─原作サイド─

□礼
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「どうしよう…。血が止まらないわ…w」
酒樽に座るMr.ブシドーの両足からは、拭っても拭っても血がじわじわと溢れてくる。
蝋に固められ、それでも戦うと言って切ったMr.ブシドーの足の傷は深く、血がなかなか止まらない。
「この程度、唾でも付けて寝てりゃ治る」
自分の体の事なのに、事態の深刻さを深く考えていないのか、平然と言ったMr.ブシドー。
「駄目よ!!。こんな深い傷!!。せめて縫わないと…w」
「……解ったよ。面倒だが仕方ねぇな」
「え」
私の言葉に渋々同意したMr.ブシドーが、腹巻きの中に手を入れて。
取り出したのは、紐と言うに近い太い糸がぐるぐると巻かれた小さな厚紙。
それをMr.ブシドーが弄り、紐が解けて、クルクルと回転しながらその厚紙が床に落ちて。
「え……」
Mr.ブシドーが指に摘み持ってるのは、針。
しかも普通の裁縫用じゃない、畳針とか言う大きな太い針で。
「え!?。まさかそれで!?w」
縫うつもりなの!?と、驚いてMr.ブシドーに訊くと、
「ああ、そうだ。深ぇ傷はいつもこれでてめぇで縫ってる」
「…………w」
シレッと返してきたMr.ブシドーの返事と表情に、少し呆然とそのMr.ブシドーを見返した。
いつも縫合してるのなら、どうして今回はほっとこうとしたのか。
この足の傷だって結構深いのに、Mr.ブシドーのいう"深い傷"というのは、彼の中でどの程度の尺度なのか解りかねて。
しかもその傷を自分で処置してるって事にも、どこまで破天荒な思考の人なのかと、唖然としていると。
「ん」
側にあった木箱を寄せて、その上に足を置き、Mr.ブシドーがなんの躊躇も無く足にその針先を向けた。
「待って!!w。麻酔は!?w。消毒もしないと!!w」
「必要ねぇ。……んん…?」
私の言葉にどうでもいいような返事をしたMr.ブシドーが、傷に手を伸ばして声を捻った。
傷はくるぶしより少し上の外側。
届かない場所じゃないけど、かなり体勢的に辛そうで。
「…ぐ……w、くそ……w、だーー!!。やりづれぇ!!#。やっぱりもういい!!#」
「Σw」
何度かもぞもぞと体を動かして縫いやすい体勢に挑戦してたMr.ブシドーが急に癇癪を起こして、怒りながらその針を海に投げ捨てようとした。
「待って!!w。なら私が縫うわ!!?w」
「ああ!?」
こうしてる間にも血は滲み出してきていて、足を置いている木箱も血で汚れ始めてきている。
なのに黙っていたらほんとにほっときそうで、見かねて言うと、針を振り上げたまま驚愕と疑問の顔でMr.ブシドーが顔をしかめた。
「…おめぇ王女だろw。縫合なんか出来んのかよ…?w」
「ほ、縫合はした事はないけど大丈夫!w。お裁縫はまあまあ得意だから!w」
「…まあまあかよ……w。しかも裁縫って…w。まぁ縫うには変わりねぇが…w」
「あっw。でっでも絶対に失敗はしない!!w。気を付けるから!!w」
「………w。…まぁ…そこまで言うなら…w」
疑うMr.ブシドーの目を見返しながら訴えると、渋々ながらも納得したように針を渡してきた。
その針を受け取って、床に膝をついてMr.ブシドーの足の傷を見る。
医療の知識は無いからどんな状態なのかは判らないけど、それでも酷い事だけは解る。
でも綺麗に切れているから、これなら綺麗に縫合出来そうと、少し安心した。
「………w」
布は縫った事はあっても、人の皮膚なんて縫った事は無くて。
でも縫わないと血は止まらないし、やると言ったからにはやらないと。
「……いくわよw」
「……おうw」
Mr.ブシドーを上目で見た私に、少し緊張した顔でMr.ブシドーが返してきた。
少し躊躇いながら傷を手で塞いで、針を皮膚に刺すと、
(ん……w)
針から手に、皮膚に針が刺さる嫌な感触がして、思わず顔をしかめてしまった。
でもやめるわけにはいかなくて、縫い合わせる為に針を進ませ糸を通すと、布に通るのとは違う感触が、ズルズルと引っ張られながら出てくる血に染まった糸から伝わってくる。
「……痛くない…の…?w」
Mr.ブシドーは声一つ出さず、それどころか微動だにさえしない。
そんなMr.ブシドーを見上げて訊くと、
「ん…そりゃあ痛ぇが…。まぁ蜂に刺されてると思やぁ何て事ねぇかね」
少し詰まったような口調と声で返してくるMr.ブシドーの顔は、少し眉間にシワを寄せて歯を噛みしめてはいるけれど。
(………ちょっと…怖い…かも…w)
麻酔も無しに体に針を通されて、その程度の様子でしかないMr.ブシドーに少し怖さを感じた。
よく思い返せば、これだけの傷なのに平気で歩いて船に帰ってきたし、この人の精神力はすごいけど、少し怖いw。
でも、痛い痛いと叫ばれて暴れられたらこっちもやりにくいけど、ピクリとも動かないでいてくれるからやりやすい。
「っ…。…へぇ…。結構上手ぇじゃねぇか……」
