え…w」
「口に合うかは解りませんけど、まだ箸は着けてませんから。よかったらどうぞ」
ニコッと笑いながら弁当を俺に向けてきたビビに、ちぃと『じゃあ…』とも思ったが。
(……いや…、だがなぁ…w)
こいつの弁当箱は小せぇ。
俺の手のひらに丁度乗っちまうくれぇ。
だから内容量も少ねぇで、おかず一つでも取っちまったら、こいつの分が無くなっちまう。
ただでさえ細ぇ、それに成長期のこいつにゃあ、弁当一回分のカロリーでも貴重に思えて。
「…いや…w、いいw。おめぇしっかり食わねぇと、今日は昼から体育あるだろw」
本当は食ってみてぇがそれを堪えて断った。
「構いません。私これでも多いくらいだから。遠慮せずどうぞ」
「………w。…それじゃあ…w」
にっこり笑って勧めてくるビビに、これ以上遠慮すっと悪ぃような気もして、定番の卵焼きに割り箸を刺した。
(……うめぇ…)
生まれて初めてかもしれねぇ"手料理"を食った事、そしてその味に思わず感動した。
だし巻き卵で、俺のコンビニ弁当にも同じもんが入ってるが、全然味が違う。
なんつうか、自然の味。
余計な味がねぇ、きれいな味な気がする。
「どうですか…?」
「…うめぇ……。マジですげぇうめぇ……」
ちぃと不安そうに訊いてきたビビに、半ば茫然としながら返していた。
「よかった。ならもう一つどうぞ」
「…そうか?w」
遠慮しなけりゃいけねぇんだが、それが出来なかったw。
それ程美味くて。
箸刺して、取った後には空洞が出来た。
「…………w」
ちぃと悪くて、それでも口に入れただし巻きの味は美味くて。
「……おめぇ、こん中から好きなの取れw」
空いた空洞と、大事なカロリーを奪っちまった事への罪悪感に、まだ手ぇ付けてねぇ方の弁当をビビの前に押した。
美味ぇもんの返しと詫びを、添加物やらの味のするもんで返すのもどうかと思うが、貴重な弁当のおかずを取っちまった事への詫びはそうする事でしか返せねぇで。
「…じゃあ私も卵貰いますね」
ふふっと笑いながら、まだ口も付けてねぇ箸を上下逆に持ち直したビビが、だし巻き卵を持って行く。
「…これも食えw」
俺にとって最大のメインディッシュでありカロリー元のエビフライだが、二つあるし、美味ぇ卵焼きの礼だと、箸を上下逆にしてビビの弁当の上に乗せた。
「…………。くすっ。じゃあお返しに」
「あw」
ビビの弁当箱よりデカく、はみ出すエビフライを見ていたビビがくすりと笑い、自分の弁当から何かの揚げもんを取って俺の弁当に入れてきた。
「…悪ぃw」
だがそりゃあ俺がやったエビフライの三分の一くれぇのデカさだから、カロリー的にゃあ貰ってもエビフライで賄えるだろうと、その揚げもんを口に入れた。
(う…うめぇ……w)
食いもんでこんな感動したのは初めてで、食いもんごときの事で情けねぇ事に目頭が熱くなる。
「…この揚げもんもおめぇが作ったのか…」
食った揚げもんはクリームコロッケで、冷め切ってるってのにパサパサもしてねぇし、やっぱりコンビニ弁当のそれとは雲泥の差の美味さ。
「はい。お料理は好きだから。友達も、たまに様子を見に来てくれる父もみんなおいしいって誉めてくれます」
(だろうな…)
こんな上等なもんが出てくりゃあ、俺だったらしょっちゅう食いに行っちまうぜと、口ん中のクリームコロッケの味の余韻を味わいつつ、エビフライをかじった。
(ぐ…っw)
噛んだ瞬間、じわりと衣から染み出た油。
割った割り箸程度の太さしかねぇエビを誤魔化す為の嵩まし分のぶ厚い衣は、油吸っててギトギトで、なのに異様にパサパサモソモソしていて。
一瞬前まで口ん中に広がってたクリームコロッケの味が油臭さに塗り替えられる。
「――――w」
何となく顔向けられねぇで横のビビを横目で見ると、今まさにそのエビフライを食っていて。
あの、揚げてあんのに油っこさが全くねぇ揚げもんで慣れてるこいつには、このエビフライの油っぽさは強烈かつ凶悪なもんだろう。
(…………w)
こりゃあとんでもなく悪ぃ事しちまったと、詫びにやったつもりで随分なもん押し付けちまった事に気まずさを感じて。
何となくビビの方が見れねぇで、残りのエビフライを口に入れた。
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