長文【零】
□張られた糸
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霧に美しく霞む月が出るまでの間に
私はまた眠りに落ち
いつか見たのと同じ夢を見ていた
*
眩しい太陽
きらきらと輝く光の中
香る花、舞い踊る蝶
金色の鏡を手にする人影
逆光で顔が見えないが
この夢は知っている
ああ。あれは……あいつだ
しかし
何かが可笑しい
…ああ、そうか
着物が…いつもと違う
黒い…黒い…
闇色の着流し
どうしたんだ?そんな格好で…
口は開くのに…声が出ない
影は鏡を手に
私に手招きした
腕で眩しい光を遮り
少しづつ、近付く
僅かに開いた口元に
白い牙が覗く
あと少し
手を伸ばせば触れる
指先がその頬に届きそうになった時
私の手首を
強く
掴む
黒く染められた指先
………………!!!
これは……誰だ?
*
呼吸を荒げて飛び起きると
言い知れぬ不安が胸を渦巻いていた
あの手は、あいつの手では無かった
掴まれたそこから
魂が拒絶する程に禍々しいモノが伝わって来た
眼が…私に見せたのか?
あれは誰だ…?
速くなった鼓動を落ち着けようと、
胸に手を置き暫く下を向いていた。
すぐ傍に座って居た男が、
僅かに眉を上げて声を出す
「……そんな顔をして、どうしたんです?…悪夢、でも…見たか。」
「…………ああ。…只の夢だ。」
掌を握り締め、そう自分に言い聞かせた。
*