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□がうっ。
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「なぁなぁ帰りどっか寄ってこうぜ!」


授業が終わった放課後、ざわざわと騒がしい教室内で一人の男子生徒が言った。
周りに居た友人達は賛成とばかりに頷いた。


「アリババも行くよな?」


その友人達の中の一人が、近くに居た金髪の少年に声を掛けた。
せっせと鞄に教科書を詰め込んでいた少年は顔を上げると罰の悪そうに眉を下げた。


「悪い…、この後バイトなんだ。 また今度にするわ」


「そっかぁ…大変だな。 気にすんな、バイト頑張れよ!」


「あぁ、サンキュっ」


帰る準備が整うとアリババは友人達と別れを済ませ早々と教室を出た。
家には帰らずそのまま徒歩でバイト先まで直行だ。
校門から出発し、十五分程歩いて行けば見慣れた店頭が見えた。


店に着くと店内に入り、レジを打っている同じ店員仲間に挨拶を交わした後休憩室に入った。
タイムカードを切り、高校の制服からコンビニの制服へと着替える。
自分の時間帯までまだ少しだけ余裕があったので休憩用のソファに座った。
古いソファは重みに関係なくぎしり…と音を立てた。
アリババは鞄から財布を取り出すとぱかりと財布の口を開けた。


「……はぁ。 もう一つバイト増やそうかな」


暫く中身を見つめた後、少年は深く重い溜め息を零した。


アリババの父親は、彼が産まれて間もない頃に重い病気にかかり亡くなった。
それからずっと十五年間、母親の手によって育てられてきた。
勿論、家計は厳しく苦しかった。
だからアリババは高校に入学すると同時に家を出た。
現在では高校から徒歩で三十分離れた安くて古いアパートに入居し一人暮らしをしている。
勿論、仕送り等は一切受け取っていない。
よく母親が送ってこようとしてくるが、その度にアリババは頑なに断り続けていた。
それでは自分が家を出た意味がないからだ。
自分の事は自分で何とかしたかったし、何よりこれ以上母親に負担を掛けたくなかったのが本音だった。


やはりもう一つバイトを増やそう。
アリババは財布を鞄に戻しながらそう決心した。
交代の時間になるとアリババは立ち上がった。
タイミング良く自分と交代する仲間が休憩室に入ってきた。
軽く頭を下げながらお疲れ様ですと挨拶を交わした後、入れ替わる様にアリババは店内に出た。





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