長文【零】

□人拐い 弐
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三人と別れ、部屋に戻ると男はまだ先刻と同じ場所に佇んでいた。



卓の上に置いたままだった零式を片手に、寝台に放られた鞘を拾い上げそれに収める。



ふう、と溜め息を漏らし懐へ仕舞って
ちらりと男を見ると、下を向いて声を出さず口を唯小さく動かしていた。



何故か分からないがそれを見てぞっとした。
















この宿の風呂場は露天になっており
かなり広く開放的で、上機嫌になり空に浮かぶ星を見上げる。



背負って来た旅荷の中に
女物の浴衣は持っていなかったので、


太股の付け根まで切れ込みが入り
薄桃色に花柄をした、特注品の長襦袢を伊達締めで適当に括り纏う。



湯上がりに宿の内庭に面した縁側に腰掛け



花盛りに命を断たれた美しい女達を思いながら




池に遊ぶ錦鯉を月明かりの下で眺めていた。












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