長文【零】

□張られた糸
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…蜘蛛、…毒、…首筋の噛み傷。



土蜘蛛か



だが土蜘蛛というモノは、大概、女を好む


自らは人の男に化け
女の首筋に毒を注入し、色狂いにしてから捕食する



何で男を捕ろうとしたのだ?



大体何でこいつは一人で行ったのか。



恐らく昼の情報収集で何か掴んだのだろうが、
酒に酔ったからと言ってそう簡単に罠に掛かる様な奴ではない。



あの家に居た女が黒幕か?



未だ収まらぬ激しい呼吸を漏らす男を見ながら、考えを巡らせた。













ぼんやりと揺らめく炎の灯りを感じ、
目を薄く開くと



鳶色の瞳がこちらを見下ろして口を開いた



「…まだ毒気が抜けていない。今は動かない方が良いぞ。蜘蛛の障気は半日もすれば消える。寝て居れば治るさ。」



そう言って白い腿を惜し気もなく晒し
片膝を立てて煙管を銜える



催淫の毒が体内に回り、熱が出ているせいで視界が少しぼやけていたが、
目に映るあの腿に…そして首筋に、噛み付きたい衝動に駆られる。



その横顔は煙を ふうっ、と吐き、声を発した



「お前、何故一人で行った。」



僅かに隙間の開いたその唇に向かう欲望を何とか押し殺し、声を絞り出す



「……蜘蛛の、繁殖期 らしい。」



瞼を掌で覆い、声の平静を保った



「繁殖期?…ふうん。それで男を。蜘蛛は人型か?」



あの女は只の“人”だった



「…さあね。本体は、見ていない。」



あの場所に何か気配を感じていたが、
女が“人”である事に油断した



「ふん。ではお前は何にやられた?
酒に酔って、女を抱こうとした所を噛みつかれでもしたのか?」



間違ってはいない、が…



「…まあ。そんな所だ。」



噛んだのは降りて来た小さな蜘蛛



「……ふっ。馬鹿め。どうせ自分から罠に掛かって糸を手繰り寄せよう等と、回りくどい事をしようとしたのだろう。
昼間のあの女か…?怪しいモノは視えなかったがな。」



…中々鋭い。だが本体を斬るには“糸”を辿る他無い



「…あんたは、関わらない方が良い。」



あれに近付くべきでは無い



「はあ?ふざけるな。この前ので大分力を持って行かれた…。近くに餌が有ると言うのに、喰わずに居られる訳が無いだろう。」



蜘蛛の狙いは恐らく
毒を帯びた種を孕んだ女



「あんたの為、だ。」



その上、女が噛まれると非常に厄介な事になる



「何がだ!私があの程度の小物にやられるとでも思っているのか?お前が何と言おうと私は行くからな。」



…はあ。困ったものだ。



まだ収まらぬ欲を目を閉じて紛らわせ
明ける空を待った。










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