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□決戦 ―FINISH―
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謝る小夜の言葉に何も返さず、優也はただ首を振った。
「優しいからな……凪は」
樹弘がぽつりと呟くように割って入った。小夜も優也も、黙って前を向く。
「あいつ毒舌だろ…?それで、もうずっと前…本気で傷ついたフリしたんだ…冗談半分で……。したらさ、すっげーオロオロして…半年くらい俺に、毒舌こなくなっちまった」
ほんとは、それくらい優しくて、気使い性なんだよ。
そう告げる背中越しの声が、ほんのかすかにくぐもった気がした。
「だから、止めたんだと思う。…どんな事になるか、分かってても…きっと凪は…人を殺そうなんて、思えないんじゃないか」
そう語る樹弘の背中を、小夜は食い入るように見つめた。
「でも、凪は……」
死んでしまった。残酷で単純な結果だけを告げれば。
「樹弘は…それでいいと思う?」
たとえ身を守るためだとしても、人を殺すのは間違っているのか。
誰かを守ることを放棄してでも、殺人は避けなきゃいけないのか。
「わたしは、違うと思う。…優しくなんて、無理だよ」
小夜は滲んだ涙を無理やり押し込めて、ずるずると凪の傍まで這い進む。腿の傷には、立って歩くよりもその方が幾分楽だった。
がさがさのシートに覆われた凪のもとへ来ると、樹弘が一度顔をこちらへ向けた。
「……おい、足は…」
「動けるよ…。ありがと」
無言が続いた。樹弘は再び俯くように目線をもとに戻し、二人並んで同じ場所を見る。
血の匂いがした。それが今ここで嗅いだものか、ずっとしていたのを今認識しただけなのか、わからなかった。
「そうなんかな、やっぱり」
樹弘はさらに俯いて、凪の遺体から顔を背けた。食いしばった歯の間から、低い唸り声がきこえる。
「おれも、優しくなったらいけないって思う。…思っちまうよ」
「…どうするつもりなんだ」
それまで押し黙っていた優也が、不安そうに翳りの含んだ声で問いかけた。
小夜は首を振って、それにすぐ答える。
「どうもしないよ。…ただ、またおんなじ目に会ったら…」
同じことを繰り返してはダメだ。
その想いは、疲弊した頭に重くのしかかった。
他の誰かと戦おうというのではない。なにも紫苑に対して報復しよう、などと考えてはいなかった。もう彼女とは、一切関わりたくない。
だけど…
「その時は、今度はちゃんと撃つから。相手が…どんな事になっても……」
樹弘や優也を、みすみす死なせてしまうくらいなら。
「殺して止める、てこと…だよな?」
樹弘はそう言って、小夜の顔をふり仰ぐ。小夜はカーディガンの裾を固く握りしめていた。その自覚もないまま、樹弘を見つめ返す。
「…もう…それしかない、よな…おれたち。いや……もともとなのか…?こんなの…」
小夜の言葉に、一人はそう呟いた。誰にも聞こえないような小さな声で「できるかな…」とこぼす。
「…………」
だがもう一人は、何も答えなかった。
【残り 9人】
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