OBR

□終盤戦
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確かに彼は人を殺した。クラスの女子を撃ってしまった。でも、ここにいる三人の命を救ったのだ。彼の行いは正しくはないかもしれないけど……醜くなんかない。陽平は命の恩人だ。
けれど、自分はどうだ?

「でもあたしは…なんにも………ただ死ぬのが怖くて…嫌だからって……人を殺そうとした…!醜いだけで、誰も助けてない……何もしてない…最低だこんなの」
「構ってちゃんかよ、めんどくさ…しかも、意味わかんない」

うんざりと首を振って、直実は話を遮った。
「そんな事どうでもいいけど、こっちは足が痛い。めっちゃ痛いよ……一番の最低人間は、佐藤のばかだ」

直実は里帆を見た。夜の暗闇に浮かぶその表情は、今まで一度も見たことのないものだった。その顔で、ぽつりと彼女は言う。

「―お前、何であたしを庇ったりしたの?」

え…?
里帆はきょとんとして、直美をまじまじと見た。

「だ…だって、あのままじゃ……死んじゃうって、思ったから…」

直実が不意に言い出したのは、千夏襲撃の際のことだとわかった。千夏に向かって発砲しようとした直実が、逆に撃たれた。床に突っ伏して、身を守る術がひとつもなくなった。落とした銃を拾おうとする素振りすらなかったのだ。きっと、傷が痛くてそれどころで無かったんだろう。
撃たれてしまう……助けないと。とっさにそう思っただけ。何で?、と聞かれるような理由は特に無かった。

言葉のやり取りが途絶え、その場がしーんとなる。
苛立ちと怒りの表情しか浮かばなかった直実は、やはりそのどっちでもないような顔をしていた。どこか困ったような。何故か気まずげに。

「……あっそう」
直実はそう呟くと背を向けて、再びヒョコヒョコ歩きはじめた。

その影を見て、さっきとは違った種類の涙が溢れてくるのを感じた。己の醜さに絶望しきった、ぬるい涙でない。何故かそれとは逆で、心の底からホッと安堵させるような、よくわからないものだった。里帆は一層激しく嗚咽をこぼしていた。

「だ、大丈夫?」
「……ひっく…うん…うん」

遠慮がちな陽平の声に、里帆は頷いた。
あの時は頼もしさすら感じた陽平だが、今目の前にいるのは、普段のあまりパッとしない彼であった。

「あの、ごめんね……ひっ……ひっ…あり、ありがとう……ぐひっ…助けて、くれ…ひっく」
「え……うん。こっちこそ…ありがとう」
「ううぅ……行こ…一緒に…ひっ…置いて、かれちゃう」
「え?いや……でも、」

陽平は困惑しているようだった。躊躇うように突っ立ったまま、里帆を見おろしている。

「一緒に…?だって俺、佐藤さん……」
「なに、言ってんの?……ひぎっ…怪我した…女の子、ほっとく…つもり…?」
「……ってかあの、今更だけど俺、付いてくつもりでなくて…」

モゴモゴと最後の方は尻切れとんぼになってく。里帆は涙をぬぐって、陽平の袖を引っ張った。

「いいから…ひっ…肩かして、あげなさいよ……!男の子、でしょ」

嗚咽をこぼしながら、陽平を叱りながら、里帆は再び廊下を歩きだす。
間もなく三人は、北東校舎から正面校舎へとぬけようとしていた。







【残り 25人】








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