─幽霊─

□決着
1ページ/2ページ

あれから月が変わって1週間。
諦めはしたものの、やっぱりMr.ブシドーの事は頭から離れなくて。
もう成仏しただろうか、次は何に生まれ変わってくるんだろうと、そればかりが気になって。
「………」
無理に足を遠のけていたあのデパートに、今夜初めて足を向けてみた。
(………未練がましいわよね…こんな…。Mr.ブシドーはもういないかもしれないのに…)
もしまだいたとしても、もう私の事なんて忘れてるだろう。
成仏出来る嬉しさに。
(…………。………え…)
大道路を挟んでデパートが見える所まで来て、でもやっぱりもう帰ろうと思いながらも、つい目がデパートを見ちゃって。
(───Mr.ブシドー)
なんとなく見た三階の階段辺りの大窓。
そこにMr.ブシドーが見えた。
私に気付いているのかいないのかは解らないけど、ガラスの向こうで真っ直ぐこっちを見ているのは、確かにMr.ブシドーだった。
(なんで…!?、まだ成仏してなかったの!?)
まだデパートにいるMr.ブシドーから目が離せないまま、まだ成仏していないMr.ブシドーに困惑する。
「!」
その時、Mr.ブシドーがガラスに片手をついた。
その体は真っ直ぐこっちに向いてる。
気付いてる。
私に気付いてる。
「ミ…、!!?」
Mr.ブシドーの様子を見て、思わず走り出しかけた時、Mr.ブシドーの後ろに黒いモヤッとしたものが見えて。
「!!!」
それがはっきりとフードを被ったドクロの姿になった瞬間、Mr.ブシドーの前に大鎌の刃が回されて、Mr.ブシドーが驚いたみたいに振り向いた。
「Mr.ブシドー!!!」
Mr.ブシドーがその構えられた鎌から抜け出て逃げたのを見て、慌てて走り出して、思わず車道に出て、
「!!!w」
飛び出した所が車道だった事に気付いたのは、クラクションを鳴らしながら突っ込んできたトラックが横目に見えた時だった。
「きゃあっ!!w」
焦ってそのトラックの前を走り抜けて、夜だというのに次々と走ってくる車を間一髪でかわしながら、なんとかデパートの前まで辿り着いた。
「Mr.ブシドー!!!」
警備員用のドアから中に入って、真っ暗な店内をMr.ブシドーを呼びながら探す。
「!!」
三階で辺りを見回してると、微かに聞こえた金属音。
その音に、Mr.ブシドーの刀と、死に神の鎌の刃がぶつかる場面が瞬時に頭に浮かんで。
「───っ─!!」
何度もどこかからか聞こえてくるその音を辿って、階段を駆け上がり、屋上のドアの前に立った。
「っ!!」
ドアには鍵が掛かっていて、その向こうから聞こえる金属音。
「Mr.ブシドー!!。っ!!」
開かないドアに体当たりする。
肩に痛みを感じて、でも構ってられずに体をぶつけた。
「っ〜〜!!!。邪魔しないで!!!」
助走をつけて思いきりドアにぶつかって、やっとドアが開いた。
「!!。Mr.ブシドー!!!、こっちよ!!!」
『!!!』
ぶつかった勢いで屋上に出たと同時に辺りを見回したら、死に神と対峙するMr.ブシドーの背中が見えて。
叫んで誘導した私に、気付いたMr.ブシドーが走ってきた。
そのMr.ブシドーの手首を掴んで二人で階段を駆け下りて一階に下り、そのまま開けっ放しだった警備員用のドアに向かった。
『うおっ!!』
「きゃっ!!?」
Mr.ブシドーと手を繋いで外に飛び出しかけた時、握ったMr.ブシドーの手が急にビンと止まって。
勢い付いてた私はその反動でMr.ブシドーから手が離れて、勢いのまま路地によろけ出てしまった。
「Mr.ブシドー!!w」
もしかして死神に捕まったのかと思って焦って振り向いても、Mr.ブシドーの周りには何も無くて。
急いで駆け戻った私に、Mr.ブシドーが少し困惑したような顔を後ろに振り向かせ見上げた。
『くそ…っ、やっぱり無理か…。依り代がある限り、俺ぁこの建てもんから出られねぇ』
(しまった…。それもあったんだったわ…w)
死神から逃げる事で頭がいっぱいだったから、すっかり依り代の事を忘れていて。
「っ!、ならその依り代ごと連れていくわ!!?」
『───おしっ!!』
二人でまた階段を駆け上がって三階に走った。
「!!?」
