龍の愛した女性〜ヒト〜
□case6
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私は思い出した。
今日が初めてではなく、以前に私と朝田先生は出会っていたことを・・・・・
その時は私はまだ研修医で、初めて患者を受け持った頃だった。
ある夜にその患者の容態が急変して、懸命の治療も虚しく亡くなってしまったことがあった。
その患者を前に、私はただ何もできなかった悔しさと自分の無力さに泣いていた。
そこに、たまたま病院に残っていた朝田先生が通りかかった。
そしてその部屋の前を通った時に、私が泣く光景を目の前にして、こういうやり取りがあった。
どうして泣いている・・・?
だって・・・だって・・・せっかくもう少しって時に・・・なんで・・・・・・・・
そう泣きじゃくりながら言う私に、朝田先生は何も言わずに抱きしめてくれた。
その時はそれが朝田先生だとは思わなかったけど、なんだか温かくて落ち着く気分だったのだけは覚えていた。
もちろん、その研修先に有名な朝田先生がいることは当初から知っていたが、言葉を交わすことがあるなんて夢にも思わなかった。
それくらい遠い雲の上の存在だった。
それが、まさか朝田先生だったなんて・・・・・
朝田「その時、こいつは医者として伸びると思った」
え?????何のことでしょう?????
朝田「人の死を心から悲しみ命を慈しむことができる医者はなかなかいない。だから、オレはそんなお前を育ててみたいと思った」
あの・・・・・まだ状況がイマイチ飲み込めないんですけど・・・・・
朝田「案外鈍いんだな・・・」
そう朝田先生は微笑し、足早に去って行った。