s o n o t a
□DOD
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ある晴れた日。
今日も今日とて、血噴き肉が飛ぶ、素敵な戦日和だった。
弱冠6歳の少年は、己がその戦場に呼ばれた事を知ると、使命に目を輝かせた。
「よしっ、ぼくがんばるよ!だから、好きになっ――」
広がる戦場は、人の海。重苦しい鎧の音を響かせ、しかし一言も発さず湧き出る兵隊たち。その数は五人や十人ではない。さらにその後ろを、白くひょろ長い姿が漂って取り囲もうとしていた。
「ってええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
幼い絶叫から数時間が経つ。
すでに事は過ぎ、戦までもが終わっていた。戦果・被害状況もろもろの報告を仰ぎ、指示を出してやる事の無くなったカイムは、兵たちが侵攻への体制を整えるのを待っていた。
暗い目で一人黙々と剣の手入れをする青年の周りに、人気は無い。ただ一体の赤いドラゴンが、並んで巨躯を構えてるのみだった。
「どうやら来たようだぞ」
脈絡無くそう告げたドラゴンの声は気だるげで、どこか呆れたような調子を含む。疑問に思うままドラゴンの見やる方へ顔を上げると、人影が三つこちらへ歩いてくる所だった。兵隊の身形でない人間はこの場において限られているので、誰なのかはすぐに合点した。
同じ契約者であり決して敵ではないが、仲間と呼べるかどうか。彼らと出会って良くない思いしかしていない彼は(この上なく苛立たせられたり、殺されそうになったり、致命的に時間を取らされたり)、つい煩わしさを募らせた。
「お休みの所申し訳ありませんが、直談判に参りました」
カイムの前にとまるなり口を開いたのは、レオナールだった。普段穏やかな男の怒っている姿は珍しかったが、カイムはその様子を淡々と見上げるだけだった。
(えらい唐突だな)
「そうでもないぞ。こやつは戦の間、始終騒いでおったわ」
呆れ声のまま、レオナールを示して言ったのはドラゴンだった。
「それは煩かった。おぬしはおぬしで、敵の頭を叩き割るのに夢中で気づかなんだろうがな」
図星だった。何を騒いだというのか、見当も付かない。「全くどこをとっても救いのない連中ばかりよ」と鼻で嗤う竜をスルーして、仕方なくレオナールの怒りをきいてやる事にした。
「君には少し、我々を召喚するタイミングを考え直してほしいのです。見てください」
そう言って彼が示したのは小さな身体をしょげさせた少年セエレだった。髪やら服やらはくたくたで何故か所々焦げてる。顔に張られた絆創膏が悲壮感たっぷりだった。
「君のせいで怪我をさせたのです!戦場の人だかりに、幼子一人を放り出すとは何事ですかっ?」
「人使い荒すぎっていってるのよ」
ぼそりと切り出したのは、アリオーシュだった。彼女は不機嫌とは程遠い、いつもの虚ろな調子のままだった。しかし奇声も上げずに普通に話す所を見ると、やはり何か言いたげなのだろう。
「いきなり呼ばれる方の身になってみなさい・・・迷惑極まりないわ」
要するに、文句を言いに来たのか。そう受け取ったカイムはつっけんどんに答えた。
(嫌なら来るな。ついでに付いて来なくなってもいいぞ)
元々、一般(?)人の彼らを軍に連れているのは、契約者としての力が戦力になるからだった。それだけでない(むしろ約一名、危険視した神官長が保護という名目で拘束してたりする)者もいるが、実際この三人は戦える。
けれどもそれに異を唱えるのなら、戦場に抱え込んでいてもしょうがない。
「そんな、違うよ・・・!僕なら大丈夫」
おろおろとした声を上げたのはセエレだった。拒絶や敵意に敏感な子どもはすっかり慌ててしまって、そばの大人二人を見上げて言う。
「喧嘩しちゃだめだよ。やっぱり止めよう?・・・二人の分もぼくが頑張るよ・・・」
「おぉぉぉ、セエレ。君は本当に優しい子ですね」 「子どもは戦場なんかで遊んじゃだめよ・・・」
とたんにそれぞれの反応を起こす大人たち。彼らは全く性質の異なる、だがどちらも常軌を逸したフィルターでもってセエレを透視しているのだった。
「心配せずとも、これは喧嘩ではありません。第一君が、危険な戦場で頑張る事などないのです」
「そうよ、危ないじゃない・・・今すぐあたしのお腹の中に入りましょうね」
(わかったから、よそでやれ)
いい加減面倒なので、そう適当に請け負った。それでお終いとばかりに、再び剣の手入れに戻ろうとする。しかし意に反して、彼に降りそそぐ怒りの言葉は止まなかった。
「戦いを拒否しているのではありません。無論、いつでもお力になりますとも」
「でも「いつでも」過ぎるわよ・・・いったい何様なの?」
「いくら契約しているとはいえ、不死になったわけではないのです。せめてこの子だけにでも、出撃のリスクを考えてあげるべきではありませんか?」
(・・・だからそう言っている)
「ふん・・・本当かしらね。あんたのスルースキルは超一流じゃない・・・」
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