─海賊姫─

□傷
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「見せなさい!!。船長命令よ!!」
掴む手をそのままに、力ずくでシャツを破いた。
「っ!」
「――――!!」
後ろでサラさんが声を詰まらせて、私もショックで声が出ない。
Mr.ブシドーの体に巻いた包帯は血膿を吸って、包帯の色が変わっている。
「っ!!」
傷の状態がそれだけで想像出来て、包帯を切ろうと、手首を掴むMr.ブシドーの手を振り解いて小物机に見えたハサミに走った。
「やめろ…っ!。何ともねぇ…っ!」
それを持って戻ると、Mr.ブシドーが力ずくで体を起こしてハサミを奪おうとしてくる。
「こんな状態で何ともないわけないでしょ!!!。サラさん!!、Mr.ブシドーを押さえてて!!」
「はっはいっ!!⊃⊃」
「ぐ…っ!」
サラさんがMr.ブシドーの両腕を押さえてベッドに押さえ付ける。
普段なら私とサラさん二人掛かりになっても止められないだろうMr.ブシドー。
でも今は私より力のないサラさんに押さえられて身動き出来ないでいる。
それだけ体の状態が悪いんだと、急いで血膿に汚れた包帯にハサミを入れた。
「!!」
やっぱり酷く化膿して真っ赤に腫れ上がった、乱雑に縫われた傷跡。
縫ってある糸も医療用じゃなく、紐みたいな太い糸で。
「Mr.ブシドー!!。これどうしたの!?。誰がこの傷縫ったの!!」
「………っ」
訊いても目を逸らして答えない。
「サラさん!!。あなたついて行ったでしょ!?。これお医者さんが縫ったの!?」
「…あ…あの…⊃⊃」
私の問いに狼狽えるサラさん。
その目は私とMr.ブシドーを行き来している。
サラさんも隠している。
そしてMr.ブシドーは医者には行ってない。
そう直感した。
「………てめぇで縫った……」
「!!」
サラさんの代わりにMr.ブシドーが言った言葉にやっぱりと、そんな予感がしていた自分の直感が当たっていた事に動揺する。
「どうしてそんな事したの!!?。どうしてお医者さんに診せないの!!。その為にサラさんに任せたのよ!!?」
「…今までずっと傷はてめぇで縫ってきた…。…今回も寝てりゃ治る……。…医者なんざ必要ねぇ……」
「――――」
考えれば解る事だった。
Mr.ブシドーの性格。
そして、こんな深い傷を縫って医者がすぐに帰らせる筈がないって。
あの時Mr.ブシドーの性格をよく考えて、私もついて行くべきだった。
一日もしないで帰ってきた事を不審に思うべきだった。
「〜〜〜〜〜」
自分の思慮の至らなさに憤り、Mr.ブシドーの嘘に、そしてサラさんが口裏を合わせていた事に、悲しい気分になる。
自分だけ疎外されてる気になって。
でも今はそんな事よりMr.ブシドーを説得する方が先だった。
「何言ってるの!!。これはただの傷じゃないじゃない!!。鷹の目に斬られたのよ!!?。普通の傷とは違うじゃない!!」
「…傷は傷だ……。…変わりゃあしねぇ……。…このまま寝てりゃ治る……」
「こんなに膿ませて熱まで出してどこが変わらないのよ!!。この二日間も寝てたけど悪化してるじゃない!!」
「っ、――――」
言い返す言葉に詰まって悔しげに言葉を止めたMr.ブシドーに、こんな事をしている場合じゃないと、
「サラさん!!、Mr.ブシドーを見てて!!」
Mr.ブシドーをサラさんに任せて、ドアに走った。
「ビビさん!!、どこに!?」
「近くに島がないか、地図を見てくる!!。お医者さんに診せないと!!。サラさんはMr.ブシドーをお願い!!」
「ええわかった!!」
サラさんの返事を聞くのもそこそこに甲板に出て、船長室に走った。
「―――よかった!。すぐ近くに島がある!」
地図で現在位置と島の位置を確認して、甲板に出て、舵を握る。
順調に進めば三時間もすれば島が見える筈。
船首を目的方向に向け、ひとまずホッとしてMr.ブシドーの様子を見に、船員部屋に戻った。
「…ゾロさん…、しっかり……」
(…………)
心配そうにベッドの隣に膝をついて、Mr.ブシドーの顔の汗を拭きながら声を掛けているサラさん。
Mr.ブシドーもさっきの剣幕もなく、その看護を甘んじて受けている。
「……悪かったな……。黙ってろっつっておいて…俺が口割っちまってよ……」
「…ううん…。私こそごめんなさい…。もっとちゃんとゾロさんを説得してゾロさんをお医者さまにつれていくべきだった…」
「はは……、…そりゃ無理だ……。…おめぇはあいつみてぇに強引にゃあなれねぇ……。…おめぇはあいつと違っていかにも女らしいからな……」
(…………。――――⊃)
女らしさ。
私とサラさんの違い。
海賊育ちの私と、令嬢育ちのサラさん。
選ばれる方は明らかだ。
(……………)
邪魔しちゃいけないという思いと、やっぱり二人で口裏を合わせて私に隠していた事への疎外感と寂しさ悲しさ。
そして、二人の間に流れる静かな空気に、それ以上見ているのがつらくて、音を立てないように注意しながらドアを閉めた。

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