長文【零】
□魔蝕の剣 弐
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男は先刻、黙って部屋を出て行った
ひとり寝台から立ち上ると
ぐらり と軽い目眩のようなものを感じ、
畳に方膝をつく
…あいつの纏う魂。あれは何だ?
“人”のモノではない白く眩しい魂
しかしその奥底に渦巻く別の色
何故、魔を斬る旅などしているのだ?
私のように喰う必要は無い筈…
では何の為に?
何故私を《魔蝕の剣》と呼んだ?
名高い天叢雲剣には目もくれず、
そして其の形をしているだけで
“人”ではない私を斬らぬと、欲しいと言うのか
何故、あの鏡が姿を見せた…?
あれに通ずる其の名以外の記憶の扉は、
何としても開けてはならぬ気がするのだ
恐らく私の側に有るべき物では無いのだろう、それなのに。
謎だらけだ
男には問うべき事が山程有るが
一筋縄では行かぬだろう。
暫くは様子見せねば…
「あいつの正体は…?」
そう言って
乱れた着物と荷を適当に整え、
広い座敷を後にした。
*