タイトルでお察しでしょうが、かっこいいダークトリニティはいません!ご注意!
私の名前はダークトリニティ。言うに及ばぬ事だが、本名ではない。
何故このようなイタタ〜な呼び名をしているかというと、ゲーチス様にそうあるよう命じられたからだ。
まだ一般的な名前の一般人だった頃、気を抜くと足を滑らせ転落死しそうな場所で気を抜いて足を滑らせた私を、たまたま通りかかったゲーチス様に救われた。あのお方には、大変な恩義がある。
私にとってゲーチス様のご命令は、絶対。ゲーチス様のためになるのなら、たとえ世間で良しとしない事であっても厭わず、お役に立つべく努めなくてはならない。
…だ の に 。
〜〜電気石の洞穴・内部〜〜
「ああ、疲れた。カラオケ行きたい」
「私はこれからヒウンでバイトだ。そろそろ帰らせてもらう」
「待て。待てちょっと」
私は仲間二人のちゃらんぽらんな態度についに我慢ならなくなって、そう強く引き留めた。
制止を受けて振り返った仲間は「なんだ」「どうした」とたずねてくる。
「なんだじゃねーよ。まだ任務は終わってないだろう。ゲーチス様がいないからといって、不真面目過ぎではないかお前たち」
以前よりため込んでいた感情をやっとのことで吐き出した私は、電気石の洞穴の内部で佇む二人の人物を指差しそう言った。
我々が今、バレないよう身を隠しつつ様子を監視しているのは、N様と子どもだった。ポケモンを与えられ故郷を旅立った、どこにでもいるような子どもだが、N様は何やら気にしているらしい。年下が好みなのかもしれないが、一応アレでもN様は成人なので年齢差を考えれば立派な犯罪である。
N様が道を踏み外してしまわないように、きちんと見張っていなくてはならない。そんな時だというのに、カラオケだのバイトだの言ってる場合か。全く。
「不真面目だと。お前な、あんな小娘がN様をどうこうできるとでも思っているのか」
「万が一がある。ゲーチス様もそれを懸念されたから、こうして我々に見張らせているのだろうが」
主の真意をちゃんと分っているのか。そう問い詰めれば、今度はもう一人の方の仲間が「わかっている」と言い放った。
「要するにこうだろう…。N様は、ゲーチス様のご計画にとって最たる要。そのN様に妙な影響があっては一大事だ」
「そうだ」
「そのような不穏な予兆がないかを見張り、ゲーチス様にご報告しなくてはならん。そう言いたいのだろう」
「そうだ」
「だったら見張るのも、ご報告するのも、お前ひとりが居れば事足りるではないか」
「三人そろっている必要などない」
「!?」
「おつかれ」「ではな」といいさして帰ろうとする二人に、すかさず待ったをかける。もう完全にこれ不真面目ではないか、この野郎ども。
「いい加減にしろよ。私一人に押し付けて、好き勝手遊び惚けるつもりか。ゲーチス様の言いつけを、何だと思っているのだ。そんなにカラオケだのなんだのに行きたいなら、手下などやめちまえ。あの方にとって、邪魔なだけだ」
「なんだと…」
「聞き捨てならんぞ…」
私の暴言に異を唱えるほどの分別は持ち合わせていたらしい。踵を返した二人は怜悧な目つきをこちらへ向け、その場に険悪な雰囲気が漂う。はるか向こうでは、N様も子供も先へ進んでとっくにいなくなっていたが、もはやそれ所でない。
「私のゲーチス様に対する忠誠心を愚弄する気か。私が遊び惚け、小金を稼ぐためにバイトへ行くと思ってるのなら、大間違いだ」
「いやまさにソレだろう。絶対お前が行きたいだけだろう、バイトに。忠誠とか関係ないだろうが」
「関係あるのだ」
私の言葉をはっきりと否定した仲間は、私を指差していう。
「ゲーチス様が「そうあれ」とおっしゃったのだから、我々はダークトリニティの名にふさわしい態度を取り続けなくてはならない。だがな、正直このテンションを保つのは大変なのだ」
「どこがだ」
「あのな…お前。本当、大変なんだぞ。逆に私はお前が不思議だ。なぜ常時、そんなローテンションでいられる。私は無理だ。月に一回は、ヒウンでクラウンに扮して浮かれていないと、精神の均衡が保てない。病む」
「クラウンだと…」
「バイトだ」
「…あれお前だったのか」
「月一で、私だ」
ヒウンシティでたまに見かけるクラウンの事をこっそり思い出した。「ヒウンラリー」とかいう謎の遊びをおススメするピエロだ。あれがコイツだったなんて、ペ〇ー・ワイズもびっくりだ。
そんな風に考えていると、もう一人の仲間も小さく頷きながら口を挿みだした。
「クラウンになりたがる気持ちは理解できんが……。均衡を保てないのは私も同じだ。カラオケで5時間は歌い続けないと、気が済まない衝動に駆られるからな。そのあとは決まって調子がいいものだ」
お前もかよ。
さっきから聞いていれば、信じられん。私にはこいつらが、ただバイトやカラオケに行きたいだけの様にしか聞こえなかった。全部こじつけではないか。こんなDQN共のせいでゲーチス様に怒られるなんて、断じてあってはならない。
「そういうわけで、分かったか。根っからの無気力陰キャなお前と違い、私にはゲーチス様の望むダークトリニティでいるための努力が必要なのだ」
「涙ぐましいだろう。お前には理解できないだろうな。元からダークトリニティとしての資質を備えた、無気力陰キャなお前には」
「やかましいわ。とにかく、バイトもカラオケも後だ。N様が英雄になる前に、ロリコン疑惑で警察に捕まってみろ。遊び惚けて止められなかったと知れたら、我々は揃ってゲーチス様に吊し上げられるぞ」
「ご褒美ではないか」
「………今のは、聞かなかった事にするぞ」
「…ちょっと待て。ひょっとしてお前、N様にものすごく失礼な勘違いをしていないか」
「なに?どういう事だ」
「ゲーチス様が見張れといったのは、N様が幼女趣味に走らないようにする為、とでも思ってるんじゃないだろうな。絶対に違うぞ」
「………え?違うの?」
「違うわ。N様に怒られるぞ、お前」
「…………」
「…一人だけ真っ当なしもべぶってた割にはお前こそ、ゲーチス様の言いつけをちゃんと理解していないではないか」
「…………」
「おい」
「何とか言ってみろ」
「……」
「………帰るか?」
「いくか?カラオケ」
「………行く」
終わりです。
ちなみに今の会話中ずっと、無表情&ボソボソ声な彼らです。
ありがとうございました!