─原作サイド─

□自覚
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てめぇの"それ"には薄々気付いていた。
『あいつに惚れている』
この俺が女に惚れた。
女に気を取られた。
それがてめぇで信じられねぇで、だが、それも当然な気もした。
大した女。
力は伴ってはいねぇが、心意気は上等な女。
あれ程の心意気、そして心根を持った女に、俺は出会った事がねぇ。
王女の立場で自らの命も顧みず。
王女だから、国の為に、そこに住む国民の為に命を張って。
あんなひょろっこい頼りねぇ体で、鷹の目と同じ王下七武海の海賊相手に、真っ向から挑んでいる。
すげぇ女。
すげぇ王女。

『威勢のいい王女だな』
初めて女を評価した。
あの時、ビビが自国の状況を話し、王女という身分をかなぐり捨てて裏組織バロックワークスにスパイとして潜入していた話を聞いた時の、その王女らしからぬ行動力と度胸に感心し口から出た言葉。
あまり女を評価はしねぇ俺が、その時から既に、あいつにはかなりの好印象を持っていた。
そしてリトルガーデンで発した台詞。
『私も戦うわ!!!』
俺に言ってくるビビの目に"戦士"を見た。
蝋に固まっていく体。
このままじゃ死ぬ。
こんな所でくたばるなら、足ぐらい捨てて足掻いてやろうじゃねぇかと、無様に抗う事を選んだ俺に、横のビビが発した。
必死とはいえ、迷い無く発せられたその言葉に、戦士の目を向けてきたビビに、俺の中でその『剛胆な王女』が特別な女になったのがてめぇで解った。

「……いい度胸だ」
また図らずも出た、感心の言葉。
てめぇの国がこれまで以上に深刻な状況に陥ったってのに、ナミの病気を治す事を優先した事に。
(…………)
聞いてくれと俺達の耳を傾けさせ、言い出した事はてめぇの都合。
早くアラバスタに向かって欲しいと。
全速力で向かって欲しいと。
それに多少、この程度の女かと幻滅した。
所詮はてめぇの国が助かりゃあ、てめぇの国の国民が助かりゃあ、その他の命はどうでもいいのかと。
その程度の女だったのかと。
王女としても人間としても、その程度の奴だったのかと多少ながらも幻滅の念を覚え、そんな女に感心し、高評価していたてめぇがバカらしく思えた。
だが…、その程度だったのはてめぇの方だった。
こいつの考え、こいつの真意。
それを読めなかったてめぇに自嘲した。
俺よりも、俺達よりも、他人の事を、ナミの事を考えていたこいつ。
誰の命も見捨てやしねぇ。
たとえそれが、一時乗り合う事になった海賊の、たった一人の命だったとしても。
見捨てやしねぇ。
多少なりとも幻滅した分、その王女の器は評価を引き戻し、それを上回らせるのに十分だった。

