s o n o t a
□カービィ
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あの日、あの時。
星空から落ちてきたその力を受け取るまで、彼には特技も、取り柄もなかった。
逆に表せば、彼に何の取り柄もなかったのは、その力を受け継ぐ者である所以だったのだ。
「……全員、ただちに艦から脱出しろ」
ぎゃーっ、ぴーっ、あひえぇーっと悲壮な声で騒ぎまくる乗組員に、彼らの首領は静かにそう告げた。
プププランド制圧を目論み飛び立った戦艦は壊滅的な攻撃を受け、いま沈もうとしている。退けたと思えば追いすがり、排そうとしても返り討ちをかます彼らの敵は、間もなくここへ到達するだろう。その数、一人。
逃げろ、という言葉に首を振り、腕っ節のある乗組員はその敵に一矢報いる決意をした。「一泡吹かせる!泣かす!」と自らが既に半泣きになりながらも、奴の元へ向かっていく部下たち。
その背中を見送る首領は、人知れず「すまない」と呟いた。
もうずっと昔。一人剣の修行に明け暮れる日々へ割り込むように、そいつはやってきた。
戦ってくれ!稽古をつけてくれ!といきなり言って来るのでどんなものかと思えば、相手にならなかった。しかし何度叩きのめされても、打ち負かされても、そいつは毎日自分の下へ現れる。
「あーあ、まーた負けちゃったよ!」
大きな声で叫ぶと、彼はごろんとその場に寝そべった。持っていた剣を放り投げ宙を睨む。上空はオレンジの夕暮れだ。
「どうして勝てないかなぁ。強すぎるよ…」
「…言ってもいいか」
「なに?」
「筋がない。絶望的に、向いてない」
「!?」
かなり傷ついたようだ。仮にも剣術を極めんとする者が、そんな台詞を滅多に口にすべきではない。だがどうにも、その「滅多なこと」に当てはまりそうなのだった。
何という素養の無さ。並大抵の努力と熱意では、強くなれないだろう。もしかしたら、それを持ち鍛錬し続けたとしても、無理かもしれない。
はっきりと早い内に教えてあげた方が、親切だと思った。
「みっみ、見てろよ…今に片手で転がしちゃるからな!きっと、その内!」
「それまでその気持ちを、保てるかが問題だな」
「うーん…」
「…悩むのか」
思わず戒めるように呟くと、相手は転がった自分の剣をヒョイと拾い上げた。仰向けで寝そべったまま、小さな輪を描くように振り回す。
「その内強くなるさ。悔しいけど、楽しいから!」
「なんだその理屈は」
「でもキミは、ぼくが相手じゃ楽しくないか…」
残念そうな声色だった。返答の言葉を探して、夕方の空をあおぐ。
張り合いがないのは確かだ。しかし、他者に業を教えるというのは、逆に己の剣術を見つめ直す最適な方法である事を、薄々感じてきたところだった。
「そうでもない…な」
すると彼は、「本当?」と喜びいっぱいの顔で笑いかけてくる。
つまらない安請け合いをしてしまったかもしれない。
「じゃぁまた来るから、相手してくれよ!」
しかし、こんな酔狂も悪くなかろう。そう思って頷いた。
自分は楽しいのでなく、嬉しかったのだ。その時は気づかなかったけれども。
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