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□終盤戦
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能登谷紫苑(女子11番)は、渡辺凪(女子21番)が息を引き取ったのを悟った。凪に寄り添う矢部樹弘(男子19番)・菅野優也(男子8番)・南小夜(女子17番)の取り乱した様子が、その死を告げていた。

不意打ちを成功させるまでは良かった。そのままマシンガンを持っている優也をしとめようとしたが、折り悪く弾切れを起こし、叶わなかった。あまりの切迫した状態に、弾の残数を失念していた。
3人は今、誰一人紫苑に注意を払っていない。絶好の機会だった。それなのに、と紫苑は己の抜かり具合に恥じ入った。

紫苑はその後ろ向きな気持ちを振り払い、即座に思考を回す。梶原亮(男子5番)から手に入れた銃は、凪たちの傍にあって回収できない。唯一手にある武器は弾切れで使えない。一方で未だにマシンガンの脅威が消えない相手。これでどうやって勝つ?

とっさに思い出したのは、ガレージに残された自分の支給カバンだった。
今のうちに弾を補給しに戻る。

そう結論をだした紫苑は、ゆっくり膝をついて身を起こす。少しの身動きにも、右腕の傷からひどい激痛が返ってくる。それに耐えて立ち上がり、小走りで駆け出した。
汗が噴出すほどの強い痛みに、一瞬視界が暗くなる。それで紫苑はようやく自分の負傷を確認した。右手から人差し指が消えているのに気がついて、息をのんだ。足を止めそうになる。

―いいえ、これしき。指の一本じゃない。
紫苑はとっさにそう鼓舞した。命に関わるような重症ではない。ましてや、戦いは続けられる。まだ勝負は付いていないのだから、怖がっている場合じゃない。そうじゃなきゃ、指どころか命をなくした凪に対して失礼だ。

ガレージからはそう離れていない筈なのに、紫苑はひどく長い距離を走っているように感じられた。しかし、3人が紫苑に気づいて追ってくる様子はない。それ自体はありがたかったものの、紫苑には理解できなかった。

みんなは何故、そんなにこれを拒むのだろう。

確かに、人命をむやみやたらと奪うのは悪だ。でもこれは国が取り決めた名誉ある戦場で、そのルールが殺人というだけだ。政府が認めているのだから、決して悪ではない。
だから、頑張るのは当然なのに。どうして皆、逃げることばかり、戦わないことばかり考えるのだろう。

荒い息を抱えながら、ガレージにたどり着いた。先ほど飛び出していったままで、ドアは開け放たれている。今一度後ろを振り返ると、3人はまだ向こうで座り込んでいた。それを確認しつつ、中へ入る。

紫苑は、教室での彼らの姿を思い浮かべた。胸が痛まないわけではない。
あれだけ無防備になっているのも構わずに、彼らは友人の死を惜しんでいる。自分には理解できずとも、彼らにとっては友情が何よりも上回るのだ。そんな彼らの元へ再び戦いを仕掛けないといけない。気が進まないが、これはやらねばならない事だ。

―戻ったら、すぐに攻撃するのではなく、お別れを言う時間をつくってあげよう。
紫苑は、車体の並ぶ周囲を警戒して静かに足を運びながら、そう思いついた。どうせ仕切りなおしなのだから、それくらいしてあげられる筈だ。
きちんとお別れをすれば、彼らだって落ち着いて戦う気になってくれるだろう。

砂埃だらけの床に、時折飛び散った血痕が現れる。それを伝ってくと、紫苑は自分のカバンのある場所を見つけた。更に足を忍ばせて辺りを窺うも、横森真紀(女子20番)が横たわっていた所は無人だ。大きく引きずったような血の跡が、別の出入り口へと伸びているのだけが見えた。おそらく彼女の物と思われる支給カバンも置き去りだ。

「…そとに、出たのね」

紫苑は片手で何とか予備の弾丸を取り出しながら、ひとりごちた。
残された大量の血痕から、きっと遠くへはいけないだろうと予想がつく。追いかけて確認をすべきか、それとも、今はあの3人を相手にするべきか。少し悩んだが、紫苑は今にもここへ訪れるかもしれないマシンガンの脅威を重視した。




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