長文【零】

□序
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遠き遥か昔、この世に生を受けた時には狐だったが


只の狐としての生命を全うした後、
理由は忘れてしまったが自らの魂を
幾度も“依り代”に入れ替え
死せること無く思うまま唯“食餌”を重ねる


蓄えた魂を力に変え身に纏い、妖孤と為り
幾千年の時を思うままの姿で生きてきた


だが神通力を持つとされ 人であるのに
《神》 と崇められていたらしい術者が、妖力を封じここへ閉じ込めたのだ。


この木を中心に森一画へ、邪なるものを寄せ付けぬ結界が張られており


朽ち逝く大樹と共に、
妖孤もまた五百年余りの時を経てして、浄化される仕組みであった



そして先刻、遂に大樹の生命が天へと昇華し結界は力を無くして、
消えかかる妖孤の魂の目の前へ
娘が倒れ、あの暗黒が訪れた




「…諦めた矢先、人の血肉を欲しがる小
物に違いないにしろ、餌が差し出される
とは…なんたる幸運……。」




神が与えたとも言えぬ好機を掴んだ狐だが、これまで魂の容れ物となっていた朽木を失ってしまった。



浄化を免れた所で、実体が無ければこの場所から動く事はできない。


狐はその傍らに横たわる娘を見つめた


此もまた幸運。



「哀れな人の子………お前の魂は私の
中。」



誰が聞いている訳でも無いのに狐は語りかける


「…此方の男の体にはもう魂は無いよう
だ。…その上あのような小物の使い古し
だと?穢らわしいにも程が有る…。」



霞が娘の体を覆う



「娘よ、敵討ちの対価として お前のその美しい肉体…。依り代とさせて貰おう…。」





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