ふいに声が上から聞こえて、顔を上げると、腕を組んで私の手元を見てきているMr.ブシドーの顔に、感心の表情が浮かんでいる。
「…私、子供の頃はすごくおてんばだったの…。服もあちこち破って、子供心にあんまり破いてばかりだと怒られると思って、自分で縫って直してたから。あの頃は全然下手くそで、結局お手伝いさんが縫い直ししてたけど…」
懐かしい子供の頃の事が頭に浮かぶ。
あの頃は…ううん、二年前のダンスパウダーの事件があるまでは、アラバスタは平和な国だった。
それなのに、あの男のせいでアラバスタは…、国の人達は……。
「……あっ!!w」
「あ?」
怒りを感じながら考えていて、思わず考えに集中しちゃって。
刺した針の先がかなり斜めから出てきちゃって。
「─────w」
「……ちぃとうめぇと誉めた途端にそれかよ…w」
「ごっ、ごめんなさいっ!!w。ちょっと考え事しててっ!!w⊃⊃。ど、どうしようっ!!w⊃⊃」
「…いいからもう×にでも縫っとけよ…w。たく…」
(う……w)
上からの辟易みたいなため息に、失敗した気まずさを更に煽られながら、失敗部分を補正していく。
「…ま…、そのお転婆ぶりが、今のおめぇのその行動力に繋がってるって訳だ…。っ…」
「、……じっとしてはいられなかったから…」
もう失敗しないように、考えには集中しないように気を付けながら、Mr.ブシドーの傷を縫いながら返事を返す。
「…………」
「ん、出来たわ。ごめんなさい…、変な縫い方になってしまってw⊃。……あ…。あ」
皮膚なんて初めて縫ったから、なんだか全体的に下手くそな縫い方で。
その中でも一際目立つ×縫いへの申し訳なさに謝って、丁度終わった縫合に糸を括った後、紐のようなこの糸を切るものがなくて一瞬だけどうしようかと思った時、Mr.ブシドーが傍らに立て掛けてあった刀を抜いて、その糸を切った。
「じゃあ、次は右足を乗せて?」
「…ん」
木箱の上に足を置き換えたMr.ブシドーの、その同じような傷を同じように縫っていく。
「はい、出来たわ」
二回目は慣れのおかげで躊躇する事も無く、一度目より早く縫合も終わって。
足に流れた血を拭きとった後包帯をとりにいくついでに手と針を洗い、戻って彼の両足の傷に包帯を巻き終わると、針をまた腹巻きに仕舞ったMr.ブシドーが口に笑いを浮かべた。
「よっしゃ。なら鍛錬鍛錬」
「え」
今縫ったばかりなのに、そんな事を言って立ち上がったMr.ブシドーの言動に少し驚いて。
「駄目よ!!w。そんな事したら傷が開いちゃう!!w」
「あ?」
歩いてバーベルの方に行こうとしたMr.ブシドーの前に回って立ち塞がると、
「……どけ」
静かな口調に、でも微かな険しさを含んだ声で言ったMr.ブシドーが、私を体で押し退けるように強引に足を踏み出した。
「駄目だって!!w。無理して傷が酷くなって歩けなくなったらどうするの!?」
ズンズンと進んでいくMr.ブシドーを手と体で押さえて止めながら言うと、
「ならねぇよ」
(…………)
Mr.ブシドーの声が変わった。
固さを帯びた声と止まった足にMr.ブシドーを見上げると、前を見たままの表情も変わっていて。
「…今日の事で思い知らされた。俺はもっと強くならねぇと」
「…………」
決意を宿した、強い目と表情。
この彼のここまで堅く真剣な表情を見たのは初めてだった。
それ程までに、この人は強さを求めている。
そこまでして強さを求める理由は判らないけど、私には止められない。
止めちゃいけない。
そう思った。
「…なら無理はしないで。足に負担の掛かるような事は傷が塞がるまで絶対に駄目」
「あ?」
止めない代わりに条件を出すと、前を見ていたMr.ブシドーが向けてきた顔からは一瞬前までの険しさは抜けていて。
この数日見ていた、普段通りのMr.ブシドーの顔が私を見てくる。
「バーベルは踏ん張るでしょ?。だから駄目。するなら腕だけ鍛えるトレーニングにして」
「………。……解ったよ」
やれやれというような顔でそれでも納得して、目を逸らしながら仕方なさそうに頭を掻いた。
「絶対よ?」
「ああ」
「……約束してね」
「…………解ったよ。約束する」
ナミさんが言ってた。
Mr.ブシドーは約束は絶対に守る男だって。
一度決めた信念は貫き通す男だって。
だからこう言っておけば無茶はしない…と思うw。
私の目を見て返事をしてきたMr.ブシドーを一応信じて、彼の腕に当ててた両手を離した。
(え?)
元の場所に戻るかと思ったら、Mr.ブシドーがそのまま私を避けて歩いて通って。
「ちょっ!!。ちょっと!!w」
「あ?」
真っ直ぐ進んでバーベルを掴んだMr.ブシドーについ声を荒らげた。
「今約束したじゃない!!w。足に負担の掛かるような事はしないって!!w」
「わかってるよ。取りにきただけだ」
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