長文【零】

□人拐い 壱
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いざ行かんと試みたものの
行動に移すとなると、其れなりの準備が必要となる事に気付く。



男を誘うにはまず化粧が無くては
そして…身に纏う着物がこれでは駄目だろう。



上等な物では有るが上品過ぎる。
私はうんと派手なのが好みなのだ。



折角、美しい娘の姿なのだから
もっと肌を出して歩くのが良い。



「よし。」



そう言って荷物から有りったけの銭を出し外へ出た。















まずは呉服屋で深紅の地に
所々金糸の波が成され、神々しく翼を拡げる鷲と蓮の花の刺繍の有る繻子の織物を選ぶ。



衣紋を大袈裟に抜いても胸元が開き
八卦がひらりとなったときに、
太股が覗くよう大胆な仕立てを注文した。



合わせて黒地の引箔帯を
そして一緒に選んだ黒い長足袋は、
後ろ側を紅い紐で編み上げて膝上で結ぶ作り。



代金を倍払って、明朝までに急ぎ仕事を終わらせるよう頼んだ。











次に小間物屋へと入り
丁度仕入れたばかりだ、と店主が言う寒紅、
それに頬紅や爪紅、白粉を揃え
最後に金の蝶の細工が施された翡翠の髪飾りを買った。















荷の中に持っていた銭は殆んど無くなってしまったが、狐は至極満足だった。



昔から
人の姿で着飾り、羨望の眼差しを浴びながら街を歩くのが何だかとても好きだったのだ。



部屋に戻るや否や寝台に腰掛け
明日はどんな男を落としてやろうかと含み笑いしながら煙管を吹かした。











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