「何やってんだ、あいつら。早くナミを医者に見せねぇといけねぇのに」
「………。待ってろ、見てくる」
ナミを背負うルフィを甲板に残し、ついて行くと言いながらなかなか女部屋から出てこねぇウソップ、ビビ、コックの様子を見に、通路部屋のドアを開けた。
「ちゃんと手当しねぇと駄目だってビビちゃん!w」
「そうだぜビビっw。いくら掠っただけだっても、怪我は怪我だw。ちゃんと手当しねぇとよっw」
「大丈夫よ、これくらい⊃⊃。それより早くナミさんをお医者さんに診せないと⊃⊃」
(…………)
戸板を開けた瞬間に聞こえてきたコックとウソップの説得と、ビビの遠慮の言葉に何となく状況が解った。
中に入り階段を降りると、コックの手には消毒薬と包帯が持たれていて、手当をしようと近寄るが、ビビは困惑と渋りの態度で逆に二人を宥めている。
(…………)
そのビビの腕。
裂け口が焦げたジャケットの破れ目から見える傷口。
弾が掠っただけだが結構深く、血は止まってはいるが、未だその傷口は血と分泌液で濡れている。
だがあいつは遠慮か時間が惜しいのか、手当てを断り。
フェミニストのコックは口調は強ぇが、力ずくで手当ては出来ず、ウソップも女にやたらに触るのは憚られるのか、口で説得しているだけで。
こういう時にナミが健在なら叱りながら無理やり手当するだろうが、あいつは今は熱で意識すら混濁している状態。
ルフィはそのナミを負ぶって、寒風の中、甲板で待っている。
あの状態のナミを雪国の風に当たらせてるのもマズいが、だがこいつの傷をそのままほっとく訳にもいかねぇ。
(…………)
「、w。痛っ!」
「!?。マリモ!、てめぇ何を!!。ビビちゃん怪我してんだぞ!!」
「ゾロw」
横から、ビビの傷のある腕を掴み上げると、ビビが痛みを口にし、俺に気付いたコックとウソップがそれぞれ声を出してきた。
「解ってるよ。俺も見てただろ」
「だったら手荒なマネするんじゃねぇよ!w。ビビちゃんの細腕はてめぇのクソ太ぇ腕とは違ぇんだからよ!w」
「こうでもしねぇと、てめぇの傷がどれ程のもんか自覚しねぇだろ、こいつは」
「……Mr.ブシドー…w⊃」
力ずくは俺が適役。
静観していたが埒が明かねぇ状況に強行に出た俺に、コックが文句を言い、ちぃと気まずげに上目で俺を見上げてくるビビのその目を見据える。
「確かに時間がねぇ。だがおめぇのこの傷も剥き出しでおいておく訳にはいかねぇんだ」
「………、マリモ…」
「大丈夫よ、これくらい!⊃⊃。あなたなら解るでしょ!?、Mr.ブシドー!⊃⊃。今は一刻を争うの!⊃⊃。早くナミさんをお医者さんに診せないと!⊃⊃」
「ああ、解るさ。ナミの状態がヤベェのも、おめぇのこの傷をほったらかしておくのもヤベェ事もな」
「…ゾロ…」
前からしたウソップの声を聞きながら、俺の言葉に必死さが僅かに薄らいだビビの目を見返す。
「これから上陸するのは雪国だ。剥き出しの傷口が凍傷になりゃあ、治りが遅くなる所か化膿して更に悪化するかもしれねぇ。おめぇこそ破傷風やら敗血症で倒れさせる訳にはいかねぇんだ。アラバスタの為にな」
「!。……⊃」
「おめぇがこうして手当てを愚図ってる間にも、今ナミは外で寒風に晒されてるんだぜ。それも考えろ?」
「あ…!。───⊃」
初めの説得でてめぇの立場を思い出したらしく、意気消沈しながら俯いたビビに続けて言った事に、新たに今の状況に気付いたらしく目を見開いて顔を上げたビビの眉間にいくつものシワが寄り、その反省に似た様子にナミに対する心配と申し訳無さ、そしてそこまで考えが至らなかったてめぇを悔やんでいるのが解る。
「解ったみてぇだな。ま、俺と船で留守番してるってのなら話は別だが、どうする?。手当てか居残りか」
「──ナミさんの側についていてあげたい…」
「なら決まりだな。だが確かに手当してる時間はねぇが、どうせ医者にかかるんだ、この傷もついでに診てもらやぁいいさ。取り敢えず寒さに当たらねぇように手拭いだけでも巻いておけ。おい」
「、…ああ。さ、ビビちゃん」
「…ごめんなさい…⊃」
どうやらようやく理解したらしく大人しくなったビビの腕をコックの前に出し、コックがナミの厚手のハンカチでジャケットの上から傷を縛った。
「じゃあ船番頼んだぜ、ゾロ」
ナミとルフィに詫びる為にだろう、走って女部屋を出て行ったビビに続いて、ウソップとコックが出て行く。
(全く…)
その二人が出て行った後の静かになった女部屋で、苦笑に近ぇ笑いが出る。
真っ直ぐすぎて、必死になると周りが見えなくなる融通の利かなさと、人の怪我にゃあ大袈裟な程心配して手当しろと引かねぇってのに、てめぇの怪我は無視する他人第一思考。
正論で制さねぇと意見を曲げねぇ妙な頑固さに、やけに可笑しさが湧いてくる。
ミスなんとかって時は変な女だと思ってたが、今は色々な意味で可笑しい奴だと思えるあいつ。
生真面目で、何に対しても真剣なくせにどっかで抜けていて、うるせぇ時もあるが、上から物を言いやがるナミみてぇじゃねぇから、腹が立つ程でもねぇ。
その真っ直ぐな心根が、だが抜けた性格が、面白く、ほっとけねぇ。
益々惚れちまう。
「…仕方ねぇよな…」
あんな女初めてだから。
あんな心根の強ぇ、大した女、滅多に居ねぇから、惚れちまったのも無理はねぇ。
「…………」
ベッドに腰を下ろして、あいつの腕を掴んだてめぇの掌を眺める。
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