長文【零】
□張られた糸
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空高く舞う鳶
緩やかな風が吹いている
進む先の青空に仲良く並んだ鯉が泳いでいた
楓に別れを告げずに去り
もう七日も経つ
それなのに私はまだあの娘の事を引き摺っていた
大通りの最奥の高台に聳える城の美しさも色褪せて見える。
人々の活気豊かな城下町の堀に跳ねる小魚を、暇潰しに見ていた。
道行く男が声を掛けて来るのを適当にかわし、煙管を吹かす。
男は建ち並ぶ家々の軒先を商売がてらに幾つもくぐり、
最後に入った家から暫く出て来ない。
あんまり戻らないので
開け放たれたままの障子戸から顔を覗かせると、
浅葱色の背中の向こうに色っぽい女が居り、大きな木箱から取り出された数々の品物を
頬を赤らめながら興味津々眺めていた。
……はあ。まだか
何だか待っているのにとても疲れ
さっさと部屋を取り、一刻も早く布団に倒れ込みたかった。
それから随分と待って、
やっと出て来た男が歩き出しながら
私に手招きしたので後を追った。
*