─原作サイド─

□傷
1ページ/2ページ

「あー楽しかった」
ナミさんも元気になって、トニーくんも新しく仲間になった。
その二つの喜びに、トニーくんの歓迎会の宴会で少しお酒を飲み過ぎちゃったけど、祝いのお酒だし今日くらいはいいかと納得して。
「…あ…」
キッチンに水を飲みに来て、ドラム島の海域からも抜けたから温くなってきた気候にジャケットも脱ぐ事にした時、左腕に巻かれたハンカチが目に留まって。
しまったと思った。
ドラム島に上陸する為のいざこざで撃たれた傷。
それを保護する時に、Mr.ブシドーに説得されて、サンジさんが巻いてくれたナミさんのハンカチ。
あの時、Mr.ブシドーに医者にかかったらついでに見てもらえって言われたのに。
忘れていた。
「………」
一瞬トニーくんに診てもらおうかと思ったけど、トニーくんはまだみんなと楽しそうに宴会してる。
そんな所を邪魔するのも悪いから、自分で処置しようとハンカチの縛り目を解いて。
「…いたっ」
傷からハンカチを離そうとした時走った痛みに思わず声が出てしまった。
「…ん……、っ…」
布のハンカチは血と分泌液を吸って乾いて、傷口と完全にくっついていて。
剥がそうと引っ張っても、鋭い痛みが走って剥がせない。
「…っ…い…っ」
「何してんだ」
「!!。あ…Mr.ブシドー…」
痛みをこらえてハンカチを剥がしている時、後ろからした声につい驚いて。
見たら、キッチンの入り口にMr.ブシドーが立っていた。
「どうしたの?、お酒のおかわり?」
「いいや、もうこれも着替えようと思って、その前に水飲みに来ただけだ。お前こそ何してんだよ」
「あ…ええ…ちょっと…w」
ワポルの兵士から奪ったコートの腰に片手を当てて言ってきたMr.ブシドーに、見つかったのがMr.ブシドーで、ちょっと気まずさが湧いた。
あの時あれだけ真剣に説得されて、医者に診せろと言った彼に、それを忘れた事を言うのも知られるのも気まずくて。
Mr.ブシドーからハンカチが見えないようにMr.ブシドーの視界から隠し気味に体の向きを傾けた。
「?。なんだ?。何隠してんだ」
「えw。いっいいえっ?w、何もっ?w⊃⊃」
このMr.ブシドーはそういう事には勘が良くて。
嘘もすぐに見破られる。
だから彼にだけは、嘘をつくのは別の意味で気持ちが焦る。
「?。、。…お前そう言えば」
「なっなにっ?w⊃⊃。あっ!w」
何かに気付いたみたいな表情をしたMr.ブシドーに突然肩を掴まれて、引かれたその力に抵抗出来なくて、前を向かされて。
正面に立つMr.ブシドーの目線は、私が押さえてる腕のハンカチを見ている。
「…診せなかったのかよ、その傷」
「ぅ…w。ご…ごめんなさい…w。つい忘れてて…w」
どこか不機嫌な表情を浮かべているMr.ブシドーに気まずくて。
「で、でも大丈夫よっw、今から手当するしっw。このハンカチのおかげで寒さには当たってないから、悪い事にはなってないと思うわっ?w」
Mr.ブシドーに怒鳴られた事はないけど、本気で怒鳴ってきたらちょっと怖そうだし、なんかいつもと違う雰囲気を放つMr.ブシドーを宥める為に、つい焦り笑いながらMr.ブシドーが納得する言葉を選ぶ。
「…。…たくっ。マジでしょうがねぇ奴だな…おめぇはよ。なら待ってろ。おいチョッパー!!」
「!。Mr.ブシドーいいからっ!⊃⊃。トニーくんは今みんなと宴会楽しんでるんだから邪魔しちゃ悪いからっ!⊃⊃。手当ては自分でするからっ!⊃⊃」
体を振り向かせて船首デッキにいるトニーくんを呼んだMr.ブシドーを慌てて声で止めた。
「───。全く…っ。どこまで人に気ぃ使う人間だおめぇは」
(………w)
言葉を止めて振り向きながら呆れて言ってくるMr.ブシドーに、何故か気持ちが竦む。
Mr.ブシドーは雰囲気がみんなと少し違うから、彼の呆れは何かやたらと気持ちにのし掛かってくるw。
「なら早くしろ。気温が上がってきた。傷が蒸れりゃあ化膿しやすくなる」
「それが…w、傷口に布がくっついて剥がれにくくなってて…w」
「、。…しまったな…w。それを忘れてたぜw」
(…………)
珍しく、失敗した事を表情に見せたMr.ブシドーに少し驚いた。
Mr.ブシドーでもこんな顔するんだと知って。
「てめぇの傷なら気にせず引っ剥がせるが…、女はそうはいかねぇし…w。あん時ゃそこまで考えてるヒマは無かったからな…w」
(………)
どうやらMr.ブシドーは女の私には無茶な事は出来ないみたいで。
このハンカチを巻く事になったあの時は、私を説得する為にわざと私に痛みを与えるやり方を選んでたみたいだったけど…。
(…ほんとは痛みを味わわせたくないの…?)
疑問に思って、でもこの彼はそんな人なんだと思う。
ちゃんと人を気遣える人だって事は、今までの時間でなんとなく解ってきていた。
「仕方ねぇ、ハンカチ濡らして剥がせ。無理に剥がすとまた血が出るからな」
「それが…もう、ちょっとだけ出ちゃって…w」
「…はあw。何やってんだ、おめぇは全く…w。…まぁ俺もおめぇの事は言えねぇが…w」
Mr.ブシドーが懸念する事を既にしてしまっている事に、ため息ついて辟易したMr.ブシドーだったけど、自分の失敗を思い出したみたいで。
呆れに似た表情を途中で消して、私の腕を取って、ハンカチを捲って私の傷の開き具合を確認した。
「まぁ大して剥がれちゃいねぇ。とにかくハンカチ濡らして剥がせ。滲みるだろうし、また血は出るだろうが、無理やり引っ剥がすよりゃマシだ」
「ん…」
Mr.ブシドーに言われて、シンクの前に立つ。
ジャケットも濡れる事になるけど、ハンカチを外せないから脱ぐ事も出来なくて。
傷の位置からして蛇口から直接ハンカチに水を掛けるのは難しいから、ボウルに水を入れて、シンクの上で水平に上げた腕にその水を掛ける。
「薬と包帯取ってくる。俺が戻るまで剥がすなよ」
「ん…、ごめんなさい…w、面倒掛けて…w⊃」
みんなにはもうこれ以上面倒や世話を掛けさせたくはない。
私はみんなに大きな面倒を背負わせた。
だからそれ以上、みんなの手を煩わせたくはないのに…。
(…………)
思いもしなかった怪我をした事で、今もMr.ブシドーに世話を掛けさせてる事を謝って、私の謝りに無言で部屋を出て行ったMr.ブシドー。
閉まったドアを見ていて、お医者に診せ忘れた事への申し訳なさも感じながら、ハンカチを押さえてイスに腰を下ろした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