─幽霊─

□屋上
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「Mr.ブシドー」
今日も見回りの時間が来て、真っ暗なデパートの中を懐中電灯の明かりを頼りに一階二階を見回ってから三階に上がって、昨日彼と喋ったベンチの前でMr.ブシドーを呼んだ。
昨日、大昔に死んでしまった彼に現代の話を色々聞かせてあげると、それを感心したり驚いたり、笑って話を聞くMr.ブシドーに私も話が止まらなくなっちゃって、結局デパートが開く時間前までMr.ブシドーと喋ってて。
「来たわよ。出てきて?」
今日も朝から話す事を考えて、初めてこれだけこの仕事に来るのを楽しみに感じながらMr.ブシドーを呼んだ。
『おう、ビビ』
「Σきゃあっっ!!!w」
出てこないと思ってた所にいきなり真後ろからMr.ブシドーの声がして、思わず飛び退いちゃったくらい驚いて。
『………。…俺が怖ぇか?』
数秒私を無言で見たMr.ブシドーが訊いてきたMr.ブシドーにちょっと焦った。
「そっそうじゃないわよっ!w。でも急に後ろから声掛けるからっ!w。生きてる人間でも真後ろにいきなりいたら驚くでしょ!?w。別にMr.ブシドーが幽霊だから怖がったんじゃないのよ!?w」
慌てて弁明すると、私の言葉を聞いていたMr.ブシドーが『そうか』と、少し安心したみたいに微かに笑った。
「そうよ。それに昨日あれだけ喋ったのに、今更怖いも何もないでしょ?。まぁ最初はあなた消えたり透けたりしてたから怖かったけど…w。ほら、じゃあ座って?。今日も色々話聞かせてあげるから」
笑って言いながらベンチに座って促すと、彼も私の横に腰を下ろした。

あれから二週間。
もうすっかりMr.ブシドーとは親しくなって、今日もMr.ブシドーに会いに三階に上がろうとすると、Mr.ブシドーは既に階段の踊り場に姿を見せていて、ジッと窓から外を眺めていた。
「なにか見える?」
『ん、ようビビ』
声を掛けると私に気付いたMr.ブシドーが仄かな笑顔を向けてきて。
そのMr.ブシドーの隣に立って窓ガラスから外を見てみた。
そこにはいつもの見慣れた夜景が見えて。
「何を見てたの?。随分熱心に見てたけど」
Mr.ブシドーを見上げながら訊いたら、今度はMr.ブシドーが窓の外へと顔を向けた。
『いや…、俺は依り代から離れられねぇからな、この建てもんからは出れねぇんだ。死んでからここに来る前は依り代と共に暗ぇ蔵の中に居たし、この建てもんに来てからも、外の景色はこの透明の板からしか見えねぇ。…一遍でいいからこの辺りの風景がどんななのかちゃんと見てみてぇんだが…』
外を眺めながら言うMr.ブシドー。
その目は本当にその事を望んでる眼差しで。
「…………」
確かにこのデパートには窓というか、外の見える場所はこの階段のガラスしか無く、しかも大通り向きの南側にしか張られてなくて。
Mr.ブシドーはここから離れられないし、なんとかしてここ以外から外の景色を見せてあげたいなと、他に窓がないかと考えた時、いい場所があるのを思い付いた。
「なら最高の所があるわよ、Mr.ブシドー。ついてきて」
行った事はないみたいだけど、あそこならMr.ブシドーの行動範囲内じゃないだろうかと、Mr.ブシドーを先導して階段を昇って、屋上に出るドアの前に立った。
「んっw」
見回りの為に持ってる鍵を使ってドアを押し開けると、途端にちょっと強めの風が入り込んできた。
『風だ…』
「え?」
風に吹かれる髪の毛を片腕で押さえてると、後ろでボソリと呟いたMr.ブシドーの声に、振り向くと、どことなく呆然とした顔付きで開けたドアの隙間を見ていて。
『風に吹かれたなんざ久し振りだ…。ここへ来る前の蔵にゃ風通し用の小窓があったが、ここへ来てからは風なんかにゃ当たってねぇ』
「へぇ、そうなんだ。それじゃあほら、外の世界よ」
ウソップさんの話じゃ、このデパートが建ったのは大正の初め頃、だからMr.ブシドーの言葉からも百数十年ぶりになるらしいその風に緑の髪をそよがせるMr.ブシドーに、その浮かんでる笑みに笑いながらドアを全開にして、Mr.ブシドーを促した。
『…ああ、出れた…』
足を進めたMr.ブシドーはそのまま屋上に出て、そこで一言呟いた。
『おー…、いい景色だな…』
Mr.ブシドーと一緒に屋上に出て、転落防止用の網の柵に指を掛けて夜景を見るMr.ブシドーは、透けてる以外はほんとに普通の人間と変わらなくて。
髪と着流しを風に揺らしながら夜景に見入っているMr.ブシドーの横顔を見ながら、喜んでくれてる嬉しさに顔が綻ぶ。
「気に入った?」
『ああ。気に入った』
返しながら向けてきた顔は嬉しそうに笑んでいて。
『ありがとうよ、ビビ』
「…ふふっ。どういたしまして」
幽霊にお礼を言われるなんてと思うのと、幽霊とこんな風に接してる事、そしてMr.ブシドーのそのお礼の言葉に、色々可笑しさや不思議さ、喜ばせてあげられた満足感に笑みながら、Mr.ブシドーと夜景を眺めた。


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