長文【零】
□山の怪 序
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時々雲間から覗く眩しい光
両脇に茂る青々とした木々の間を見上げ
早足で歩く男の背中を只只追い掛ける。
この先にある小さな集落へ向かう途中
脇の茂みから何か小さな塊が
ゆっくり転がって来た。
立ち止まり、見下ろすと
それは灰色の毛皮に全身を覆われ
先の曲がった尾
三角に尖った耳
橙色の鼻をして
髭を生意気に生やし
翡翠色の目で私を見上げ
ぴゃあ!
と何とも言い表せぬ小鳥の様な声を出し
私の足に擦り寄ってきた。
掌に軽々乗る大きさの毛玉
これは…
その翡翠を覗き込むと
また
ぴゃ
と鳴き
私の指を薄い舌でぺろりと舐めた
これはまた…………何と愛らしいのだ!
それを手にしたまま立ち止まり
延々撫で回していると、ずうっと先で男がこちらを振り返っていた。
*