─幽霊─

□嫉妬
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『お〜…』
最近テレビに興味を示したMr.ブシドー。
内容は時代劇。
生きていた頃を思い出すのか、食い入るみたいにテレビに見入っている。
(……むぅ…)
この時だけは私はほったらかし。
テレビの前に陣取って、私が呼んでも上の空の生返事しか返ってこない。
それがちょっと面白くない。
「Mr.ブシドー?」
『ははは、こんな間抜けな岡っ引きなら世の中盗っ人だらけだな』
(むぅ……)
私よりテレビの方が大事みたいに、夢中になってのめり込んでる。
テレビだって初めて見た時は、画面の中の人にあんな小さい人間が居るのかって驚いてたのに、すっかり馴染んで。
…この時代に馴染んで。
(…………ふふ)
Mr.ブシドーとの五百年という離れた歳月が、少しずつ縮まっていっている。
そう思うと、テレビにMr.ブシドーを取られてる事もなんとなく暖かい気持ちに変わっていく。
「…Mr.ブシドー」
『ん』
テレビがCMに入った間にMr.ブシドーの後ろに膝をついて、冷たい首に腕を回す。
私じゃなくテレビに気を向けてるのはやっぱりちょっと寂しいけど、でもテレビを真剣に見て、時には笑ってるMr.ブシドーも可愛いから。
「テレビ面白い?」
『おう。他のはつまらねぇが、あの時代劇ってのは別だ』
「ふふっ」
返してくる笑みを浮かべる顔は、男らしいのに子供みたいに可愛くて。
テレビにMr.ブシドーを取られちゃってちょっとつまらなかったけど、その笑顔の可愛さを見れたから機嫌も直って、Mr.ブシドーの隣に座って一緒に時代劇を見る事にした。
(ん…)
Mr.ブシドーの体に凭れて肩に頭を置きながら画面を見てて、時代劇の中の侍が持ってる刀がみんな黒い事に気が付いた。
「Mr.ブシドーの依り代の刀は白くて綺麗だけど、あの時代じゃ珍しかったんじゃない?」
肩から頭を離してMr.ブシドーを見上げて訊くと、Mr.ブシドーの顔が向いてきて。
『ん…。ああ、確かにな。だからよく値打ちもんだって目を付けられてよ。おかげで腕磨きにゃ事欠かなかった』
笑いながら返ってきたMr.ブシドーらしい返事。
「ふふっ。でも実際価値もすごかったし、家宝かなにか?」
『いや、あれは元々は俺の親友が持っていた刀だ。そいつは十二の時に死んじまってな。あの刀はそいつの形見でもある』
「親友…」
そんな若くに亡くなってしまったその人の事を気の毒に思いながら、でもその子供の頃の大切な友達を、五百年経った今でも胸に留めてるMr.ブシドーの情の深さに気持ちが暖かくなる。
そんなMr.ブシドーに好きだと言ってもらえる
これからもずっと、Mr.ブシドーは私を好きでいてくれると確かめられた気持ちになれた。
「その親友って人どんな人だったの?。Mr.ブシドーみたいに強い人だった?」
Mr.ブシドーの事また一つ知れそうで、訊いたら、Mr.ブシドーが懐かしそうな笑みを浮かべた。
『ああ、俺が子供の頃に知り合った道場の娘でな』
「え…」
『?。なんだ?』
「あ、ううん⊃⊃。なんでも⊃⊃」
(………)
親友っていうから男の子だとばかり思ってたけど、女の子って聞いてちょっとショックを受けた。
一旦疑問を浮かべたMr.ブシドーの顔は、また懐かしんだ表情を浮かべて。
『俺より多少年上だったが、俺はそいつにだけは勝てねぇでな。それが悔しかったが…』
(…………)
『あいつはいつも真っ直ぐだった…。そんなあいつに挑んでいる内に、あいつは俺にとって特別な奴になっていた…。負けていたのは悔しかったが、あいつが誰かに負けるのは嫌だった…。いつか俺が負かすが、だがあいつとなら二人で強くなっていい…。だから二人で強くなろうと誓った。俺にとっては生涯唯一の親友だ…」
(…………)
懐かしそうに、そして穏やかな顔で仄かな笑みを浮かべて話すMr.ブシドーの目。
私を見てるけど、どこかを見ていて。
その親友って人を見ている。
(…………)
そのMr.ブシドーを見ながら、寂しいような、黒いものが胸に湧き上がる感覚がある。
初めてMr.ブシドーとキスした時、Mr.ブシドーは女の人に気が行った事はなかったって言ってたけど。
本当にそうなんだろうか。
(…………)
大切な親友。
でもほんとにただの親友?。
ほんとは恋心を持ってたから、だから親友に、大切な人になってるんじゃ…。
その人の形見が依り代になるくらいの…。
(…………)
イヤな気分。
胸の中がモヤモヤする。
こんなのは違うと、亡くなった人にこんな気持ちになるのは無粋だと思うのに。
…思うけど。
『ビビ?』
(…………)
呼ばれてMr.ブシドーを見た。
自分でも気付かない内に視線ごと俯いていた私を不思議がってる顔。
大好きなMr.ブシドー。
…なのに。
『どうした?』
「…ううん。なんでもない」
Mr.ブシドーの心に女の子がいると思うとモヤモヤする。
大切な人。
死んでも忘れない人。
親友。
…もしかしたらMr.ブシドーが好きだったかもしれない人。
でもそれを訊くのが怖かった。
好きだったの?って訊いて、そうだって返ってきたら…イヤだ。
Mr.ブシドーの口からはっきり肯定を訊くのがイヤだから。
そうだと言われたら、Mr.ブシドーの心にいるその彼女が、本当にMr.ブシドーにとって大切な人だと解ったら。
怖い。
…亡くなってる人には勝てない。
形見の品が依り代になるくらい大切に想ってるのなら、二番目の私は敵わない。
(…………)
急に遠くなった気がした。
大好きなMr.ブシドーが…、目の前にいるMr.ブシドーが。
ガラス一枚向こうにいるような気持ちになった。
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