長文【零】
□堂々巡り
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太陽が頭上高く登り、脇の小川の煌めきと生い茂る草花を彩る。
次の宿場町へ至る道中の事だった。
突如として道が三叉に別れた場所に出たので、
一番整っており人通りの多そうな道を選び先を急ぐ。
すると二人組の篭屋がこちらへ向かい近寄ってくるのが見えた。
前方を担ぐ男から、
「其処のお嬢、これから日暮れというのに一人旅とはまっこと物騒この上無い。この先の宿まで行くのなら乗ってくかい?御安くしますぜ?」
声をかけられたが、
「結構だ。」
とだけ言って目線すらくれてやらず足も止めずに篭の横を通り過ぎた。
暫く行くと、また二人組の篭屋がこちらへ向かい近寄ってくるのが見えた。
…何だ、ここらは篭屋が流行っているのか?
思いながら無視してすれ違おうとすると
前方を担ぐ男から、
「其処のお嬢、これから日暮れというのに一人旅とはまっこと物騒この上無い。この先の宿まで行くのなら乗ってくかい?御安くしますぜ?」
声をかけられた。
…ふん。口上も同じのが流行りか。
今度は答えもせず篭の横を通り過ぎた。
更に進むとまたも二人組の篭屋がこちらへ向かい近寄ってくるのが見えた。
同じ様に前方を担ぐ男から、
「其処のお嬢、これから日暮れというのに一人旅とはまっこと物騒この上無い。この先の宿まで行くのなら乗ってくかい?御安くしますぜ?」
全く同じ台詞を投げ掛けられる。
………………。
通り過ぎ様、担ぎ手の面をちらりと見ると人気の無い明後日の方向を見詰めながら不気味に口を歪め笑っていた。
だがあの二人は間違いなく生きた人間。
魔物では無い。
……………………。
獲物が掛かった と狐は目を細めた。
堂々巡り
此は人に同じ時間を延々繰り返す幻を見せ、やがて疲れて倒れた者を餌とするモノ
元は人を襲う力の無い只の土竜だったが、行き倒れた旅人の故郷への悲願が宿り《あやかし》と為った。
此を斬るには、あるものを見付けねばならん。
景色の中にそれを探しつつまたも進む。
さっきと全く同じ面構えの篭屋がこちらへ近寄る。
「其処のお嬢、これから日暮れというのに一人旅とはまっこと物騒この上無い。この先の宿まで行くのなら乗ってくかい?御安くしますぜ?」
その問いに
「ああ。乗せて貰おう。」
そう答え、直ぐ様中の座布団に胡座をかいた。
担ぎ手の足音だけを聞きながら、左右の様子を目を凝らし伺う。
道端の左手、茂る草木の隙間
……………あれだ。
「一旦止めろ。」
そう告げると直ぐに篭は地面へ下ろされ
長剣を胸から振り抜き、陽の光を反射させながら一点に向かい飛び出した。
そこには今にも崩れそうな石の塚。
その塚の前に目の無い人の形が揺らめく
餌を求め、漆黒の涎を垂らしながら闇の口を大きく開いていた。
「…脳の無い奴。待つことしか出来ぬか。」
ふっ、と小さく息を吐き
前傾に踏み出したのと同時に
《あやかし》の体、その左下から天へ向けて斬り上げ
勢いを保ったまま、真下の塚へと煌めく刃を突き立てた。
はらりはらり…木の葉が舞い落ちる
割れた石の隙間から微々たる紫色の煙が立ち
一瞬きらりと光を放つと、それは刀身の中へ収まる。
剣を一振りすると
陽光眩しく映していた刃は瞬く間に見えなくなった
「…こいつは暫く何も喰えずにいたのだな。…放って置いてもやがて消えただろう。」
ついこの間
同じ様な苦境に有った為か、何だか同情にも似た気持ちを覚える自分に苦笑した。
補食した魂、それはとてもとても弱く小さかった。
*