─不良と優等生─

□結婚式
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「…随分上手く取り入りやがって…」
(?)
不意に聞こえた男の言葉に、ビビから男の方に顔を向けっと、殴られた腹を押さえて悔しげに俺を睨み付けている。
その男の"取り入る"って言葉が引っ掛かった。
「なんだ、取り入るってのは…」
「知らばくれるな!!!。てめぇも俺と同じ、こいつの身分を利用してるだけだろうが!!」
「………?。身分…?」
「その女が社長令嬢だからその女に近付いたんだろうが!!」
「――――」
男の放った言葉に、瞬間頭が茫然とした。
「………社長令嬢…?w」
男の言葉を反復し、後ろのビビを振り返る。
「おめぇ……、社長令嬢って……?w」
「…………」
顔だけ向けて言った俺の問いに答えずちぃと俯いたビビに、そのちぃと奥に立つ変わった髪型の大男に顔を向けた。
「おい…、あんたこいつの関係者だろw。どういうこった…w」
「…ビ…ビビ様はこのネフェルタリ・コブラ社長が創設し総括されるアラバスタグローバルコーポのご令嬢です…w」
「――――」
どっかの音楽家みてぇな頭の男の言葉に、ビビの真後ろに立つ威厳のある男の素性と、ビビの身分がハッキリして。
「―――………」
「Σゾロさん!!?」
(Σ!!)
そのビビの、てめぇとかけ離れたあまりの身分の高さに気が遠くなりかけて、横に卒倒しかけた俺の気を戻らせたのはビビの驚いたみてぇな声と、腕を掴んで体を支えてきた手の感触で。
(……………)
俺の腕を持ったままのウェディングドレス姿のビビを振り向きながら見下ろし、その清楚で、まさに社長令嬢といった容姿に、今までなんで気付かなかったのか、てめぇの鈍さを痛感する。
そして後悔した。
「……俺…やっぱおめぇと関わった事間違いだったかもしれねぇ……」
「…ゾロさん……?…」
ビビから顔を逸らして洩らした言葉に、視界の端に入るビビが悲しげに眉尻を下げた。
そのビビに目を戻して見つめる。
俺には釣り合わねぇ、釣り合わなすぎるこいつの身分。
本当は手も届かなかった、こいつの地位の高さ。
俺みてぇなのが側に居ていい人間じゃねぇ。
「…どうして……」
「どうしてじゃねぇだろ!!!w」
解らねぇみてぇなビビに思わずビビの正面に向いた。
「俺は三年もダブってたような男だぞ!!?w。おめぇと結婚するってこた俺が次の社長になるって事だろ!!?。無理だ!!w、ぜってぇ無理だ!!w。継いだ途端に会社壊しちまわぁ!!!w」
「…………」
「今からでも遅くねぇ!!w。あいつでも俺でもねぇ、もっと頭が良くておめぇの事ちゃんと想って幸せにしてくれる奴見付けろ!!w」
「……君はビビの事が好きなのかね…?」
「っ!!。〜〜〜〜……」
さっき殴り飛ばした男を指差してビビを説得してっと、ビビの後ろの社長が訊いてきた。
その言葉に返事を躊躇った。
だがさっきビビのプロポーズを受けるような返事をしちまった以上、もう誤魔化せねぇと思って。
「……好きだ……」
俺の前に立つビビを見ながら言っちまった。
「ゾロさん……」
「………〜〜〜」
初めてはっきり口に出した俺の返事に嬉しげな笑みと共に涙を滲ませたビビに、だが歯を食い縛って耐える。
ビビを幸せにする為に。
ビビを手離す決意を固めて、ビビから社長に顔を向けた。
「だがやっぱ駄目だ!!!。好きなだけじゃ幸せにはしてやれねぇ!!。ちゃんと幸せにしてやるには金も生活力も大事だろ!!。だが俺はこういう身なりだし、頭も良くねぇからマトモな職には就けねぇ!!。バイトでてめぇが食うだけの金稼ぐのが精一杯だ!!。あんたこいつの父親だろ!!?。頼む!!、もっとこいつを金蔓として考えねぇ、仕事も出来てこいつ自身の事を一番に大事にしてくれる奴社員から見付けてやってくれ!!」
「…………」
「〜〜〜〜〜っっ!!」
「ゾロさん……」
「あ!!?w」
言いてぇ事全部ぶちまけて社長の言葉を待ってっと、下から聞こえたビビの声に思わず声出しながら下を見た。
そこにゃあ俺を見上げるビビが居て。
「…私が社長の娘と知らなかったから、私といてくれたのよね……」
「ぐ……。……そうだ……」
なんでか疑問形では無く、言い切ったビビに否定は出来ねぇで、ビビの目から目線を下げて返事をした。
訊かれた通り、知ってりゃ関わらなかった。
友達にもならなかった。
…俺は不良だから。
不良と言われてる男だから。
