s o n o t a

□FF
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 青というその色が、まるで空気のようだった。

 それほど、この世界の至る所に、青が満ちている。
 はかない青。強い青。ひかる青。明滅する青。
 どこまでも続く高い塔が、いくつも建っている。深くて明るい、海の底のような世界。

 一陣の風のように駆け抜ける、少年がいた。
 金髪をさらさらとなびかせて、幼い少年は走っている。軽やかに、驚くほど速く。
 少年の後ろには、2倍もあろうかという大きさのモンスターが追ってきていた。輪っかをフラフープのようにまとい、空中を音もなくすべっている。傍から見れば、追い回されているような絵だが、そんな状況でも、少年の顔には無邪気な笑みが浮かんでいる。あの妙な生き物が自分に追いつけはしない事を、少年は知っていた。
 後ろを振り返り、手を振って叫んでみせる。

「バイバーイ」

 青と静寂の世界を、少年は駆け抜ける。騒々しく響く足音と幼い笑い声は、彼のまわりにしかない。一人の風が行ってしまうと、たちまち世界は元に戻る。
音もなく、ただ青く。まるで何も無かったかのように。



*    *    *




「なんて言ったっけ、あのオッサン」
 少年は緑色の光を潜りぬけながら呟いた。先程とはうって変わって、おもしろくなさそうな顔を浮かべている。

青い世界が消え去り、今度は赤く光る物体のある建物の入り口が現れた。

「あ、そうそう。ガーランド、だ」

見上げるような高さの真っ黒な老人を思い浮かべ、少年はうへぇ、と渋い顔をした。

「何の用だろ・・・」

入り口をくぐって、中に足を踏み入れた。巻貝のような、何のためにあるのかわからない装飾がごろごろしている。この奥に、ガーランドはいる。
数えるほどしか来たこと無いが、この建物はいつも不気味だ。少年は煙を吐く巻貝や、紅く光る何かに気を取られながらも、奥へと進んでいった。



壁も、天井も無い。ずぅっと遠くまで、どこまでも見渡せる開けた場所。薄暗く煙たい建物の階段を上がって、1つのドアをくぐった少年が辿り着いたのがそこだった。建物の頂上より、ちょっと下に位置するみたいだ。それでも、ものすごく高い。

バルコニー風のその場所には、背の高い黒い老人と、見たことの無い人がいた。優雅な銀髪は、毛先が肩につくかつかないかの長さで、男にも女にも見える。少年よりずっと年上のようだが、すぐ隣りの老人に比べれば、子どもと呼んだ方がふさわしいだろう。

「よんだ?」

銀髪を眺めながらも、少年はガーランドに声をかけた。

「・・・・」

「・・・お呼びでしょーか(めんどくせぇなぁ)」

「ちょうどいいところへ来たなジタン」

言葉遣いを正した少年――ジタンに、老人は低い声でそう言った。
ジタンは二人のもとへ近づいてくと、子どもらしい率直さで

「あんた、だれ?」

銀髪に尋ねた。

「・・・・」

その人はさっきから変なものを見るような顔つきで、ずっとジタンを見ている。声をかけたとたん、さっと表情が変わった。その表情に思わず足が止まった。
何となく黙り込んでしまう。ふとジタンは、その人の尻尾が全然見当たらない事に気がついた。もしかして、無いのかな?

「こやつはお前の兄にあたる存在・・・」

いつもどおりの抑揚の無い声でそう答えたのは、ガーランドの方だった。しかしその人は、その言葉を途中でさえぎった。

「一体これは、どういうおつもりなのですか?」

怒気を含む声だった。ジタンはきょとんとする他ない。

(アニ・・・?)

「どう、とは何だ」

「ご冗談でしょうね?まさか私だけでは、力不足だとでも?」

「貴様だけでこの数千年を有する計画が成り立つとでも思ったか」

「しかし私はー―」

「貴様はこのテラの為に生を受け存在している。そういう生き物だ。それが二人で何がおかしい」

「・・・」

「それとも、不満か・・・?忘れるな。己が存在の意味を無視する者をテラは必要としない。貴様が使命を決めるのではない。使命がジタンを、私を、そして貴様を生んだのだ」

長い沈黙が、空間を満たす。
ジタンは二人の意味不明な会話に入れずに、バルコニーの端に腰を降ろしていた。目が回るほどに高い空中に、自分の両足をぶらぶらと投げ出す。足の下一面に広がる青い光を見るでもなく見ていた。

「・・・はい」

その人はジタンには聴こえないほど、かすかな声でそう言った。


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