OBR

□決戦 ―FINISH―
14ページ/15ページ









「じゃ!」と言って、ざくざく進む足音。うろたえた男子の声ー鵜飼陽平(男子3番)の声が待ったをかけている。「三好さん、あぶな……ああ、マジで行った」

修二は見つからないようにイチイの影に留まり、彼らの様子を声だけで伺った。
一人離脱し、その場に二人。どこかへ行ったと思われる三好里帆(女子18番)は恰好の標的だが、動かずにその場で待った。

「目ざわり」

そんな台詞が聞こえたからだ。まさかと思っていた都合の良すぎる事態が今、起きようとしている。

「土屋さん、な、なんで」
「見りゃ分かんだろ。消え失せろって言ってんの」

陽平の怯えて緊張した声と、土屋直実(女子9番)の冷たい声。武器でも向けられ、脅されているかのような雰囲気だ。見えないので、実際二人が何をしているのかは分からないが。

「いやっ、でも、三好さんに」
「なに真に受けてんだよ、アホ。このままいったらあたしらがどうなるかなんて、分かり切ってんだろ」

修二は少し意外に思った。土屋という不良女子は普段、クラスで最も近寄りがたい類の人物だ。クラスメイトだろうと遠慮も躊躇いもなく手にかける人間のように思えた。しかし、こうして喋っているという事は、修二が思っていたよりもモラルのある人なのかもしれない。

「あたしはこれ以上、わけの分からん他人とつるむのはごめん。あんたにしたって、そうだろ。なぁ、あたしといたいか?三好の言う通りにしてりゃ、助かるのか?」
「そ…それは」
「いい機会でしょ。サッサと消えろ」

消えろじゃなくて、消せよ。自分で。静かに頭の中でそうつっこみながら、音を立てないよう銃を手にする。

「銃に手をかけりゃ、撃つ。そのままどっか行くんなら、何もしない。穏便に済むかどうかは、あんた次第だ」
「……撃ったりなんかしない」

そう答えた陽平の狼狽えた口調が、先ほどまでより少しだけ落ち着いたものに変わっていた。
「おれだって、このままでいいのかって思ってたから……土屋さんの言う通りかもしれない。でも、三好さんは……。あの人はきっと土屋さんのこと、追いかけると思う」

ちっ、と舌打ちが聞こえる。それに重ねるように、陽平が続けた。

「そしたら、土屋さんは…その、」
「……」
「できれば、撃たないであげてくれ……。頼みます」
「…」
「それと、」
「何だよ。まだ何かあんのかよ」
「すみません……や、あの…ありがとう…一緒にいてくれて」
「ああ?」

どうやらこの二人は、まだ動かなそうだ。

修二は二人の会話を聞き流しながら、そう判断した。口ぶりから察するに二人とも銃を所持しているようだが、期待したような「穏便に済まない」展開にはならなそうだ。このままグズグズ様子見を続け里帆が戻ってきたら、好機を失うかもしれない。
そうと分かれば狙うのは、今単独で動いている里帆だ。修二は探知機で確認してから、そっとその場を離れる。

二人の会話は要するに、「里帆のいない間にずらかろう」というもののようだ。だったら、銃声を聞きつけて里帆を助けに戻ってはこないと思うが、どうだろう。クラスの顔触れや友好関係に全く興味の無かった修二には、この三者の仲良し具合を推し測るのは不可能だ。

気づかれずに離れることができた修二は、里帆のあとを音を殺して追いかける。進一の死体があった方角へ進んでいるようだ。間もなく、レンガ造りの地面を歩く足音と、情けない声の独り言を耳が拾った。

「うう……どこだろ…。場所、分かんないじゃん」

どうやら、何かを探しているようだ。不用心に一人離れてまで、何をするつもりなのだろうか。

「冷たいよ〜あの人たち……普通、ほんとに一人で行かす…?ついてきてよ……」

修二は意を決して、生垣からほんの少し覗き込む。おどおどした女子生徒が、縮こまって辺りを見回している。華奢な体つきと美しい顔立ちは庇護欲を引き立てるのだろうが、修二が気にしたのは、きちんと銃弾を当てれるだろうかという懸念だけだった。

至近距離で確実に撃ちたいが、周囲を警戒されている中これ以上は近づけない。せめて、動きを止めた時を狙おう。

里帆は地虫のような速度でじりじりと歩みを進めていたが、やがて怖気づいた子どもの様に立ち尽くすようになった。直実たちといた時の勢いは、どこかへ行ったようだ。ただひっきりなしに足元や行く先をキョロキョロして、何かを探しているのだけは明らかだった。





.

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