長文【零】

□墓場の鬼
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用意された晩飯を平らげ、他愛も無い話が一段落した所で男が切り出す。



「ところで…この寺に、墓荒しが 出るとの噂を聞いたのですが…。」



途端に和尚の表情が曇る。



「ええ…そうなのです。朝見回りに行くと必ず一つ墓が掘り返され、それはもう酷い有り様で…。
現場を押さえてやろうと毎晩見張っていても、さっぱり何も現れずでして…
狸か狼かの仕業と踏んでいるのですがね。」



「成る程、狸…ですか。」



男はそう言って顎に手をやった。



ああ。恐らく、狼ではない。



…墓を掘る狸



それが今回の餌だ。



和尚は一通り話を終え




「…夜も更けました。そろそろお休みになって下さい。吉彦、部屋までご案内して差し上げなさい。」



そう呼ぶと、あの童子が近寄る



「はい!ではこちらへどうぞ!」



私を見上げ、笑顔でそう言った。












暗く長い板張りの廊下を歩きながら
前に向かって話しかける。



「お前、吉彦という名なのだな。」



「はい!和尚様に頂いた名です!」



「そうか。良い名だ。…では吉彦、この寺の周りに狸は出るか?」



そう問いかけると思い出したように言う



「ああ!あの狸かな!?…少し前まではこの辺に良く来ていました。」



「…あの狸とは?」



「…和尚様の奥様はとても動物がお好きで、生前、この寺に迷い込んで来た狸によく餌をやっていたんです。
でも奥様がお亡くなりになってから、
餌が貰えなくなったので、寄り付かなくなったんだと思います。
それで…墓荒しが出たのは狸の祟りだ!!!って平太達と噂していたんですよ!
…あっ!!!今のは和尚様には内緒に…。
祟りだとかの話を、無闇にしてはいけないと和尚様が言っていたので…。」



吉彦は眉を下げてこちらを振り返る。



「…ああ。言わないさ。」



それを聞いて にこっと笑い、障子の前で立ち止まる



「お客様のお部屋はこちらです!どうぞごゆっくりお休みになって下さいね!
では、失礼します!」



障子を引き
丁寧に頭を下げ、本堂の方へ戻って行った。











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