龍の愛した女性〜ヒト〜

□case3
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「悪かったな、わけわかんなくて……」



声を知らなくても、振り返らなくても分かる。


このタイミングでは、あの人しかいない。


真中の前にいた看護士が言う。


看護士「朝田先生……」



やばい……聞かれてた……


どこから…………?




朝田「誘われても……あたりから」



あのぉ〜


私しゃべってないんですけど……



朝田「何か言ったか?」



ますますエスパーに見えてきちゃう……



「……………」


「……………」





うわ……


まずいよまずいよ


この沈黙と無言の圧力…………





この非常に気まずい雰囲気を打破しようと、看護士がとんでもないことを口にした。



看護士「朝田先生、真中先生を知っているんですか?」



朝田「誰だ?」



看護士「彼女は真中みらい先生。春から研修を終えて明真に配属になったばかりの小児外科医です」


真中「ちょっとやめてってば!!」



こうなったら、彼女はもう誰にも止められない。





あぁ、もうやめてほしい…………



めったに話すことも近付くことさえできない存在の朝田先生に、チャンスとばかり話しまくる看護士。



その間も、朝田先生は表情ひとつ変えずに聞いていた。



ひょろっとした長身に黒い髪


首からは聴診器が掛けられ、太くたくましい腕


傷ひとつないきれいな両手


優秀な外科医は指に傷がないとよくいうけれど、


朝田先生は完璧すぎる神のような存在に思えた。


そんな天才外科医にも、苦手だったり怖いものはあるんだろうか?


いやいや、あるはずないよね……





朝田「何を見ている……?」



真中「…………!?」


だからその圧力は止めてくださいって!!



いつの間にか、朝田先生を見ながらそう考えていたようだった。



そして、いつの間にか朝田先生の手には1つのカルテがあった。



看護士「あの……そのカルテは……?」



朝田「今度バチスタをやる予定の患者だ」




バチスタ?


ここは小児病棟で……



ってまさか!?その患者は…………!!



真中「有田翔君。私が担当なんです!!」



思わず叫んでしまった。
みんなの視線が集まる。





……………………





再び沈黙



時を示す針の音だけが響く。




朝田「なら、お前も来い」


真中「えっ、あのぉ……ちょっとーーー!!」



朝田先生に腕を引っ張られて連れて行かれる。



さっきまで名前も知らなかったのに、ただ朝田先生の手が触れただけで沸騰寸前。


私……どうしちゃったの……?



そんなことを考えながらも、どんどん連行される私。



あぁ、まわりの視線が痛い……
 

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