優等生の側には居ても、社長令嬢の側には居なかった。
「……うん」
(、)
視界に入っているビビの顔がにこりと笑った。
嬉しそうに。
その顔に思わず目を戻すと、
「……そう思ってたから言わなかったの……」
「!!?」
更に笑って静かに言ったビビの言葉に驚いた。
「…言ったらゾロさんが離れていってしまうと思ったから……」
「当たりめぇだ!!w。おめぇは俺なんかに関わっていい人間じゃねぇじゃねぇか!!w。社長令嬢が不良とか言われてる男と居たら周りがどう言うか解らねぇだろ!!w。社長令嬢に変な噂が立ったらおめぇの人生が滅茶苦茶になっちまうじゃねぇか!!w」
「…うん」
怒鳴って返した俺に、ビビはやっぱり嬉しそうで。
「……だから好き」
「!?」
「ゾロさんはそういう人だから好き」
「…………」
「いつも自分の事より私の事を考えてくれる。今も私の事を思って身を引こうとしてくれてる。謙虚で優しくて、強いゾロさんだから好き」
「……―――」
「ゾロさんのお嫁さんになれないなら私はずっと一人でいる。私の好きなのはこの先もずっとゾロさん一人だけ」
「―――……」
ジッと俺を見ていたビビ。
その目が顔ごと逸らされ、壁際にへたり込む男の方を向いた。
「私ももう自分を偽らない。私、パパと会社の為にあの人と結婚しようとした。あの人はパパが一番評価して目を掛けていた人だったから、私があの人と結婚してあの人が会社を継げば、イガラムやチャカやペルや社員の人達もずっと今の会社を存続してそこで働いていられる。それにあの人が私の事を好きだと言ってくれたから、その気持ちを尊重して、ゾロさんへの気持ちを押さえ込んであの人の気持ちを受けたの」
(…………)
「――ビビ……」
「ビビ様……」
「…我らの為に……」
「――ご自分の人生を犠牲にするおつもりだったのか……?」
教会内が静まり返る。
ビビの考えていた決意。
それを聞いて、俺も、周りの連中も言葉を無くした。
その中でビビがまた俺に顔を向けてきた。
「でももうあの人の本心が解った。何よりゾロさんが来てくれた。だから私はもう自分を偽らない。この先もずっと私の心にいるのはゾロさんだから、たとえこの先ゾロさんに別の大切な人が出来たとしても、私はゾロさんだけを想い続ける」
「――――」
笑顔。
この笑顔をもう曇らせたくはねぇ。
「―――本当に俺なんかでいいのか…」
「はい…」
「────」
俺がいいなら。
こいつが俺でいいと言ってくれるなら。
「―――〜〜〜〜」
俺が護る。
俺の一生を掛けて、こいつの笑顔を―――。
「っ!!!、社長!!!」
その場に膝まづき、拳とでこを床に叩き当てて土下座する。
「金なんざいらねぇ!!。会社も次期社長の座も、俺にゃあ荷が重すぎるだけだ!!。俺があんたから欲しいもんは一つだけだ!!」
ビビの父親。
大会社の社長。
そのデカすぎる相手に頼み込む。
「いい暮らしはさせてやれねぇかもしれねぇ!!。いつも金がなくて何か物が足りねぇカツカツの生活をさせちまうかもしれねぇ!!」
「……ゾロさん……」
耳に聞こえたビビの声。
これからも、毎日側で聞いていてぇ。
「だが泣かせるような真似は絶対にしねぇ!!!。約束する!!。こいつは一生掛けて俺が護る!!!。だから―――!!」
またぶり返す蟠り。
本当に俺がもらっちまっていいのか。
俺といて幸せになれるのか。
「だから――ビビを……」
だがそれでもこいつが欲しい。
もう二度と離さねぇ。
こいつの笑顔も、こいつ自身も。
「娘さんを!!!、俺にください!!!!!」
「………ゾロさん……」
(────)
覚悟を決め下げる頭に、ゆっくりと近付いてくる足音と布の擦れる音が聞こえた。
「ゾロさん……」
背中に触るビビの両手の感触。
その手が離れて、また布が擦れる音がした。
その音が横で止まった。
「パパ……いいえ…、お父様……」
横からしたビビの声。
「…お願いします。ゾロさんと添い遂げる事を許してください」
(――――)
頭を下げている。
ビビが。
俺の横で。
「………ふっ。どうします、コブラ社長。私はなかなか男気のある青年だと見受けましたが」
「ああ。これだけ正直に言われると清々しい。堅実そうないい青年だ。……ゾロくん」
「っ―――」
近付いた足音が止まって、頭のすぐ上からした声。
頭を上げると、目の前に社長が片膝をついて、俺を見ていた。
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