こんな日もありましたシリーズ、その2。
本編では全くですが、日常では連みまくってたのです。












現在時刻は、昼の1時半。

全校テスト期間が終わり、そのままいつもよりずっと早い下校時間を迎えた中学生5人組は、学校にほど近い小さなラーメン屋のカウンターに着いていた。

「ネギくう?」

そう言うや隣に座る野沢頼春が、返事も待たずにラーメンの器にネギを投入してきた。
「ネギ好きだったよな。食って!」とニコニコ顔なその無神経さに、村上幸太郎は一瞬呆れ果てる。

確かにラーメンにネギは欠かせない。むしろラーメンのネギが要らないらしいコイツは、ラーメンを分かっていないと言える。
…けどさ、そうじゃない。人の器に自分の食い物入れるとか、どうなんだ。しかもちまちまと何べんも入れてくんな。鬱陶しいわ。

「てめっ、いっぺんにやれ!つーかやるな」
「いやー、ネギ多すぎて麺が取りづらいんだわ」
「知らねーよ、ネギくらい食え!」

そう抗議の大声をあげて、頼春の箸を箸で払いのける。

「きったねー絵面!」
「側から見ると、マジで下品だわぁ」
「二人とも!お行儀が悪いザマスッ!」

すると二人のさらに両隣に座っている鎌城祐斗、梶原亮、星山拓郎からの注意を受ける。
…ここに並んでる5人全員、行儀がいいやつなんていない。3のBきっての騒音担当組が全員集合である。なのでそれらの台詞はまるで滑稽なものだった。自分たちからしても。

そんな矢先、カウンター越しからラーメン屋の親父が「やかましい!」という一括を飛ばしてくる。
しかし、それに黙って返す自分たちではない。「きゃーっ、怖ぁい〜」「怒られたザマスッ!」「おっちゃんのがうっせー!」「グリフィンドールマイナス100ポインツッ!」「つーかネギ多すぎんよぉ、おっちゃーん」と騒音で反撃すると、親父は軽い悪態を吐きつつ諦めてしまった。

「ったくよー。お前はいい加減、空気読めるようになって」

幸太郎はそう吐き捨てて、冷めないうちに麺を啜った。その言葉に少しショックを受けたらしいKY代表頼春は、悔しそうに言った。

「読んだよ?お前ネギ好きって言ってたじゃん。だからあげようと思って!」

そういう所だよ、と思うのと同時に、亮が「そういう所なんだよなー」と口に出してくれる。

「ええ……どゆこと?」
「ダメだこりゃ」
「でもシアワセタローは、人のこと言えんべ」
「は?なんでさ」

「だって、」と祐斗はラーメンに七味を振りまくりながら、容赦なく幸太郎の触れられたくない所をついて来た。

「お前もよっぽどだろ!いつもいつも椪田サンとバトってさ」
「……」
「確かにこないだのは、ヒヤヒヤしたなー。もうやめとけよ」
「ドッチだから良かったけど、野上だったらキレてたよな」

テスト明けの解放感と、真昼間に仲間とラーメンにありつく高揚感が、その話題によってただ下がりとなった。

かれこれ数週間前だったか、これまた同じクラスの椪田水透と授業中に口論になったのだった。苛立ちを通り越してブチギレていた幸太郎にはあの時、空気を読んで回りの状態(あまりの有様に、ほぼ全員が止めにも入れず二人のやり取りを見守っていたらしい。無関心なやつもいたが)を気にする余裕はなかった。
B組担任であるドッチこと戸市は温厚な教師だが、一括してその場を収めた。だがもしA組担任の野上がその授業の先生だったなら、それどころじゃない雷が飛んできただろう。

「どうしてまたそう、突っかかんのかねぇ?お前と椪田サンは」

何がおかしいのか、ニヤついた顔で拓郎は箸の先を幸太郎へ向けてくる。
つられたように祐斗も「ンッフフ」と気色悪く笑い出し、亮は興味が無さそうに麺をかっこみ入れ、頼春は「?」と首を傾げて不思議がる。

「んなもん、ムカつくからに決まってんだろ!」

自分でもよく分からない苛立ちと焦りを覚えながら、幸太郎は心からの台詞を叫んだ。

「やかましいつってんだろ!…と言いたい所だが、なんだ、恋バナか?もっとやれ!」
「うっせーよ、おっちゃん!!おぞましいわ!」
「餃子と白飯食うか」
「食う!」

突如ノリ気味で割り込んできたラーメン屋親父が、幸太郎へちゃちを入れると同時に注文までとる。追加を即答した彼に、頼春が呆れたようにたずねた。

「おい、金持ちじゃんシアワセタロー…払えんの?」
「安心しな。無きゃつけといてやる」

親父は気前よくだみ声で請け負った。
「受験終わって合格祝いでもする時にまた来な。その時でいいから。恋バナの続きもな!」

5人は思わず顔を見合わせた。

「合格祝いにこの店?」
「ごめんないわー、おっちゃーん!」
「そこはステーキとか焼肉行くから!」

ぎゃははは、と無遠慮なセリフと共に馬鹿笑いをかまし、全員で親父の怒り声をかき消した。

合格祝い。まだ先の話だが、それは数ヶ月後の事だ。
中学を(無事に)卒業すればもう、こいつらと揃って同じ教室で騒いだり歪みあったり、笑いあったりできなくなるのか。

そう思うと、流石に少しだけ寂しさはあるな。

しみじみした幸太郎だったが、その後出された餃子を4人に掠め取られると、すぐにそんな気持ちをかなぐり捨てるのだった。










おわり。ありがとうございました!


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