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□決戦 ―FINISH―
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伸ばした手が、野ざらしで冷たくなった金属のグリップを掴む。

良かった。やっと手に入った。
安堵とも、喜びともつかない感情に促され、江口修二(男子4番)は足早にクラスメイトの死体の元へ戻った。

ほんの数分前に、その死体―日笠進一(男子14番)を見つけた修二は、真っ先に転がっていた荷物を探った。その中に銃弾の入った箱を見つけてもしやと思い、辺りの生垣を回って、見つけたのだ。生き残るには最低でも必要になるだろうとふんでいた拳銃を。
もっとも、銃さえあれば一安心、という話でもないだろう。それを持っていたにもかかわらず、こうして事切れている進一の姿が何よりの証拠だ。油断は禁物。というわけで、さっさとここから離れよう。

いつでも身を隠せるよう、イチイの木に沿って来た道を戻る。
探知機があるとはいえ、開けた中庭へ踏み込むのは恐ろしく無謀な事のように思えた。周囲は建物とその窓に囲まれていて、どこから狙い撃ちされてもおかしくない。しかし今の所、そんな目にはあっていない。ラッキーだ。思い切って行動した甲斐があった。

チラと確認した探知機の画面に、白い点滅が映ったのはそんな時だった。

歩みを止めて、画面に集中する。中央の青い点は自分を現しており、そこから一定距離内に誰かが入り込めば、白い点として表示される。この探知機はそういう機械だった。
修二はその白い点が異様に大きいことに当惑したが、よくよく注視するとそれは、三つの点が重なって大きく見えているのだと気がついた。誰かさんたちは、修二のいる地点とは明後日の方向へ移動している。

三人。銃があっても、たった一人で相手にするのは荷が重い。

やるなら不意打ちで…だが、もはや上手くいく自信がない。すでにそれを行って、成功したのは最初に出会った野沢頼春(男子13番)一人きり。あとの二度は、どれも失敗していた。藤岡圭太(男子15番)と高原乃慧(女子7番)は戦意を持っておらず、鎌城康介(男子6番)は一人しかいなかったから、何とかなった。
しかし今度は三人だ。また途中で見つかれば最期、同じように切り抜けられやしないだろう。せめて、散らして一人ずつ相手にしたいが、そんな方法は思いつかなかった。

普通に考えれば、スルーが妥当だ。修二は画面の端に向かって流れていく点を見つめながら思った。

しかし、今見えなくなろうとしている点は、自分が生きて帰るための希望でもあった。しのごの言わず真っ先に追いかけて、消し去りたかった。こんなだから藤岡や高原の時も、鎌城の時もあっさりバレまくったのだろうか。ふとそんな思いが浮かんだ。

修二はじっと耳をすます。声は聞こえてこない。距離や、点三つの進行方向からして、修二に気づいていない可能性が高かった。
探知機から判明するのは、相手の位置だけ。その人物が誰で、どんな状態でいるのかまでは分からない。ひょっとすれば、三人ともろくな武器を持っていないかもしれないし、あるいわ、満身創痍で迎撃できない状態かもしれない。
そんな絶好のチャンスをみすみす逃してしまうくらいなら、危険でも無謀でも、確かめるくらいはしたい。

迷いに迷った挙句、修二は点の塊へ向かった。足音を立てないよう注意しながら歩く。
鎌城の時みたいに深追いしなければいい。相手が健康で、協力体制を築いてる三人衆なら、即座に立ち去る。仲たがいでも起こして分裂してくれるのなら、これ以上ない好機だ。流石にそんな都合のいい事は起こらないだろうけど。

「どうしてあんな、ひどい言い方しちゃうのよ!もうちょっとさぁ、オブラートに言えないの?」
「あ?」
「…つ、包んで」
「態度悪い!いやもう、そんなレベルじゃないよね?あたしらみたいな元気な人にはいいよ?でも、あんなひどい怪我して、落ち込んでる人に向かってよく平気であんな言葉かけられるよね」
「思ったこと言っただけだし。態度良くなぐさめて何になんだよ」

やがて聞こえてきたのは、遠くからのかすかな声。言い争いだ。しかし険悪というよりは、遠慮のないどこか暢気な空気だ。満身創痍ではない、女子二人と男子一人。

――だめか。

「ほら、行かねーのかよ。お弔い。さっさと行けば?」
「なによ、言われなくたって行ってきますよ!ちゃんと待っててね!」
「知るか」
「鵜飼くん、この人ちゃんと見ててね!スグ追っかけるから」
「え、俺…、えっ!?」


――あ、本当に別れた。





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