刀を展示してあるケースが見え始めた時、その横に黒いモヤが現れ始めたのが見えて、
「あっ!!」
はっきりと死に神の姿になった事に、咄嗟にMr.ブシドーと足を止めた。
「っ!!、しつこいわよ!!?。Mr.ブシドーはあんたなんかに渡さないんだから!!!」
『……ビビ…』
Mr.ブシドーを庇って立ち塞がって、でも対峙したとはいえ、死神なんてどう相手にしていいのか解らなくて。
「それから離れて!!!。それはMr.ブシドーの大事な刀なんだから!!!」
でもMr.ブシドーの依り代の側に死に神が立ってる事が許せなくて、合気道を使おうと、走って死に神の間合いに踏み込もうとした時、
「!!!」
死に神が、持ってた大鎌を横に振り構えた。
私は勢い付いて止まれなくて、一閃しようとしてくる死に神の姿を見ながらダメだと死を覚悟した。
「!!?」
瞬間、服の背中の一部が後ろに引っ張られて、引っ張られるまま鎌がかすったブラウスがスパンと切れたのを見ながら、顔から血が引いた。
「っ!!w」
引き戻されたまま背中がなにか弾力のあるものに当たって止まり、そのよく知ってる冷たさに振り向き見上げると、Mr.ブシドーが私を受け止めながら死に神を見据えていた。
(Mr.ブシドー…)
助けてくれたMr.ブシドーに頼もしさを感じながら、背中に当たる冷たさに懐かしさを感じる。
『…下がってろ、ビビ』
「…Mr.ブシドー…」
私の体を退かせ、代わりに自分が私の前に立ち塞がったMr.ブシドー。
その透ける体の向こうには、鎌の柄を両手で握り締め、黒い空洞の中の赤い点の目をMr.ブシドーに向けている死に神が見える。
『こいつは殺らせやしねぇ。てめぇは一人で向こうに帰りやがれ』
刀を抜いたMr.ブシドーが身構え、死に神も鎌を構えて対峙する。
『おおあっっ!!!』
先に斬りかかったのはMr.ブシドー。
その振り下ろした刃を、死に神が鎌の持ち手で受け止めた。
『!!』
その受け止めた刀を捌いた死に神が鎌を振るい、それをかわしたMr.ブシドーが大きく後ろへ跳び退く。
『ち…っ。骨野郎のくせになかなか手強いじゃねぇか』
(…………!!)
踏み込んだ死に神。
でもその体は私の方に向かっている。
「!!!」
前に立ち塞がった、透ける着物の緑。
ギィン!!と固い音がして、Mr.ブシドーが死に神の鎌を刀で受け止めた。
(………私が狙いなの…?…)
死に神の鎌を受け止めるMr.ブシドーに庇われながら、何故かは知らないけど死に神が私まで狙ってる事が解って。
「っ…Mr.ブシドー構わないわっ!」
『!?』
私を庇うMr.ブシドーを見上げて声を発すると、Mr.ブシドーの右目が向いてきた。
「私がここで死ねば、一緒に逝ける…!。そうすれば一緒に生まれ変わって、もしかしたら来世ではちゃんと恋人になれるかもしれないっ!」
『…くだらねぇ事言ってんじゃねぇ』
「…Mr……」
返ってきたのは重い声。
とても静かな、低い重い声。
(!!)
Mr.ブシドーが刀を薙ぎいて、死に神が後ろへと跳びずさった。
『おめぇを死なせるくらいなら、俺は死に神にも逆らってやるぜ』
「………!」
ザワリと揺れた空気。
Mr.ブシドーの流れる短髪が揺れている。
『………、。よう…、戻ってきたか』
(ぁ……)
Mr.ブシドーの腰に浮かび出た刀。
まだ展示されている筈の、あの白い刀。
『おめぇがいりゃあ俺の本領発揮だ』
それを抜いたMr.ブシドーが、その刀を口にくわえた。
『…三刀流…』
もう一振りの刀も抜いたMr.ブシドー。
そのそれぞれ両手に持つ刀を構えた。
『鬼……』
手に持つ刀の刃を体の前で交差させながら、Mr.ブシドーの体が沈んだ。
構え持つ刀に力が伝わるのが解る。
『…斬り!!!』
「!!」
瞬発で踏み込んだMr.ブシドー。
瞬間で両腕を広げ、薙ぎられた二振りの刀が、死に神が咄嗟に構えた鎌を斬り割って。
「────」
一瞬だった。
口の刀が鎌の盾をなくした死に神の首を飛ばした。
「────………」
飛んだ首と一緒に静かに消えていく死に神の体。
勝った…。
Mr.ブシドーが…。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