100hit記念小説〜哀歌・龍の血と遺志〜
□episode 4,最後の時
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それから朝田先生の体調は安定してきたため、少しだけオペを執刀したりした。
それは、放射線治療や抗がん剤などによるもので、完治したわけではなかった。
だけどそれは朝田先生が望んだことであり、どれだけ過酷な治療であったとしても僅かでも可能性があるのなら、挑戦してみたいとしたことだった。
最初は以前していた手術も難なく成功させていたけど、最近の朝田先生は疲れやすくなり、ソファーに潰れていることが多くなっていた。
しかし病魔は容赦なく朝田先生の体を蝕んでいき、倒れてから5カ月がたった頃には、ついにベッドから動けなくなるほど進行してしまった。
ベッドの上に体を横たわらせて、両手は力無く置かれて点滴の管が繋がれ、顔にはマスクで酸素が供給されていた。
呼吸も苦しく安定しなくなってきたのだ。
朝田先生の体重は、半年の間に10キロも痩せていた。
癌の進行により、食欲が激減したためだ。
頬は痩け、筋肉質で逞しい体は弱々しく痩せ干そっていた。
食事も口から取れなくなったため、点滴の管から栄養を摂取している状態だった。
毎日朝田先生の病室にはお見舞いの人が来ており、常に誰かがいる状態だった。
だけど、終わりの時は突然訪れてしまった。
朝田先生の部屋から警告を知らせる音が聞こえ、周辺は一気に騒然とした。
医者や看護師たちが駆け付ける。
伊集院「朝田先生!!」
外山「朝田!!」
血圧や心拍数やサチュレーション(血中の酸素濃度)が低下し、意識を保つことも限界のようだった。
目も虚ろになり、今にも瞼を閉じてしまいそうだ。
その意識を手放してしまいそうな朝田先生を呼び戻したのは、真希だった。
真希「龍ちゃん!!しっかりして!!」
朝田「…………真希…………」
朝田先生は閉じかていた目を開けた。
朝田「ごめんな、真希…………」
真希「そんなこと…………」
朝田「…………1度だけ…………1度だけ…………一瞬でもいいから…………産まれてきた子供、抱きたかったな…………」
藤吉「朝田………………」
朝田「…………真希…………真っ直ぐ自分の思うままに…………生き…………ろって………………」
そう最後の言葉を残し、朝田先生はゆっくりと目を閉じて、両目からは静かに涙が流れ落ちていた。
そしてみんなが看取る中、朝田先生は静かに眠るように粋を引き取った。
時刻は午後8時、倒れてから6カ月が経過していた。