OBR

□終盤戦
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想像していた筈だった。今にも彼女の死体を見つけるかもしれない、と。

その他にも、ああでもないこうでもないと色々考えまくっていた。彼女は恐くて泣いてるだろうか。彼女はやる気になって誰かを殺しているだろうか。自分に会ったら、どんな反応をするだろうか。

警戒されて、逃げられるかも。あるいわ、話を聞いてくれるかも。

そうして、名取準(男子12番)が迎えた現実はこれだった。

死んだ横森真紀(女子20番)の手が、自分の指先を握ったまま冷たく硬直している。準はひたすらそれを見つめていた。彼女の死を看取ってからもう数分か、数時間かも分からなかった。

看取ったというより、たまたま見つけただけだ。歩いてた先で銃声がし、慎重に近づいて目の当たりにしたのが死にかけた彼女だった。

やはり、こうなってしまった。
何もしてあげられなかった。

そんな虚しさが、準の胸に渦巻いていた。
助けを必用としてる時、自分はただ検討違いの所をあるいてたのだ。なんという無駄だろう。どうしてもっとはやく見つけてあげれなかったんだろう。

真紀と交わした短い会話から、彼女がこのプログラムにやる気を持っていなかった事が窺えた。頭の片隅で「もしかして」という思いがあったことに呵責を覚える。

こんなところを抜け出して、死にたかった。
真紀はそう言った。それほどまでに、このプログラムを疎んでいたのだ。

そもそも、無事な真紀を見つけた所で彼女を救えたのかというと、決してそうではない。
身を呈して守れたかもしれないが、そんな度胸が自分にあるか疑わしい。自分が居たところで、真紀には何の希望もないままだ。

はじめから、無駄じゃないか。
ひとつも意味の無い事だった。

それが虚しさに拍車をかける。もう死んでしまった真紀には、何もしてあげられない。

脱け殻のように呆けている間にも、すぐ近くで繰り返し銃声が上がった。それはただの銃ではなくマシンガンによるものだと分かったが、全く関心を寄せなかった。

これから、どうすればいいんだろう。
唯一の目的は潰えた。もう、したい事もやるべき事も残ってない。いや。あったとしても、そんな気力が沸くかどうか。

ズダダダダッと獰猛な機械音が、またもや鳴り響く。そのでかい音が煩わしくて、準は眉をひそめた。自分がいつもの頭痛に苛まれていたのを、それでようやく気がついた。

「うるさいな…」

まだやってるのか。みんなはこんな殺し合いを、まだ続けようってのか。

止めろと割ってはいる勇気も気力も、準にはなかった。ただ、うんざりだと思った。

―嫌だな。もう、こんな所にいたくないな…

そう思った時、はっと気がついて準は真紀の後頭部へ視線を移した。彼女の言葉を思い出す。


―ほんとはね…かっこよく……潔く、死にたかったの…。こんなとこ、抜け出して


真紀も、そうだったんだろうか。プログラムという現実が嫌で、そんな現実にい続けるくらいなら…と。

自分は真紀に会いたかったから、その台詞はショックだった。頭ごなしに否定してしまった。
けれど今になって、その言葉が違う重みをもって胸を刺す。

自分だって、嫌だ。生き残る為に誰かを殺すのも、その巻き添えをくらって殺されるのも。これ以上、こんなものに関わっていたくない。

死にたかったのだ、と彼女は言った。怖くてできなかったとも。

そうやってここから出ることが、真紀の「やりたかったこと」と言っていた。

―できるよ。

頭痛と無力感に満ちた頭に、真紀の声が甦った。

そうか。まだできる。
良かった。まだおれにはやりたい事が残ってた。

準は真紀の手をやっと握り返して、反対の手で彼女を引き起こす。









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