─幽霊─

□探し
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「あれ?」
鍵を挿して回したら手応えがなくて。
ドアノブを回したら、ドアが開いた。
「えっ、うそっ。私鍵閉め忘れたっ?w」
そう言えば今日寝過ごしちゃって慌てて家を出たから、閉め忘れていたかもしれない事にちょっと焦った。
(だ、大丈夫よねっw。これだけ部屋があってその上うちは最上階だものっw。泥棒なんて入るわけ──)
ポジティブな考えを考えて自分を落ち着かせながら、それでも慌ててドアを全開に開けた。
「────。!」
玄関から部屋の中へと続く靴跡に、ショックで一瞬頭が真っ白になった。
でもすぐにMr.ブシドーを盗られたんじゃと頭に思って。
「Mr.ブシドー!!。!!!」
靴を脱ぐのもそこそこに家の中に走り込んで、Mr.ブシドーの依り代の刀を立て掛けてあったリビングに走って。
部屋に飛び込んで見た、刀を立て掛けておいた場所にそれがない事に、心臓が縮まった感覚がした。
「────!!!」
床に残る靴跡は真っ直ぐ刀を置いてあった所に向かって、そのまま引き返している。
それを見ながら警察に電話して、どこに連れて行かれたか解らないMr.ブシドーに、胸が潰れそうな気持ちで警察が来てくれるのを待った。

「────」
リビングで警察が色々と捜査している間、寝室でベッドに座ってそれが終わるのを待つ。
(──まだなの──?)
そんな事より、早く刀を探して欲しい。
こんな事をしている間にもMr.ブシドーはどんどん遠くに連れて行かれているかもしれなくて。
「──〜〜〜Mr.ブシドー…っ」
Mr.ブシドーの事を考えて、涙が溢れてくる。
ずっと、これからはずっと一緒にいられると思ったのに。
依り代の刀も私の家に来て、あれから死に神も現れなくて。
ずっと一緒にいられる筈だったのに…。
「〜〜今どこにいるの…っ?。Mr.ブシドー…っ〜〜」
もう会えなくなったらどうしよう。
もう二度とMr.ブシドーの顔が見られなくなったら。
声が聞けなくなったら。
「〜〜〜〜〜」
そう思うと怖くて。
もう離さないって思ってたのに。
「〜〜Mr.ブシドぉ…っ」
もう逢えないかもしれない恐怖に涙が溢れる。
「ネフェルタリさん」
「!!」
開けっ放しだったドアから聞こえた巡査さんの声に、手の平に伏せていた顔を上げた。
「あのっ!、ミっ…盗られた刀は!?」
捜査が終わったのか声を掛けてきた巡査さんに駆け寄って、なにか手がかりが見つかったのか訊いたら、巡査さんが首を横に振った。
「刀の所在を突き止めるには、先ずは犯人を捜し出して、逮捕、取り調べを行った上で自供するのを待つしかありません。刀なら質屋か刀剣を扱っている店に売られている可能性も高いですから───」
(…質屋…)
巡査さんの話を耳に、胸に湧く考えに強く気持ちを引き締める。

警察が帰った家の中。
Mr.ブシドーを立て掛けてあった場所を見ながら、決意に手を握りしめる。
警察なんて待ってられない。
Mr.ブシドーは私が探し出す。
「待ってて、Mr.ブシドー」
町にある店屋全てが載ってる電話帳で質屋と刀を扱ってる店を調べた。
それをメモした紙を手に、家を出て車に乗り込む。
ここに記されてる店に無ければ、日本中全てだって回ってやる。
もしかしたらまだ犯人が持ってるかもしれないけど、それは今は警察に任せるしかないから、たとえ徒労に終わっても私は私の出来る事をする為に車を発車させた。

「────」
…これで八軒目…。
メモに書いた店屋の名前をまた一つ線で潰して、残りが次第に少なくなっていく事に、腹立ちと悲しさ、そしてMr.ブシドーを奪っていった犯人への怒りが湧く。
「──………ほんとにどこにいるの…?、Mr.ブシドー…」
もう完全に日が暮れた。
質屋や刀を扱う店というのは、いつまで店を開けてるんだろうか。
一日が経つと思うと、それだけMr.ブシドーが遠くに行く気がして。
「………。…んんっ」
ハンドルに置いた手の甲に伏せていた顔を上げた。
考えたらまた悲しくなりそうで。
今は泣いてる場合じゃない。
早く、Mr.ブシドーが今より遠くに行かないうちに、早く探し出さなくちゃ。

九件目の質屋はまだ開いていて、車を降りて、店の戸を開けた。
「すみませんっ」
「はい、何でしょうか?」
店にいたのは人の良さそうな男の人で。
「あの…っ、今日このお店に、白い刀を持った方はいらっしゃいましたかっ?」
「…失礼ですが、あなたは」
ここへ来る前の八軒でも訊いてきた事に、私の身分を訊ねる返事が返ってきた。
「私、その刀の持ち主ですっ。その刀は今日私の家から盗まれた物で、今その刀を探して質屋や刀を扱ってる店を回ってるんですっ」
「…………」
男の人は黙っている。
店の信用問題、そして客との信頼から成り立つ商売として、当然の黙秘。
でもそれはさっきまで回ってきた店の店主達との反応とは違っていて。
ここにある。
そう、目の前の店主の態度から確信付いた。
「お願いします!!!。あの刀は大切な物なんです!!!。お金なら払いますからあの刀を返してください!!!」
店主に駆け寄って服の両袖を掴んで、Mr.ブシドーを取り返す為に必死に店主に声を放った。
ダメだと言うなら、警察に連絡されても店の中を探す気構えで、店主の目を見ながら訴えた。
「……待っていてください」
「!」
返ってきたのは、刀を返してくれそうな言葉。
それに声を止めると、店主がお店の奥へと入っていった。


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